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ネトゲをマクロで俺つえええしたかっただけなんだ...

作者: うみ

俺はマクロでトップになる!


 ドラゴンバスターオンラインは、アクションゲームの大手と生活型ほのぼのRPGゲーム大手がタッグを組んで制作された大作MMORPGである。

 高いアクション性が求められる狩りと、非常にカスタマイズ性の高いハウスシステムや生活感を出す生産スキル、クエスト、釣りなどあらゆることが楽しめるゲームとして世に発表された。

 狩り以外の部分でできることが多いとは言え、やはりMMORPGの華は狩りで、ドラゴンバスターオンラインでも例に漏れず狩りこそが主流であることに変わりはなかった。

 

 最近のネットゲームには珍しく、1アカウントで1キャラクターしか作成できないゲームであったが、レベルがなく、ステータスは一定でスキルはあるにはあるがいくつでも取得でき、最大値まで上げるのもそう時間がかかるものではなかったので、誰しもキャラクター自体のスペックはほとんど同じであった。


 ではどこで差が付くのかというと、武器と防具である。

 武器と防具は鍛冶スキルで作成することができるが、素材集めが大変で、鉱山から鉱石を取ってきたり、山から虫を採取してきたり、おつかいクエストをこなしたり、モンスターから剥ぎ取りをしたり...と多岐に渡っている。

 ただ、より強力な武器を作るにはやはり強いモンスターを倒さなくては作成できないシステムになっている。

 

 ここに、ドラゴンバスターでトッププレイヤーを目指す一人の悲しい男を紹介しよう。彼の名前は竜二。ある零細企業で働く青年で、ゲームは好きだがどのゲームでもそこそこ止まりの腕を持つ。

 彼はなんとしてもトッププレイヤーになりたかった。ドラゴンバスターでトッププレイヤーは二種類いる。

 一部プレイヤーから傭兵と呼ばれる、プレイ時間はそこそこであるがキャラクターの操作技術...プレイヤースキルと言われるものが超絶で、プレイヤースキルがそこそこであるがプレイ時間が長く装備をある程度の揃えることができるプレイヤーから装備を借りて、超難易度のボスをソロで倒してしまう人たち。

 ドラゴンバスターでは、装備が5割、プレイヤースキルが5割とプレイヤーたちには認識されており、実際どれだけいい装備を持っていても、プレイヤースキルが全くダメなら中級のボスにも勝てないほどだった。

 もう一つは、ドラゴンバスターに全ての時間をかける超廃人と言われる人たち。彼らはあり余る時間の全てを使うだけでなく、効率も重視する。豊富な時間の全てを効率に注ぎ込んだ彼らの装備は他の追随を許さない。また、傭兵ほど天性の勘はないが、その分各ボスの研究が熱心でソロまたはペアで超高難易度のボスをこなす。

一部超廃人は傭兵並のプレイヤースキルを持つ。

 そのトッププレイヤーの下に、準廃人と呼ばれる層が凌ぎを削っている。準廃人は効率をあまり重視しないプレイヤーも多数いて、狩り以外を楽しむものも多々いる。 そういった層は、自分のハウスや畑に並々ならぬ情熱を燃やす。

 

 竜二は傭兵のような超絶プレイヤースキルはやろうと思ってできるものではないと自覚していたため、廃人に劣らぬ装備を作成すれば自分もトッププレイヤーになれる!と結論を出す。

 それが、竜二がダークサイドに落ちるきっかけであったのだ...

 

 まず竜二は6アカウントに課金を行い、6キャラクターを作成した。行ったのは単純なループマクロの作成だ。マクロとは一定の動作を自動で行ってくれるもので、鉱山でひたすら堀り続けるマクロで鉱石を掘りまくった。

 自動で動くマクロは、規約違反でバレるとアカウントを剥奪、キャラクター抹消ではあるが、竜二は対策を打っていた。まず1キャラクターで24時間稼働させるのはやめ、6キャラクターを時間ごとに振り分けて2時間づつでローテーションさせた。

 もちろん、同じ鉱山の同じ場所で掘るのではなく、ランダムで様々な場所で掘れるようにしたのだ。

 次に、運営側がマクロを疑った場合や同じプレイヤーに会った場合には話しかけられることがある。もし話かけれれた場合は、会話の文章をスマートフォンに送れるようにしていたので、スマートフォンから会話を返すことができた。

