友情は突然生まれるもの
その後名前を聞いたら、ミチという名前を教えてもらった。
「風呂入ったし、着替えもしたし、後は寝るだけだ!」
「……うん。迷惑じゃない?」
「大丈夫!こんなに可愛い子と一緒に、お泊まり会やってるようで楽しいよ。ささ、ミチちゃんはベッドに寝て良いよ」
今、気づいたけど、俺は変態か!!
少女を部屋に連れ込んで、一つ屋根の下。変態か!
と、その時チャイムが鳴った。
とっくに消灯時間は、過ぎてるんだが誰だ?
インターフォンを見ると龍地君だった。
良く分からないが出てみることにした。
ドアを開けた同時に胸ぐらを掴まれながら、寮の中に押し込まれ、床に押し倒された。
「なにしてんの!?龍地君!」
「こっちの台詞だ。この寮のルール分かってんのか。消灯時間を過ぎても、男女が一緒に寮内にいたら、最悪退学処分なんだぞ」
そのルールは承知の上で連れてきた。
その前に、龍地君が僕の事を心配してくれているのが嬉しかった。
「龍地君は優しいね、ありがと。でもあの子、色々ワケがありそうなんだよね。見捨てられないんだよ」
「……っち。分かってる上でやってんなら、俺は口出ししねぇよ。気を付けろ、悪かったな」
龍地君は行ってしまった。
△▼△
「おっはよー、龍地君!」
「消えろ」
「昨日の友情は消えてないよ!」
そう言って僕は龍地君に抱きついた。
見た目は怖いけど、中身はめっちゃ良い人なのが分かったから、もう怖くない
チャイムが鳴って先生が入ってきた。
「おらー、者共席につきやがれー。今日は一日目の祭りだー。昨日言い忘れてたけど、魔術である程度の傷を負ったら校庭に自動転送するから、気兼ねなくぶったおせよ」
クラスは少しだけ盛り上がっている。
「これから三十分後、開始だ。さぁ、散った散った!」
各々隠れてもいいようだ。
「雫ちゃん、どうする?……ってもういない!龍地君も!」
一人で戦うしかないか。
三十分後。
教室で一人隠れていた僕は、何も起こらないので出ていくと、一人で歩いてる男子がいた。
まだこちらには気づいていない。
「先手必勝!水玉!!」
△▼△
「分かってたよ!僕はどうせ補欠合格なんだよ!開始二分で校庭に行ったけど、なんか文句ある!?」
「うるさい」
「いいですねー!時間一杯生き残れた人は。さぞ楽しかったでしょうに!」
龍地君が若干引き気味だった。
結果は後ろからの不意打ちで、誰にやられたかも分からず校庭に飛ばされた。
今考えれば危険な所で、一人標的になりやすく歩いているのは、おかしい決まってる。
「あっはっはっは!やっぱりお前面白い!」
龍地君と寮に向かって歩いていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「生徒会長じゃないですか……!この前はよくもやってくれましたね」
「いやいや、君は良い思いしたんだから、プラマイゼロにしようよ」
「分かりました」
「あ、以外にあっさり。俺も帰るところなんだ、一緒に帰っても良い?」
「構いませんけど、龍地君いい?」
「大丈夫」
やっぱり、龍地君は優しい。
「生徒会長、生徒会の仕事はいいんですか?」
「俺の事は来栖でいいよ。龍地に、宗。今回の戦いで俺が負けたら、仕事してやるって言ったらすんなり了承してくれたよ。んで、圧勝した」
来栖先輩は豪快に笑っていた。
△▼△
寮に戻るとミチちゃんが、部屋を散らかしていた。
本人曰く、恩返しに片付けをしようとしていたのだ。
ミチちゃんと一緒に片付けを終えて、明日僕がクラスの代表で戦う事を話したら、心配そうな顔をした。
少しの間で分かったのは、ミチちゃんは基本無表情で、たまに悲しい顔や、負の感情を表すときだけ少しだけ表情に変化がある。
未だ笑顔は見てない。
△▼△
緊張で胸が張り裂けそうだった。気持ち悪い、吐きたい。
「雫ちゃん、今から体調不良で、他の人に変わるのってダメ?」
「メンバー登録してるから、無理。不戦勝になる」
そういえば、雫ちゃんの笑顔もあまり見たときがないなと、ふと思った。
隣にいる龍地君は笑顔は、なんか似合わない気がする。でもギャップとかでヤバイかもしれない。
などと変なことを考えてる内に、放送部のナレーションが聞こえてきた。
『さぁて!Cブロックの選手入場してください!』
その言葉を聞いて、門を潜り抜けると、身体中が震えだした。
全校生徒の声、放送部の声、大音量が僕達めがけて降ってくる。
コロシアムのような、中央に丸い戦う場所、それを囲むように観客席がある。
もう後戻りはできない。
僕は対戦相手を見据える。
誰もいなかった。
『えー、今入りました情報によりますと、今回の優勝確実と言われていた、生徒会長を筆頭に生徒会三人組は、終わっていない仕事があり、急遽遠出をしているようです!!つまり、不戦勝で、一年D組が駒を進めた!』
なんか知らんけど、勝った!
