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カラフルパレット  作者: 一重 奏
序章「はじまりの色」
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第六話「間(おうきゅう)」

 額の痛みがようやく収まってきた。

 引き続き虹色はユウと共に歩いて、とある場所へ向かっている。


「あの…先ほどの広場の件については本当に申し訳ございません。私にできることでれば何でも致しますので…」

「いやいやいや、僕も好きで参加していたわけだし、それに周りの人たちはみんな気づいて囃し立てていたのだからね。王様とはいってもそんな大した権力があるわけでもないし、特別慕われるような謂れもないさ」


 うう…穴が空いてたら入ってそのまま上から土砂を被せて塞いで欲しい。その上から綺麗に舗装して道にして、一切の痕跡を消してくれたら。王様ってその国で一番偉い人だよね。日本でいうとつまり…。

 だめだ絶対死刑だ。今から向かう先で絶対に殺される。なんだろう、ギロチンかな、首つりかな。痛くないといいなぁ…。

 お父さん。お母さん。虹色は王様に酷いことをした罪で死ぬことになりました。

 これまで育ててくれてありがとう。ホントはもっと絵の勉強をして、素敵な絵をプレゼントしたかったです。


「虹色さん、着いたよ」

「はいすみませんでした!」


 返事が謝罪になる虹色。


「ほんとに気にしないでね。君に何かしようって訳じゃないんだし。ここに来たのは見て貰いたいものがあるからさ」

「あれ、私これから死刑になるんじゃないですか?」

「ならない、ならない。君は何も悪くないよ。それにこの国に死刑なんて制度はないよ。昔はあったらしいけれどね」


 ようやく落ち着いてきた虹色。あのバーのような店から幽鬼のようにユウの横をついてきたが、どこに向かっていたのだろう。

 そうして顔を上げると、目の前には大きな門があり、その先には広大な庭。そして更にその先には巨大な城が建っていた。


「あの、ここってもしかして…」

「ようこそ、僕の家へ」


 家っていうか城だと思います。


「ちょっと待っててね、お客さんを迎え入れるには色々と手続きが必要で」


 そう言ってユウは門の傍に立つ兵士に駆け寄り、何やら話をしている。

 その後兵士がどこかへ行ったが、すぐに戻って来てまたユウと話をした後、こちらへ戻ってきた。


「虹色さんお待たせ。それじゃ行こうか」

「あの、行くってどこへ向かうんですか?」

「さっきも言ったとおりちょっと見てもらいたいものがあってね」


 そう言って庭を歩いていくユウ。

 国王様なら迎えがあったりしないのだろうか。そもそも一人で街を歩いていて危なくないのだろうか。

 そんな疑問を頭の中でぐるぐるさせているうちに城内へ到着した。

 城の中はいかにもという豪華な装飾。しかし、やはり色がない以上はどうも味気ないものに感じてしまう。

 ユウについていくと、城の奥のさらに奥の地下へ続く階段へ案内される。


「着いたよ」


 そういって扉の鍵を開け部屋の中へ入る。部屋の中央にはキャンバスが一つ置かれていた。

 キャンバスには何も書かれていないようだ。白色でもなければ透明でもない、相変わらず色のない不思議な板にしか見えない。


「あの、これは一体…?」

「結晶の欠片なんて言われたりもするけれどね。これこそが“無色”のヒューマンと揶揄される所以さ。各種族の王はそれぞれこれと似たようなものを保有していてね、本来はここに色が塗られているはずなんだ」

「サイラスさんが言っていたドワーフが“茶色”というのは、ドワーフが持っているこの…結晶の欠片が茶色に塗られているということですか?」

「そうだね、僕も現物を見たことがあるわけではないけれど。その色の塗られた結晶の欠片の保有こそが、種族の色の支配に繋がるんだ。そしてその種族全員が支配した色のカラーを行使することができるようになる。」

「サイラスさんが、ヒューマンだけは他の色を取り込む力があると言っていたんですが、あれはどういう意味ですか?」

「そのままの意味さ。他の種族はそれぞれ持っている結晶の欠片に塗られている色しか支配できない。しかしヒューマンは、この無色の結晶の欠片に様々な色を取り込むことができる…と言われている」


 私のパレットには様々な色がある。“赤色”“緑色”“黄色”“青色”。

 これをこのキャンバスに写すことができれば…!


「あの、ユウさん。あ、いえユウ様」

「様なんて付けなくていいよ。なんなら呼び捨てでユウでも」

「とんでもない!…それじゃあユウさん、私のこのパレットの色を欠片に写すことはできますか?」

「僕もそれを試したくて君をここに招いたんだ。いいかい、移すにはロードの力が必要となる。君が持つロードを使えば問題ないだろう。さっき正しい手順と言った方法だけど、次のやり方を試してみて」