 こうして竜二のマクロはバレることなく延々とマクロを実行し続けたのだった。

同じように、釣りや山などからの採取もこなしていく。

 マクロで集めた素材を自分の店で売ることで、竜二はゲーム内資金を稼いでいく。 いつしか竜二の店は基本素材をいつも在庫している優良ショップと認識されるようになり、価格はそこそこだが量が売れるので相当の資金を稼ぐことができるようになった。

 

 豊富な資金で装備を買い集めるものの、お金では1.5流の武器までがせいぜいであったが、それらの武器でさえ、超高額で豊富な資金であっても買うことは難しい。

 今後1流の武器を取るためには、自らボスを倒さなければいけないし、資金稼ぎも兼ねて竜二は、どうにかしてボス素材を簡単に集めれないか思案し、結果無謀な挑戦に走る事になる。

 アクション性の非常に高いドラゴンバスターでは、ボスをマクロで倒すことは不可能とされていて、竜二はこの不可能に挑戦することにしたのだ。


 ドラゴンバスターのボスは難易度により1から10までの数字がそれぞれのボスに振られている。1流の武器は難易度10のボスから稀に出る素材を使って、武器を生成するが、武器を作成して終わりではない。出来上がった武器はランダムに強さが変わるため、気も遠くなるほど武器を作成した結果、一流武器が出来上がるのだ。

 難易度10のボスは流石に最高難易度に位置するだけあって、傭兵プレイヤーであってもソロでクリアするには非常に困難な上、高い体力を持っているため時間がかかる。

 パーティを組んで戦うことはもちろん可能で、4人までのパーティを組んでボスに挑むことができるシステムだった。

 パーティで挑むと、ボスは短時間で倒すことができるが、その分取得できる素材もパーティで分割されるため、ただでさえ稀にしか出ない素材がますます手に入りづらくなる仕組みだ。

 ボスの独占を防ぐため、ドラゴンバスターではボスに挑んだパーティは専用エリアに移動しそこで戦闘を行う。どれだけのパーティが挑んでも専用エリアはパーティごとに準備されるのでボスの独占が起こらない仕組みになっている。

 ボス戦は観戦することもでき、特にソロで挑む勇者はよく観戦の対象になっていた。

 

 竜二はまず難易度4のボスのうちの一つ「紅亀」のマクロを作成することにした。 「紅亀」は中級プレイヤーの防具として最もよく利用されている素材をドロップするため、お店で売るなら都合のいいボスだった。

 「紅亀」のパターンを分析すること一ヶ月。ついに竜二は「紅亀」用のマクロを作り上げた。

 

「やったぞ。ついにマクロができた!これでさらに稼ぐことができる」


 出来上がったマクロを数度テストし、問題ないことを確認した竜二は歓喜した。竜二はリベールという女キャラクターにマクロをセットして「紅亀」をひたすら狩っていく。「紅亀」で稼いだ資金を使うことで、1.5流の武器を買い揃えることがついにできた。

 竜二はもちろんマクロだけをやっているわけではなく、フレンド同士や知らない人同士の一期一会のパーティなどでだいたい難易度7-8くらいのボス討伐をよく行っていた。


 ある一期一会のパーティの一人が気になることを言っていた。


「リベールさんって人を知ってる?今結構話題でさ」


 リベールが?マクロがバレたのかとヒヤヒヤした竜二だったが、知らないフリをして会話を聞く。


「健気に紅亀をずっとソロで倒しているんだって。プレイヤースキルが相当高いみたいなんだけど、紅亀以外で見たことがなくて上手なのに変わった人だなあって」


 そらそうだ。リベールは「紅亀」専用のマクロを稼働させているキャラクターなんだから当然だ。難易度4のボスとは言え、中級者が安定してソロで狩るのは難しいボスでペア以上で倒すのが普通のボスだから少し話題になったんだろう。


