居候が消えました
散歩や、ここら辺を散策していると思い、待っていたが、夜になっても帰ってこない。
嫌な予感がした。
すぐに外へと飛び出し、ミチの名前を叫んだ。
「ミチー!聞こえたら返事してくれー!!」
声が枯れるほど叫んで、走る。
雨がポツポツ降りだし、どしゃ降りになった。
出会ったときもこんな風に雨が降っていた。
僕はあそこへ走り出した。
町を一望できる風景が見れる場所へ。
ミチは、そこにはいなかった。
「ミチー!」
もう一度叫んだ。
風を切る音が耳元で鳴り、現れたのは真っ黒の巨大な狼だった。
口に、血だらけのミチをくわえて。
「ミチを離せぇぇぇぇえええぇぇ!!!黒色『シャドウ』!!」
二メートルの剣にして、黒い狼を切るとミチを離した。
すぐに近寄って見ると、所々に噛み傷や切り傷があった。
「早く手当てをしな
黒い狼がタックルをしてきて、軽く数メートル吹っ飛んだ。
空中で体勢を立て直し、地面をすぐさま蹴る。
「どきやがれ!!」
狼の頭を捉えたはずなのに、狼は消え、その代わりに黒い影で覆われ、赤い目が光る人間に変わっていた。
腹を蹴り上げられ、一瞬の内に僕より上に移動して、踵落としをしてくる。もろに入り、受け身もとれずに地面に激突し、周囲の水溜まりが跳ね上がった。
「やあやあ、こんな夜遅くにうるさくされると、寝れないんだよ」
来栖先輩が寝巻きの格好で、傘を差しながら欠伸をして歩いてきた。
「そこの黒い人間は、二人に傷を与えたっつうことで、現行犯で逮捕ってことで。火悪魔との契約『イフリート』」
来栖先輩は頭から角が生え、歯が鋭くなり、右手には僕の『シャイン』を防いだ炎を纏った刀を持っていた。
「宗ー、そんなところで寝てないで、手伝えよ。……面倒な犯人だからよ」
そう言うと来栖先輩は目にも止まらぬスピードで近づき、黒い人間の腹を横切りにした。
黒い人間も反応して後ろに飛ぶが、刀の先端が掠れる。
「まだまだ!着火!!」
掠り傷が突然爆発した。
黒い人間は呻き声を上げて、後ろに下がり電柱のてっぺんに立った。
「任せたぞ、宗!」
僕は黒い人間の後ろから、『シャドー』で二メートルを越える黒い斧に変形させ、力一杯振り下ろした。
「うおおおおおおおおお!!!」
電柱が一気に粉砕される。しかし、黒い人間は横に跳んでいた。
「次は俺の番だ。『炎月』」
黒い人間の行動を予測していた来栖先輩は、刀により一層の炎を纏わせて、斬撃と一緒に三日月のような炎を放った。
黒い人間は鳥へと姿を変えて、『炎月』を避けた後急降下し、狼になり来栖先輩を殴り飛ばした。
刀を地面に突き刺し、刀身で防いだが二メートルほど引きずった。
「こんなの聞いてねぇぞ」
狼はすぐさま追撃をかける。
巨大な一撃を紙一重でいなしつつ、来栖先輩は後ろに下がっていた。
「あぁ、くそっ!やるしかねぇか!」
その瞬間、来栖先輩の目が赤く輝きだし、刀に纏っていた炎は濃くなり、黒色を含み出した。
刀の斬撃一つ一つに赤黒い『炎月』が生まれ、スピードも増した。
押され負けた狼は鳥へと変わり、後ろへ飛んだ。
「逃がさねぇよ!『大炎黒月』!」
来栖先輩が振り下ろした刀から十メートルは越える、三日月の赤黒い炎が放たれた。
黒い鳥は急速旋回して、避けようとするが片方の翼が焼失した。
それでも逃げようとする鳥に向かって、僕は十本の『シャドー』を槍に変形して、全てを放って突き刺した。
「変な『黒魔生物』だったな」
いつも通りの姿になった来栖先輩は、やれやれといった感じでミチを横抱きして笑っていた。
黒魔生物とは、闇の魔術の影響で死霊が実体化して、自然に現れては、自然に死んでいく化け物なのである。だいたいは動物になるのだが、極稀に人間が現れる、そして変形する黒魔生物は初めて見る。
「この女の子、宗の知り合いか?一応、俺の回復魔術で大体は治したけど、心配だったらちゃんとしたとこ行かせてやれ。……って、起きたぞ」
ミチが目を覚ますと、僕と目が合った瞬間走り出した。
「ほら、追いかけろよ。野暮用はごめんだから、任せるわ」
僕はミチの後を追い、腕を掴む。
「どうして逃げるの!?」
振り向いたミチは、涙を流していた。
「私に……関わらないで」
振り払おうとする腕を、強く握る。
「僕はミチを笑顔にするって言ったんだ。約束は絶対守る」
「私に関わったら……さっきみたいに宗が傷つく……宗の友達が悲しむ」
「その傷が、ミチを守るためなら喜んで受ける。というか……友達、あまりいないんだよね」
「ううん……見た。とても仲良さそうな……友達」
「まさか……会場に来てたのか」
たしか、クラスの代表になった事を伝えた後、学校の行き方についてよく聞いてきていた。
「友達のために……あんな無茶をする宗は…………私と一緒にいたら死んじゃう」
ミチは無表情でも、心の中はとても優しくて、周りを心配して気遣ってくれる、普通の女の子なんだ。
「構わないよ。ここでミチを見捨てる方が死ぬより、辛い。だからさ、ミチを守らせて」
「で、でも……私……なにもできない」
「それじゃあ、僕に笑顔を見せてくれたら、僕はそれで十分。あ、でも無理矢理作った笑顔は無しだよ」
それでも目を泳がせているミチを、僕は抱き締めた。
「僕の寮に戻ってきて。帰ったらミチがいないと寂しいんだ」
「宗と一緒にいて……ひぐっ、…………いいの…………?」
「あぁ、いいよ」
ミチは涙を流しながら、僕に抱きついた。