 ──吸収:色にロードを当て、「ロード・オン」

 ──放出:対象にロードを向け、「ロード・リリース」


「カラーの発現にはイメージが大切みたいだからね。今回は“緑色”を試してみようか。一度使っているからイメージしやすいと思う。そよ風を出すイメージで十分だと思うよ」

「わかりました。やってみます」


 パレットの緑色に筆を当てる。


「──ロード・オン!」


 虹色が持つ筆がかすかに光を放ち、筆先が緑色に染まる。カラーを吸収したのだろうか。

 そして、結晶の欠片…真っ白なキャンバスに向けて


「ロード・リリース!!」


 ユウの言うとおり、そよ風をイメージしてカラーを放った。イメージ通りの風がロードから放たれ、正面のキャンバスにぶつかった。しかし…


「やはりダメか…。ごめんね、試すようなことをして。もし成功ならこの結晶の欠片が緑色に染まるかなと思ったんだけれど」

「すみません。私の力不足で…」

「ううん、そういう意味じゃないんだよ。この結晶の欠片は、もともとは一つの結晶、“絵”と呼ばれるものだったらしい。それが何らかの原因で砕け散った結果、今の姿となったんだ。そのため、言い伝え通り色を吸収できるとしたら、各種族が持つ結晶の欠片から移す必要があるのだろうね」


 今回はその手順を飛ばし、別世界から来た虹色が偶然にも持っていた色を使い、欠片に色を写そうという試みだったようだ。


「種族達が持つ結晶の欠片から写させてもらうことは難しいんですか?」

「色を写すというのは、その種族が持つ色の一部を奪うことになるからね。行使できるカラーも減る、かもしれないんだ。本来、結晶の欠片からはほとんど無制限に色が生み出されているから枯渇することはないんだけれど…。欠片そのものから色を吸収するとなると、どのような結果になるかは分からないからね。どの種族も積極的に協力はしないさ」

「お願いして写させて貰うことはできないのですか?」

「なにより太古の大戦以来、種族間はすこぶる仲が悪くてね。大戦以降、殺し合いのような殺伐としたものは無くなったけれど、それでも小競り合いのようなものはしょっちゅうさ」

「仲が悪い…ですか」

「うん、とはいっても一応、種族間の交流もあるんだけれどね。さてと、ひとまず上へ戻ろうか」


 ユウと虹色は、その部屋を後にする。後で知ったことだがその部屋は宝物庫だった。


 虹色は別の部屋に案内され、給仕に暖かい飲み物を用意された。

 少し口をつけてみると、紅茶のような味が口いっぱいに広がった。

 料理には全て色が付随する。当然飲み物も同じだ。色のないものを使い、ここまで様々な味の食べ物や飲み物を作ることは、地球で考える以上に難しいのではないだろうか。

 そう考えていると、どこかへ出ていたらしきユウが戻ってきた。


「お待たせ。ちょっと呼び止められちゃってね。さてここからが本題なんだけれど…」


 そういって少し言いよどむユウ。何かしらの葛藤があったようだがそれも一瞬


「虹色さん、僕と一緒に色を取り戻す旅に出て欲しい」


 サイラスにも似たようなことを言われた気がする。


「ええと…どういう意味でしょうか。その、さっきは種族間の仲が悪いから難しいということでしたが」

「簡単な話にはならないだろうね。門前払いにあうかもしれない。それに、国民のみんなは現状の色のない世界に満足してしまっているから、積極的に色を取り戻そうとする人もいない」

「それならどうして、しかもユウさん自ら旅に出るようなことを。安全、というわけでもないんですよね」

「外には種族だけではなく、様々な種、たとえば猛獣の類もいるからね。常に危険は付きまとうだろう。」


あの草原にはいなかったけれど…たまたまだったのかな。

虹色はここまでの道のりを思いだす。


「それでも…僕は色を取り戻したいんだ。実は色を見る機会というのはないわけではなくてね、僕はその色の美しさに魅入られてしまっているんだ。いつかはこの世界を様々な色で満たしたらどんなに素晴らしいだろう、と」


 虹色もずっと絵に情熱を捧げて生きてきた。色の大切さや美しさは十分に理解している。


「君のカラーの力は、僕の旅に必ず必要になってくるだろう。ずっと旅に出ることは考えていたんだ。ただどうしても決心がつかなくて…。しかし今日君に会い話を聞いて、もし一緒に来てくれるなら僕の旅は必ず成功すると確信したよ。国王としてではなく、一人の人間として頼みを聞いて欲しい。この色の無い世界に素敵な“色”を届けるため、僕と共に来てほしい」


 サイラスから話を聞いてずっと考えていたことではあった。具体的にどうすればいいか分からなかったけれど、その道をユウが示してくれた。

 そして、私が元の世界に戻ることとも無関係ではない、そんな気がした。


 怖い目に合うかもしれない。痛い目に合うかもしれない。

 安全な旅ではないだろう。これから先、どのような苦難が待ち受けているとも知れない。

 虹色にとって、この世界はほんの数時間前に来たに過ぎず、場所や人への愛着や思い入れがあるわけでもない。


 しかし、ほんの数時間だけでも、この世界の光景を見た虹色はこうも思わずにはいられない。

 “色のない世界というのはなんとつまらないものだろう”と。

 産まれたときからこの光景に慣れている人たちにとっては、当たり前の景色なのかもしれない。

 それでも、色の美しさを知る虹色は、同じ光景を、色の素晴らしさをこの世界の人達に教えてあげたい。


 そして・・・素敵な色で、素敵な絵を書いてあげたい。


「私の想いは…この色の無い世界に素敵な“絵”を届けることです。ユウさん、十分な力になれるかわかりませんが、それでもよければ一緒に行かせて下さい」


 虹色の意志は決まった。

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