17 両想い
文章量多くてすみません;;
ブーン ブーン
ケータイのマナー音で目を覚ます。特に相手を確認することもなく玉木有子は電話に出た。
「もしもし」
『有子?あんた今どこにいるの?』
電話の相手は母だった。どこと言われても自分でもどこにいるのかわからないので、適当に生返事をする。
『今電話がかかってきたの。黒沢さんから、正式にお見合いをお断りしたいって。ちゃんと言ったのよね?』
「あぁぁ・・・あっ!」
ようやく今日の出来事を思い出してはっとする。そうだ、確か黒沢はおじいさんが病気だと言っていたはずだ。
慌てて電話を切って周りを見渡すが、部屋の中には誰もいなかった。
「黒沢君!・・・・・いないの?」
時間からして自分が寝ていたのはどうやら10分くらいのようだ。それなのにどうして黒沢はいないのだろうか。それよりもなぜ寝てしまったのだろうか。
混乱する頭で部屋の窓から顔を出す。黒沢がいないかどうか捜すためだったが、玉木は思いもよらない人物を見ることになる。
「菅沼先生・・?」
慌てて克也のケータイに電話してそこで待つように促し、玉木は部屋を飛び出した。
状況は全く理解できないが、ここに克也がいることは確かだ。とにかく手紙だけでなく、自分の言葉で謝らなければいけないと思った。
「菅沼先生」
玉木を待っていてくれた克也はいつものように優しい表情で出迎えてくれた。彼を見ると、ますます罪悪感が胸に広がる。
2人は少し歩きながら話すことにした。玉木はもう覚悟ができていた。ここで自分の恋が終わることを・・・
「私・・・クリスマスイブの日、小学生のときの初恋の男の子とお見合いをしていました。黙っていてごめんなさい・・・・・」
克也は答えない。無言が怒っているというサインなのかもしれない。
「菅沼先生は大人だけど、私はまだ子供でした。待ってくれた先生のことなんて考えずに自分のことしか考えませんでした・・・・・」
言い訳をするつもりなんて全くなかった。ここでそれは見苦しいことのように思えたからだ。
あいかわらず克也は答えないが、やがて口を開いたかと思うと、それは玉木にとって意外な言葉だった。
「俺は大人なんかじゃないです・・・言わせてもらいますけど、イブの日、どうしてちゃんと連絡してくれなかったんですか」
「え・・・・?留守電に入れましたけど・・・それに新幹線の中でケータイの電池が切れちゃって」
「あんな留守電の説明じゃぁよくわかんないよ。それに、中途半端に待ってたらいろいろなこと考えて・・・頭半分で玉木先生になんかあったんじゃないかって思ったし、もう半分で約束をすっぽかされたことすげーショックだったし」
玉木は目をぱちくりとしながら早口で話す克也のことを見た。普段は聞くことがない克也の本音を聞いたような気がした。
「俺だけ楽しみにしてたのかなって思ったら・・・・・なんか・・もー・・・」
「私だってすごく楽しみだったんです・・・だけど、もし電話したら約束がなしになしになるような気がして」
「なしになんてしない。っていうか、補講がない日にまた誘うよ。好きな人との初デートだったから」
今なんて・・・?好きな人・・・・・?
