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同級生

 居酒屋を出て、駅前を歩いていると、


「もしかして、ミカ?」という声が聞こえてきた。


 ミカも俺も声がした方に振り返る。そこには俺と同い年ぐらいの女が立っていた。


「……麻衣?」


「やっぱりミカだ。あの頃と全然変わってないね。ね、もしよかったらどこかカフェでも入って話さない?」


 ミカが俺の目を見る。


「別に構わないよ」


 そういうとミカは頷いて、麻衣と呼ばれた女についていった。状況が飲み込めなかったが、俺も二人についていく。連れて行かれたカフェは俺がこの前紗友里と一緒に入った店だった。店員に案内され奥の席に座る。席につくと、麻衣が話始めた。


「こちらの人は彼氏?」


 ミカは首を左右に振った。


「ちょっとした知り合いなんです」


 ミカの代わりに俺が答える。


「どんな知り合いなの?」


「私が天国から迎えにきたんです。それで今一緒に行動してます」


「まだその天使の設定やってるんだ」


 麻衣は苦笑いをした。


「ミカは相変わらずだね。高校の時もそうだったもんね。見た目も昔のまま。まるで歳をとってないみたい。羨ましいな」


「天使は歳をとりませんから」


「あの、二人はどういう関係なんですか?」


 俺は横から口を挟んだ。さっきから状況が分からない。二人が知り合いだっていうことは分かったが、それ以外はさっぱりだった。


「ミカと私は高校の時の同級生なんです」


「高校通ってたのか?」


 俺はミカの方を見て訊ねる。


「はい、世の中の視察の一環として、一年ぐらい通ってました」


「ある日突然転校してきて、一年後ぐらいに急に中退しちゃったもんね」


「ミカはどんな高校生だったんですか?」興味本位で訊いてみる。


「高校の時も自分は天使だっていってて、クラスで浮いてましたね。私が初めて声をかけるまでずっと一人でいました。他の人とはあまり関わろうとはしないで、話しかけても自分は天使だとかいって」


「やっぱり自称天使の変人だったのか」


「自称じゃないです。本当に天使なんですから」


 ミカは少し怒った口調でそういった。


「ミカは今なにしてるの?」


「さっきもいいましたけど、この人の見守りです。迎えにきたんです」


 そういわれ、麻衣は困ったような顔をしていた。


「そっか。でも元気そうでよかったわ。まさかまたミカと会えるなんてね。今度高校の頃の皆と遊ぼうよ」


「それは難しいです。使命があるので暇がありません」


「そんなこといわずに一日ぐらい遊んでこいよ。いくら使命でもそれぐらいなら許されるだろ」


「駄目ですよ。私、宇佐美さんの傍を離れるわけにはいきません」


 頑固な奴だ。そういえば初めて会った時も絶対に譲らなかったな。


「そう……まあいいわ。ミカが元気ってことが分かって。私、そろそろ帰らなきゃいけない時間だから、もう行くね。またね」


 そういうと麻衣は自分の飲み物代をテーブルに置いて帰っていった。


「ミカ、本当に俺と一緒にいていいのか? きっと両親も心配してるぞ」


「私、両親なんていませんし、宇佐美さんといるのが使命なんです。心配は無用です」


 俺は何も言い返さなかった。ミカにはなにを言っても無駄だろう。俺たちは飲み物を飲み終え、家に帰った。


 家に帰ってからはいつも通り晩酌をした。ただ、今日の晩酌は一人ではなく、ミカも一緒だ。買ってやった缶チューハイをうまそうに飲んでいる。


「缶チューハイはどうだ?」


「飲みやすくておいしいです。これ本当にお酒なんですか?」


「アルコール度数が低いからな。それに甘いからジュースみたいだろ?」


「はい、まるでジュースですね。何本でも飲めそうです」


「あんまり飲み過ぎて潰れないでくれよ」


「大丈夫です。宇佐美さんとは違いますから」


 タバコの火をつけた。灰皿を見ると、吸い殻でいっぱいになり灰皿としての役目を果たしていなかった。捨てるのが面倒だったので空き缶を灰皿代わりにした。

 タバコを吸いながら今日のことを思い出す。藤崎はすっかり変わってしまっていた。正直ショックだった。俺は死ぬまでにもう一度会いたいと思った人に会って、懐かしんだりして心を癒やされたいだけなのに。それすらも許されないのだろうか。俺の選択は間違っていたのかもしれない。紗友里と別れるべきじゃなかったのかもしれない。藤崎と会うべきじゃなかったのかもしれない。どんどん悪い方へ、心が虚しくなる方へ向かっている気がした。もう旧友に会うのは止めておいた方がいいのだろうか。他の奴も変わっていたら俺はどうすればいい? ミカは人は変わる生き物だといった。美乃里も変わってしまっているんじゃないか、そんな不安があった。でも美乃里には会っておきたい。例え美乃里が変わってしまっていても、受けた礼は変わらない。あの時、俺を助けてくれた感謝を死ぬまでにどうしてもしたいと思っている。


 それにしてもミカの同級生に会ったのには驚いた。やはりミカの天使というのは妄想なんだろう。昔から天使に憧れていてそれをこじらせていると考えるのが妥当だ。両親や家族はどうしているんだろう。もしかしたら捜索願いが出されているかもしれない。そうなると少しやっかいだなと思う。


「なあ、ミカ」


「なんです?」


「本当に両親いないのか?」


「いないですよ」


「他の家族は? 兄弟とかは?」


「強いていえば、他の天使が家族とか兄弟にあたるかもしれませんね」


「そうか……」


 俺は溜め息をついた。やっぱりなにを訊いても無駄なようだ。


「溜め息つくと幸せにげちゃいますよ?」


「溜め息ばかりついてたから病気なんかになったのかもな」


「宇佐美さんの悪い癖です」


「なあ、ミカは俺が死んだ後はどうするんだ?」


「宇佐美さんを天国まで送って、次の使命が来るまで待機してます」


「じゃあ天国にいったら俺はまたミカに会えるのか?」


「それはどうでしょう。普通の人が暮らしているところと、天使がいるとこは違いますから」


「それは残念だな。本当の天使か確かめたかったのに」


 俺がそういうとミカが溜め息をついた。


「まだ信じてないんですか?」


「溜め息をつくと幸せが逃げるぞ」


「宇佐美さんのせいですよ」


「まさか天使が高校に通ってるなんて知らなかったからな」


「カフェでもいった通り、世の中の観察のためだったんです。人間がどんな生活を送っているのか知りたかったんですよ。だから一年しか通わなかったんです」


「それで、どんな生活を送ってるのか分かったのか?」


「正直、あまり分からなかったですね。宇佐美さんと一緒にいる方がよっぽど色んなことを知れました」


「それはよかったな」


「はい。だからこれからも一緒にいますからね。絶対に離れません」


 そういうといつものように、にっこりと微笑んだ。


 それからミカに先にシャワーを浴びさせ、後から俺もシャワーを浴びた。今日あった嫌なことを全部水が流していってくれるみたいだった。風呂を出てみると、ベッドの上でミカが寝息を立てていた。酒を飲んだから眠くなったのだろう。そして、ベッドの上にはまた純白の羽が落ちていた。この羽は前にもあった。その時ミカは自分の羽だとかいっていたが。羽を手に取って観察してみようとした。すると羽はまるで雪が解ける時みたいに俺の手から綺麗に消えてしまった。

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