15 ここはどこ?
今回はいつもよりは短めです。
あんまり進展しなくてすいません…
弘樹の姉、亜紀が結婚するという事実を菅沼克也が知ったのは、高校3年生のときだった。
当時、亜紀は19歳で大学2年生。バイト先で知り合った25歳の男性と結婚することになった。
「ウソだろ!?結婚なんて・・・!!」
まくしたてるような剣幕で亜紀に詰め寄っても、彼女は苦しそうな表情で俯いているだけだった。
「なんでだよ・・・まだ早すぎるだろ・・」
「今結婚しないと、修一さんとずっと会えなくなっちゃうの。だから・・・もう、決めたことだから」
「だからって・・・・・・」
思わずぐいっと亜紀の腕を掴むと、彼女が痛そうに顔を歪めたのがわかった。
「あっ・・・ごめっ・・・・」
「もうほっといてよ!かっちゃんには関係ないでしょ!!」
「関係なくない!!お前が好きだんだよ!!!」
かっとなって言ってしまった言葉。長い間ずっと心に秘めていて言えなかった言葉。今さら遅すぎた言葉。
「遅いよぉ・・・」
両手で顔を覆って泣き出す亜紀。克也はいたたまれなくなってその場から2,3歩後ずさった。
「ごめん・・・もう言わないから。明日からはちゃんといつもどおりの幼なじみとして接するから。だから・・・・・もう泣くなよ・・・・頼むからさ」
泣きたいのは克也のほうだ。
見たくない・・・俺はただ・・亜紀の笑顔が好きだっただけだ。こんなふうに泣かせたかったわけじゃない。
「じゃぁな。結婚式には呼べよな・・・」
それが精一杯のかっこつけた言葉だった。そう言って去るしかなかった。
「・・・かっちゃんはそれでいいの?」
亜紀の言葉に答えることができなかった。
▽
「・・・・ちゃん・・・お兄ちゃん!」
誰かの声にはっとしたとき、克也は自分が家にいることに気づいた。顔を上げると、自分のベッドの前に仁王立ちしている唯の姿があった。
「なんだ・・・唯か」
「なんだとはないでしょ。お客さんだよ」
「お客さん・・・?」
12月31日の午前、特にすることもなく部屋でぼーっとしていたが、唯に言われて渋々玄関まで出て行く。しかし、そこには誰もいなかった。
「誰もいないじゃん」
家の中に入って唯に文句を言うと、彼女は心底不思議そうな表情で顔を傾ける。
「え?だって来たよ?ロングヘアーの細身の女の人」
「えっ・・・?」
たったそれだけの情報である人物を頭に浮かべた。急いで玄関に戻ってみてもやっぱり誰もいなかったが、郵便受けに克也宛の黄色い封筒が入っていることがわかった。
克也は焦る気持ちを抑えて封筒を開ける。
「どこ行くの!?」
財布とコートを取りに来て、そのまま出かけようとする克也を唯が驚いて尋ねる。
「大阪!」
答えながらコートを羽織る。後先なんて考えずに。もうあのときのような想いをしないために。
▽
同じ頃、地元大阪の実家で、玉木有子は母と妹の直子と一緒に題して家族会議というものを行っていた。
「つまり・・・まとめると、有子には好きな人がいて、それは黒沢君じゃないのね」
「そう・・なの。だから、このお見合いはどうしても受けられない」
はっきりと自分の意思を伝えると、意外にも母はすんなりとそれを理解したようで、
「そうねぇ・・・さすがに勝手にお見合いなんてひどすぎるとは思っていたのよ」
「っていうか、お姉ちゃんの好きな人ってどんな人?」
興味津々な様子で尋ねる直子。
「どんなって・・・・・漁師さんみたいにかっこよくて、七福神さんみたいに優しくて、自由の女神みたいに笑う人・・・かな?」
「はっ!?」
照れくさそうに話す玉木の一方で、そのときの直子の想像した人物像は恐ろしいものになっていた。しかし、母はにっこりと笑いながら、
「すごくいい人そうね」
「でしょ?」
「どこが!?おかしいでしょ!」
「わかった。お父さんには私から言っておく。でも・・・黒沢さんは・・・」
ようやく話の核心になって、玉木は黙り込む。それはずっと考えていたことだ。母の話を聞くと、玉木の父と黒沢の父が話している最中にそんな話になったらしい。いくら本人が知らなかったとはいえ、迷惑をかけたことに変わりはない。
「それは・・・私が言う」
克也が自分を好きにならないことはわかっている。だけど、それでもケジメをつけたかった。
そして、そのケジメをつけるために取った行動が、酒を飲むことだった。もちろん、酒に弱い玉木がそれを行うことによってもたらす結果が良いものだとは限らない。
そんな状態で、玉木は黒沢と会った。
「ごめん。大丈夫だから、行こうか」
「あ・・・うん」
中途半端に酔ったようだ。玉木は関西弁が出ない代わりに思考能力が低下していた。足元がくらくらする中、なんとか歩くことに集中する。
「玉木、大丈夫?ちょっとどっかで休もうか?」
「平気です・・・・・ちょっと休めば・・・」
大丈夫と言いつつ、休みたいという玉木の意見を理解し、休む所を探した。そして、彼が見つけた所は・・・・・
「2名様のご宿泊でよろしかったですか?」
「はい。おねがいします」
眠たくてここがどこだかわからない。微妙な意識のまま玉木は周囲を見渡す。どこかのホテルのロビーのようだ。
フロントから黒沢が戻ってきて、エレベーターに行くように促される。
ここがどこかもわからないまま―
今まで少しだけ登場したとあるキャラクターが
気がついたらいなくなっていました。
別に忘れてたわけではなく、これから
また面倒なことを持ってくると思うんですが……
その前にひと段落つくでしょう…