友人とアイドル
こういう言葉がある―「事実は小説より奇なり」―
正直、小説の方が奇だと最近の僕なら、思っていただろう…ただ、こんな出来事があればあの言葉もそうなんだなと思わざるを得ないといえる。
まあ、自分の性格とかそういうものもあって、こういう事態になっているのもまた事実なわけであり、そういう意味では僕の人生というのは、とてつもなくめんどくさいことの連続だといえる…
「いやー昨日の『MSS』観たか??最高だったよなー!!!」
僕の隣で、大声でアピールしているこいつの絡みもめんどくさい一つなのだが…
こいつは、佐藤 兼次僕と同じクラスの男子で唯一の腐れ縁と言える仲。最近、アイドルにハマっているらしく、その話を興味のない僕にも一方的に話してくる。特に、KANAMIというアイドルの熱烈なファンらしくファンクラブができて、真っ先に加入したとのハマりっぷりには、心底驚きを隠せなかった!!!
「新曲の『SUMMER WIND』マジ良かったよー神曲確定だよホント!!!」
「お前、どの曲もそうやって言ってんじゃん?KANAMIだっけ?カノジョが歌ってればなんだっていいんじゃねえの??」
「馬鹿!!!彼女が歌ってるから、神曲になるんじゃねえか!!!デビューしてまだ一年たたないのに、トップ3独占だぞ!!!天は二物を与えずとは言うけど、与えられる人もいるんだなって改めて思ったよ」
佐藤は、そう言って、頷いている。こいつは、いつもこれだと決めたものに一直線に走るイノシシみたいな性格だから考えを改めさせるのには、骨が折れる…
佐藤と別れ、自分の家に着く。帰ってきて、「お帰りーお兄ちゃん」
玄関先で、可愛い妹いや弟に抱きつかれ、いつものように、弟を離し、自分の部屋に戻る。
僕の弟は可愛い。一応言っておくが、僕は『アレ』ではない。ただ、ウチの弟は、顔立ちが整っているせいか可愛いと思われることの方が多いのだ。兄の僕からみても可愛いとは思う。それもあってか、スカウトされ芸能界デビューしたのだった。瞬く間に、名前は、知れ渡り、KANAMIは全国的な知名度となった。
そう、僕の友人が好きなアイドルは、僕の弟なのだ!!!
この事実を、僕は、佐藤に知られるわけにはいかない。ましてや、佐藤からしても、好きなアイドルが実は、男だったと知ったら、ショック極まりないだろう…
ちなみに、KANAMIという名前は、本名の夏波からきている。
僕のこんな板挟みのような状態を知れば、小説より奇なりというあの言葉が事実だと言わざるを得ないのが理解いただけたと思う。
「きっと、神様の試練なんだ」そう僕は、納得せざるを得なかった…