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年上の彼女  作者:
10/26

10 やまない雨

 ここはどこだろう・・・

 それが、目を覚ました玉木有子の最初の感想だった。

 頭が痛い。なんでこんなに頭がいたいんだろう。昨日何があったんだっけ?とにかく、思い出さなきゃ・・・・・


 学校の当直だった→終わってから菅沼先生の家へ行く→先生とビールを飲む→???


 思い出せない。何か話した記憶があるが、内容を綺麗に忘れていた。何か失礼なことをやっていないだろうかと不安になったが、それよりも問題なのが記憶がなくなるほど飲んだという事実だった。

 玉木は酔うと説教くさくなるとよく言われるが、どうも古くさい関西弁で相手を怒鳴る傾向があるらしい。

 と、そのとき、遠慮がちに部屋のドアが開かれた。

「あ・・よかった。物音がしたから起きたかなって思ったんです」

 克也だった。予想外の展開にあたふたしながら意味もなく服装を整えると、克也は苦笑して部屋に入ってくる。そういえばこの部屋は克也の匂いがする。ひょっとしてベッドを占領したのかもしれない。

「すすすすいません!ベッドを占領してしまって!」

「いえ。大丈夫ですよ」

 明るく笑う克也を見て、玉木は昨日のことが気になってしまった。

「あの・・・昨日、私何かしました・・・?」

「・・・昨日のこと覚えてませんか?」

 その質問返しに玉木の中で、ある方程式が妄想によって作り出された。


 昨日菅沼先生とビールを飲む→酔ってふらついた自分を先生が介抱→朝まで泊まる!


 しかし、その方程式は次の克也の一言で崩れることになる。

「先生の関西弁初めて聞きました」

 全てを思い出して、玉木は頭を抱えてしまった。


 一緒にビールを飲む→先生の失恋話を聞く→関西弁で説教する→その場で寝る


 最低だ・・・!なんてことをしたんだと昨日の自分に問いかける。今さら後悔しても遅すぎたが。


          ▽


 同じ頃、二日酔いで目が覚めた成瀬弘樹は、心臓が脈打つ度に痛む頭を押さえながらリビングへと下りてきた。

「おはよう」

 すでに起きていた姉の亜紀が朝ごはんを用意してくれる。ごはんと味噌汁、目玉焼き、それと亜紀の作ったサラダだ。

 亜紀が帰ってきたのは一昨日のこと。元々お盆前に帰ってくるとは聞いていたが、まさか1人で帰ってくるなんて思わなかった。そこらへんの事情を両親は知っているらしいが、弘樹には聞かされなかった。だから、今でも気になる。旦那はどうしたのかと。