さらりと告白されたような気がしたが、さすがに何かの聞き間違いかと思ってそのまま固まる。
「もし・・・」
克也の言葉にはっとして顔を上げる。彼は歩きながら玉木を見ていた。
「もし玉木先生がそのお見合い相手のことが好きなら、俺の言ったことは忘れてください。時間かかるけど、先生を好きでもちゃんと普通に話せるように努力します」
少しだけ悲しそうな表情で言い放つ克也を見て、玉木は何も考えることなく言った。
「違います!私・・・私もずっと菅沼先生のこと・・好きでした・・・・」
心臓が今にも爆発しそうだ。どくんどくんと脈打つのがわかる。
やがて克也が優しく微笑んで小さく頷いた。
2人は自然に手を繋いで歩き出した。
▽
「もしかして有子の彼氏!?」
玉木有子が実家に克也を連れて行くと、家にいたのは母と直子だけだった。玄関で出迎えてくれた瞬間、母はすぐに察して声をあげた。
「えっ?お姉ちゃんの彼氏!?」
母の声を聞きつけた直子が2階からドタバタと降りてくる。そして、克也を見て一瞬呆けた後、頬を赤くしていく。
「・・っと、有子さんとおつきあいをさせていただいてる菅沼克也といいます。よろしくお願いします」
よくわからない敬語を使ってぺこりと頭を下げる克也。元々ここへ行きたいと言ったのは克也だったが、やっぱり緊張感は並大抵のものではないらしい。玉木もさっきから緊張しっぱなしだった。
と、そのとき、直子に腕を引っ張られて玉木はリビングのほうへ追いやられた。
「なに・・・?」
「めっちゃかっこいいじゃん!漁師と七福神と自由の女神が合体したような人なんじゃないの!?」
直子の興奮具合はすごいものだった。
「うん。でも、よく見たらそんなに似てないね。菅沼先生のほうがかっこいいな」
げんなりとする直子に気づかずに、玉木は玄関に戻る。ちょうど母に言われて家にあがるところだった克也は心底緊張しているように見えた。
「お父さんは?」
「奥にいるよ」
答えた母の声で一層緊張する克也。たぶん克也は今恐ろしい父を考えているんだろうなぁと玉木には手に取るようにわかった。
「よっ!いらっしゃーい!」
誰のモノマネだ、とつっこみたくなるような父の出迎え方だった。たぶん状況に合わせてそれをやったんだろうが、あまりの寒さに玉木のほうが恥ずかしくなってしまった。
しかし、克也はイントネーションだけ真似して、
「お邪魔しまーす!」
ノリのいい人が好きな父はそれだけでハイテンションになった。
30分後、家は宴会場になる。
玉木はまた酔うのが嫌だったので、父に勧められても断り続けたが、克也はがぶがぶと飲んでいる。一瞬、夏休みのバーベキューのことを思い出してしまい、大丈夫だろうかと心配になってしまった。
「いや〜克也君のような人がおるんやったら、有子は幸せ者や!どうか幸せにしてやってな!」
まるで結婚のことを言っているようで玉木は慌てた。
「すっ菅沼先生、ちょっとベランダにでも出ませんか?」
半ば強引に父から克也を離し、2階のベランダへと向かっていく。
ベランダに出ると、空には綺麗な星が広がっていた。そういえば、今日は大晦日だ。
「あと5分」
「えっ?なんですか?」
「あと5分で新年。俺の時計、電波なんで正確なんです」
克也は左手首の腕時計を示した。確かに、あと5分ちょっとで新年を迎えることになる。
いろいろあった。嬉しいことも楽しいことも、悲しいこともあった。だけど、最後にこんなに幸せになった。
「今の俺の願いは、生徒がみんな希望する進路に進むことですけど・・・・・桜が咲いたら花見にでも行きませんか?」
生徒のことを第一に考えるところが克也らしい。玉木は苦笑して頷いた。
と、そのとき、いつのまにいたのか直子が部屋の中からにやにやとこっちを見ているのがわかった。酔っているためか、顔が赤い。
「あっやし〜!キスでもしてたん?」
絶対酔ってる。玉木が真っ赤になって反論しようとしたとき、克也が先に答えた。
「3分以内に奪うつもり」
心臓が圧迫される。玉木は耳から煙が出てきそうなほど驚いた。
カウントダウンが始まる。
残り10秒。克也は玉木の頬に触れた。
残り5秒。ゆっくりと顔を近づけていく。
残り1秒。互いの唇が少し触れる。
ゼロ。その寸前で唇は完全に重なっていた。
「あけましておめでとう」
またややこしいことが起こると思いますが、
とりあえずひと段落つきました。
次回も期待なく読んでくれれば嬉しいです。