 1.5流の武器を買い揃えた竜二は、防具も全て買い揃えようとさらなる難易度のマクロに挑戦する。

 次に挑戦したのは、難易度7「死霊騎士」だ。死霊騎士は剣スキルが非常に高く、攻撃できるチャンスが少ない堅実なAIを持っているボスで、攻撃力はさほど高くないが、鋭い連続攻撃ももっており、プレイの正確性が求められる相手であった。

機械のような正確さは、まさにマクロ向きだったのだ。

 「紅亀」のマクロである程度慣れていた竜二はさほど時間もかからず「死霊騎士」用の専用マクロを作り上げる。難易度の高い相手なので、会話されることも見越して、収集マクロで作成した会話が来た場合にスマートフォンへ会話を飛ばす仕組みも導入した。

 また、狩りに出る時間は一日6時間までに限定し、中身のいるプレイヤーを装うことに腐心したのだ。

 「死霊騎士」に挑む前には、「失礼します」と発言し、倒した後には「お疲れ様でした」と発言する。一旦ハウスまで戻り、10分後再び「死霊騎士」に挑むようにした。


 この頃からリベールは掲示板に専用スレッドが出来るほどの人気になっていき、そのストイックな姿勢は賞賛される対象になっていく。竜二の思いとは裏腹に。


 「死霊騎士」で防具を揃えた竜二は、いよいよ廃人と同様の武器防具を取るために難易度10「黄金獅子」と「覇王龍」専用マクロの作成に取り掛かる。

 この二種は、素材は取れるが難易度10の中では比較的楽なボスとされており、竜二が目指すボスは「天空王」という難易度10の最高峰であった。これをソロで倒すため、「黄金獅子」「覇王龍」の素材から作る武器が必要だったのだ。

 竜二の腕では、最高クラスの武器防具を揃えても、「天空王」に勝てるか分からない。長い長い戦いが必要だろう。しかしながら、「天空王」はまだ誰もソロでクリアしたことの無いボス。

 俺がその最初の一人になってやるんだ。そのためには最高の武器がいる!


 と意気込んでマクロの作成に入るが「黄金獅子」「覇王龍」の攻撃パターンは数が多く、どれも非常にシビアで一撃も受けずに倒すマクロは相当困難を極める。

 ドラゴンバスターでは、回復魔法は無いし、強化魔法も無い。数の暴力では簡単に打ち勝てないようなゲームバランスになっているのだ。唯一の回復手段はポーションだが、難易度10をソロだとポーションを飲む暇もない。

 さらには、一撃食らうと体力の8割以上を持っていかれるという攻撃力なので、食らっても一発までだったのだ。

 2ヶ月が過ぎる頃、ついに竜二は「黄金獅子」「覇王龍」専用マクロを完成させた。


 これで、最高クラスの武器防具が出せる!


 リベールを「黄金獅子」「覇王龍」に挑ませて一ヶ月ほど経った頃、10分間のインターバルによく話し掛けられるようになってきた。


「ソロで「黄金獅子」をクリアするなんてすごいです!」

「俺の作った装備で一度「天空王」に挑んでみないか?」


などなど。

またボス戦観戦者もどんどん増えていく。


 やたら話し掛けられるので、気になってリベールで検索してみると、出るわ出るわリベールの話題が。ほとんどは賞賛の声で難易度10のボスを淡々とソロで倒す姿に皆憧れを抱いているようだ。

 違う!俺が欲しかったのは、リベールへの賞賛ではないんだ。俺自身の腕で「天空王」を倒すため、リベールを稼働させているに過ぎないんだ。


 竜二の思いとは裏腹に掲示板、ゲーム内でも日に日にリベールによる「天空王」単独撃破の期待が高まっていく。

 竜二はその圧力に耐えれず、「天空王」用のマクロを作成してしまった...してしまったのだ。


 リベールは「天空王」へ挑む前たくさんのプレイヤーから激励の言葉を受ける。そして「天空王」にソロで挑み、多くのプレイヤーが観戦する中、無傷で「天空王」を撃破した。

 溢れる賞賛の声、リベール!リベール!と皆が騒げば騒ぐほど、竜二の気持ちは落ち込んでいく。


 こんなはずじゃ、誰も俺を見ない。俺ではなく俺のマクロを見ている。

 トッププレイヤーになるために、マクロに手を出した男は、こうして絶望のうちにドラゴンバスターから去っていったのだった...

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