「俺昨日どうやって帰ってきたんだっけ?全然覚えてないや」

「未成年なのにお酒なんて飲むからだよ。なんで飲んだの?」

「あぁー・・いや」

 言葉を濁して弘樹は黙り込む。昨日のことを思い出して、痛む頭を押さえる。

 雲行きが怪しい。今日は雨が降るかもしれない。

 ケータイの着信が鳴ったのはそのときだった。



『よぉ!俺のビールを勝手に飲んだひーろき君』

 電話の相手は克也だった。朝からハイテンションな男にこめかみを押さえたが、決して否定できないのが悔しい。

「朝っぱらからなんだよ。用があるんだったら手短にしろよ」

『じゃぁ手短に。お前、昨日唯となんかあった?』

 そのストレートな物言いにさすがに弘樹は言葉に詰まってしまった。不自然な間の後、

「いや、別に。唯がなんか言ってた?」

『言ってないけど、見てりゃぁわかるよ。俺だけじゃなくて坂井もな。あいつ途中で帰っただろ』

「あ・・・」

 ここにきて、ようやく真琴の存在を思い出した。昨日は真琴話している最中に唯を見つけて追いかけていったんだ。あの後、すっかり彼女の存在を忘れてしまった。

 バーベキューに来たかったと言った真琴の笑顔を思い出して、弘樹は申し訳なく思った。

「ケータイの番号知ってる?話したいことがあるんだけど・・・」

 克也との電話を切った後、教えてもらった真琴の番号でケータイをかけてみる。こんなに緊張した電話は生まれて初めてだった。



『なに?』

 仕事中だったらどうしようかと思ったが、意外にもあっさりと電話に出てくれた。しかし、相手が弘樹だとわかると明らかに不機嫌になった。

「あのさ・・・昨日はごめん。途中で抜けてっちゃってさ」

『別に気にしてないよ。それじゃぁ』

 今すぐにでも切られそうだったので、慌ててそれを止めた。すごく怒ってるのかもしれない。

「ごはん食べに行こうって約束したよね!?今度いつ空いてる?」

『・・・・・・今日しかない』

「じゃぁ、今日の午後7時って大丈夫?高校近くの時計塔に集合はどう?」

『・・・・・うん』

「じゃぁその時間に・・・」

 約束を取り付けられてほっとした・・・が、

『行かない』

 その言葉と同時に電話が切られた。弘樹が次の言葉を発するより前に、電話の機械音が耳に響いた。


          ▽


 菅沼克也が弘樹との電話を終えたとき、玄関で物音がしたことに気づいた。行ってみると、玉木が自分の靴を履こうと悪戦苦闘していた。

「もう帰るんですか!?」

 思わず叫んだ言葉がそれだった。克也は自分の言葉に驚きながらも、表情には出さずに玉木の傍へ寄る。

「はい。ご迷惑をおかけしました・・・!」

 自分が酔って説教をしたことを後悔しているのだろう。それがわかって克也は苦笑した。

「昨日のことは気にしないでください。俺だって愚痴っちゃったんだし。いろいろとすっきりしました」

 そこまで言って昨日の玉木を思い出す。それが顔に出たのか、玉木が苦い顔で俯いてしまった。

「今でも好きなんですか?」

 呟かれた玉木の声はとても小さかったが、克也にはちゃんと聞き取れた。

 だから、答えることができなかった。本人でさえわからなかったから―・・・


          ▽


 午後になるといよいよ空が暗くなり、もうすぐ雨が降り出しそうだった。

 真琴には行かないと言われてしまったが、弘樹は行くことを選んだ。いや、行きたかったんだ。

「出かけるの?雨降りそうだよ」

「大丈夫。帰りはちょっと遅くなるかも」

 亜紀に一言伝えてから弘樹は家を飛び出す。駅に向かう途中、傘を持ってこなかった自分を後悔したが、今さら戻る気にもならなかった。

 雨が降り出したのは6時過ぎだった。その頃にはすでに時計塔の前に到着していた。

 雨宿りすることなく待ち続けた。

 だけど、時間になっても真琴は来なかった。



 雨は時間を追うごとに強くなっていった。聞こえる音は雨しかない。

 時刻は10時をまわっている。

 その頃には弘樹は小さくうずくまって小さくなっていた。

 ザァァァァ・・・・・

 雨音のノイズ。

「ヒロ君?」

 ノイズに混じったその声は弘樹にとって聞き覚えがあった。ゆっくりとした動作で顔を上げると、いるはずのない人物がそこに立っていた。

「・・・唯?」


          ▽


 坂井真琴が仕事を終えたのは、午後9時過ぎだった。雨が降ったせいで撮影が遅くなってしまい、マネージャーに頼んで慌てて車を走らせてもらう。

 雨がひどくなっていく。もう待っていないかもしれないが、それでも待ち合わせ場所へ向かうことを選んだ。

 しかし、弘樹のケータイにかけてみたが、弘樹は出なかった。

「でも真琴がデートなんてね〜。スキャンダルには気をつけてよ」

 その境遇を面白がるようにマネージャーがひやかしてくる。

「そんなんじゃないです・・あっ!ここでいいです」

 時計塔が近くなってきた。後部座席に置いてあった傘を掴んで飛び出していく。人影が見えたから自然とスピードも速くなる。

 だけど、そのスピードはだんだん遅くなってついに停まってしまった。

 動くことができなかった。

 弘樹が知らない女の人・・たぶんこないだのバーベキューのときにいた人に抱きしめられているのを見てから―・・・・・

まわりくどい展開ですね〜……

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