出発前
2016年3月。世間では春休みが始まり、例によって私も休暇を堪能することにする。
私は、なろうで小説を書いているユーザーであるが、鉄道ファンでもある。ついでに、旅行好きでもある。そんな訳で、春休みは鉄道旅行を計画しようと思う。
特に観光的要素も無い、ただただ鉄道に乗るだけの旅行。一般的には不可解極まるものだろうが、私には それが楽しい。
ただし、少々問題があって、金が無い。旅行はローコストに済ませるのが一番だし、私の旅行の鉄則でもある。しかし、鉄道旅行は 何だかんだ言っても金がかかる。これの費用を抑えようとすると、ある程度は選択肢も限られてくる。そんな訳で、私は近所の駅で青春18きっぷを購入した。
鉄道ファンにとっては当然の知識だが、18きっぷは日本全国のJR線の普通列車が乗り放題になるというフリーきっぷで、5回分が1万1850円。1回あたり2千円強で全国のJRが乗り放題なのだから、破格の安さと言えるだろう。金のない鉄道ファンである私は重宝していて、ほぼ毎年使っている。俗に言う、18キッパーである。
取り敢えず、日取りも決まった。取り敢えず2日は出かけられる。日本全国に行けるが、2日では行けるところにも限りがある。北海道や九州は、多少 努力しないと無理がある。どこへ行こうかと思う。
私は関西圏の鉄道が大好きで、ほぼ毎年行っている。JRに限らず私鉄線も楽しく、近鉄や京阪電車は特に好きである。私鉄に乗りに行くときに重宝しているのが「スルッとKANSAI」で、関西圏の私鉄が ほぼ全線乗り放題というフリーパスである。今回は18きっぷなので使わないが、近いうちに また使いたいと思う。
関西の鉄道は、とにかく速い。速い電車は大好きである。
東京の私鉄は、特に通勤時間帯はチンタラ走っているような印象だが、関西では訳が違う。JRも私鉄も、特別料金不要の優等列車を15分くらいの間隔で走らせている。JRも私鉄も、速度が100km/h以上は当然で、遅い関東の鉄道とは比べ物にならない。特にJR西日本の新快速は、最高時速130km/hで複々線を駆け抜け、京阪神を結んでいる。京阪電車の「特急」と並んで、私のお気に入りである。新快速は去年乗ったばかりだが、また乗りたい。ということで、今回もまた、関西へ行こうと思う。
一般に18キッパーは大阪周辺など早々に通過して、さらに遠く、地方を目指すものだと思う。新快速は遠くへ行くための移動手段でしかなくて、私のように新快速に乗りに来る人は、稀な部類に入るだろう。そうは言っても、それくらい好きなのだから仕方がない。
私は、東京の某バスターミナルから京都駅までの夜行高速バスのチケットを取った。ローコストに済ませるために関西では泊まらず、初日は関東近辺で遊んでから、その日の夜に東京を発とうと思う。
そうなってくると、ほぼ日帰りである。自宅に21時くらいには帰りたいから、大阪を昼前には出なければならない。関西圏での滞在時間は、実質半日である。大阪で1泊すれば結構楽しめるが、出来るだけ節約したい。ギッチギチにプランを組んでも、行けるところは限られてくる。新快速に乗りに行くのは 半ば決定事項だが、もう少し遊びたい。奈良線、湖西線、嵯峨野線と、乗りたい線区は数知れず、しかし そんなに欲張れない。帰りは関西線を経由したいとも思う。
様々な思惑を実現すべく、私は計画の作成に取り掛かった。紀行文作家であった故・宮脇俊三さんは、「旅行は計画を立てている時が一番楽しい」と記しているが、それは本当にその通りで、行く前から心が浮き立ってくる。
計画ができた。
初日は群馬県を周遊する。群馬県は115系が未だに使用されている、関東では貴重な地域であるが、この115系も近いうちに置き換えられるだろう。私の予想では、多くの鉄道ファン同様、211系かE231系に置き換えられる可能性が高いと思っている。115系電車が無くなる前に乗っておきたいと思い、初日に高崎支社の線区を乗るのに異論は無かった。
詳しく言うと、吾妻線に乗って川原湯温泉で下車し、建設中の八ッ場ダムを見に行く。その後、渋川で上越線に乗り継ぎ、土合駅に行ってくる。土合駅は、「日本一のモグラ駅」と呼ばれる有名な駅で、谷川岳の真下、新清水トンネルの中にある下り線のホームから改札までは、462段の階段を昇らなければならないという、変わった駅である。2回くらい行ったことがある。
その後、高崎線で東京都内に戻って、バスで京都へ向かう、というスケジュールだ。
スケジュールが出来たので、後は出発日を待つばかりだ。初日は群馬、その翌日には関西と、随分と変わった予定ではあるが、満足である。さあ、早く出かけたい。
まさか出発前日に、あんなコトが起こるとは……。




