第四話「街(けっとう)」
サイラスの話は単純だった。
色を支配しているということはカラーを行使できる。ならば他の種族にも引けを取らないはず。カラーを活用し他の種族から色を奪って欲しい。そうすればこの国に色が戻り、様々な文化がより発展するはず。
「確かに色は欲しいけれど、私にそんな力があるとも思えないし、大体他の色奪っちゃったらその種族が困っちゃうんじゃないかな。私ケンカとか怖いことできないし」
人類とか文化の発展とか言われても、そこまでの責任は持てないし、なんで私が、とも思う。色の素晴らしさはこの世界の人達も知ってほしいが…。
街を散歩しながら今までのこと、そしてこれからのことを考えてみる。
虹色はサイラスに問い詰められた後、ちょっと時間を欲しい旨を伝え逃げ…外出してきた。
見ると街並は結構栄えている。道の両脇には露店が並び、色々な物が売っているようだ。もっとも、色のないそれらは一見しては何なのかよくわからないが。
また、この世界の文字についても少しづつわかってきた。特殊な文字をしてはいるが、表音は日本語と同じで、ローマ字のようなものらしい。詳しくはまだ分からないが、理解にはそう時間を要しないだろう。
「それに、そのカラーの使い方がわからないならどうしようもないような…」
外出する前のサイラスとのやり取りが思い出させられる。
「色ってどうやって奪うんですか?」
「…わかりません」
「カラーってどうやって使うんですか?」
「…わかりません」
「そもそも本当にこのパレットの色はカラーの力を持っているんですか?」
「…わかりません」
「…」
「…」
だめかもしれない。あの必死なサイラスの訴えは一体何だったんだろう。
そしてほんとに力が使えなかったら、私はこの世界でどうやって生きていこう。
お仕事見つけないとなー。明日にでも飢え死にしちゃってたりして。
なんてことを考えていると、大勢の人が集まる広場で足が止まった。
──いけいけ!そこだ!
──おおーーーっ!!ユウが勝ったぞ!大儲けだ!!
何やら楽しそうな声が聞こえる。人の合間を縫うと、何やら大会が行われているようだ。
「あのー、これ何をしているんですか?」
近くにいた短髪の楽しそうな青年に声を掛けてみる。
「なんだ嬢ちゃん、知らないのか?この街一番の腕試し大会だよ。…嬢ちゃん変わった格好しているな」
「あっ、いえ、あははは。それで腕試し大会っていうと戦って一番強い人を決めるみたいな感じですか?」
「そうそう、今一番人気はあのユウだな。冷静だがいい腕してるよ」
広場の中央には、木剣のようなものを掲げている青年が見える。歳は10代後半くらいだろうか。
「へぇ…なんだかカッコイイ人ですね」
「おっ!嬢ちゃんも興味あるのか!どうだ飛び入り参加してみたら。参加は自由だぜ。挑戦者が居なくなったら賞金1万オーロだ!」
「いやいやいや!無理ですって!私ケンカとかやったことないですって何言っているんですかもー!」
──おっ、次の挑戦者は嬢ちゃんか?
──ヒューヒューッ。ユウも手加減してやれよー!
──結婚したい…。
──さぁどいたどいた!次の挑戦者が決まったぞ!
何やら外部から勝手な声が聞こえてくる。身震いする言葉も聞こえた気がするが。
「やめて下さい!押さないでください!そこ腕つかまないでひっぱらないで!」
「あの、その、私見てのとおりか弱い乙女です!なんちゃって!ああああ無理です本当無理です。絶対無理です。勘弁してください…」
と言っている間にあれよあれよと押し出され、抵抗虚しくユウの前に突き出されてしまった。
──さぁ次の挑戦者は飛び入りのお嬢ちゃん!
──準備はいいか?始まるぞ!
外で勝手な司会が進められている。前にはユウと呼ばれる青年。
あ、ホントにちょっとカッコイイかも。
っていう場合じゃない。どうすればいいのこの状況!逃げようにも人で囲まれてるし!
大声でごめんなさいしながら土下座すればいいのかな!?
──さぁスタートだ!!
いやぁぁあああ!!なんか近づいてきた!剣持ってるよ剣!私死んじゃうよ!?
何が起きているのか未だに理解できない虹色は、必死にできることを探した。
しかし手元にあるのは筆の入ったパレットのみ。相手が木剣を持っているのにこちらは丸腰に近い。流石に不公平ではないだろうか。
恐らく無意識だったのだろう。とっさに持っていたパレットを開き、筆をユウに向けた。
「来ないでください!私ケンカとか無理なんです!私の負けでいいですから!!」
その瞬間、ゴウッ!という音と共に筆から風が吹き出し、辺り一帯を駆け抜けた。
そして風の直撃を受けたユウは観客の中まで吹き飛ばされた。
観客達、そして虹色自身も何が起きたかわからず静まりかえる。しかし一瞬の後に
──うおおおおおおおおおお!!!!
耳をつんざく大歓声と共に虹色を称える声が次々に響いた。
彼女はこの時はまだ気づいていなかったが、偶然にもパレットに仕舞い込んだ筆が“緑色”風のカラーを取り込み、そしてそれを外に向かって放っていた。
虹色自身も何が起きたかわからず、その場で座り込んでいるとユウが近づいてきた。大きな怪我は無いようだ。
「よく分からなかったけど気が付いたら吹き飛ばされてたよ、僕の負けだ。君はなんていう名前だい?」
「えっ…とっ…ああ!その、あの、彩飾虹色と言います。すみませんすみません!なんか酷いことをしてしまったみたいで…」
正常な思考が戻りつつある虹色はたどたどしく答えた。
「虹色さん…かな。いい名前だね。さっきの力に興味があるんだけれど、どうやってやったのか教えてくれないかな?」
「いえ、それがその、私自身どうやってやったのかよくわからなくて。夢中でこのパレットを開いて筆をあなたに向けたら、いきなり風が吹き出てきて、それで…」
パレットを開いて筆と一緒にユウに示す。ユウの表情が驚きに変わる。
「これはまさか…。君は一体どこでこれを?」
「えと…話すと少し長くなるのですが。」
「うーん、それじゃそうだね、虹色さんちょっと僕に付いてきてくれないかな。君の素性に興味がある。色々と話を聞きたい。それに、もしかしたら君が使った力の秘密も教えてあげられるかもしれない」
虹色にとって人生初のデートの誘いだった。…のかもしれない。