△▼△
『前回は不戦勝で、実力は未だ分からない!一年D組の入場です!対して、一回戦を完封勝利し、他を寄せ付けない実力を示す三年A組の入場です!』
体が震えだす、この緊張感は慣れない。
円盤から少し離れた所にある椅子に座って、話し合いが始まる。
この戦いは、三人が一人ずつ戦って二回勝った方が進める、単純なやつだ。
しかし、相手は三年生。僕は負ける気しかしない。
「俺が行く」
一言告げた龍地君は立ち上がり、すでに準備してる相手がいる、円盤の中央に向かった。かっこよすぎるだろ!
少し胸がトキメキながら龍地君を見送った。
「ボクの名前は蓮。悪いけど、勝たせてもらうよ」
甘いマスクで爽やかに笑いながら、三年生が言った。
「名前は龍地。お前を倒す」
「ははっ……敬語じゃないのね」
互いに睨み合い、放送部が大声で開始の合図をする。
『さぁ!どんな戦いを見れるのでしょうか!!』
「火棒!水棒!」
龍地君が一メートル五十センチメートル程の火で作られた棒、水で作られた棒を手の中に出現させ、間髪入れずに火棒を先輩の頭めがけて振る。
突然の行動に驚きながら、蓮先輩は首を後ろに反らして、勢いでバク転をした。
「風飛。雷拳」
蓮先輩は瞬間的に足元に風を発生させて、龍地君へ物凄いスピードで向かう。
龍地君は勢い良く水棒と火棒を叩き合わせた。
一気に水蒸気へと変わり、視界が見えなくなる。
「こんなものボクだってやるよ!風刃!」
いくつもの風の刃が水蒸気を蹴散らしながら、飛んでいく。
「氷水晶」
龍地君がそう言うと、蹴散らした水蒸気が無数の尖った塊となって、蓮先輩に襲いかかった。
「土極壁!」
蓮先輩を中心にドーム型の、土で作られた壁ができた。その壁が無数の氷の塊から守った。
「雷極刃!」
龍地君から放たれた雷で作られた刃は、土極壁を粉砕し、バラバラになった氷の結晶に通電して、地面から天高く雷が突き上げられた。
「なぜ……一年が上位魔術を……!くそっ……油断した……!」
ボロボロの三年生はそのまま倒れ込んで、場外に無傷になって転送された。
『勝者は!一年D組龍地選手だ!!フィニッシュは一つの芸術のようでした!素晴らしい!!』
颯爽と帰ってきた龍地君の手を握った。
「めっちゃかっこよかった!これで雫ちゃんが勝てば準々決勝戦突破だね!」
「私が出るのか。大将戦で戦うよりは、気が楽だから良いよ」
『さあ!二回戦目の選手、円盤の上に乗ってください!』
これで雫ちゃんが勝てば、僕は出なくて済む。頼む、勝ってくれ。