幼い時、陽気な彼女の場合
ヤンデレ君を追加しました!
じれじれ君を目指す筈が…!!
少し昔の話をしよう。
いや、結構昔でいいか。
私と兄の縁樹は幼い頃は別行動が多かった。
私は今でこそ考えられないがインドア派だった。
図書館の絵本や童話を読むのが楽しかったのだ。
ある時、少し大人ぶってみたくて文字だらけの本を選んだ。
まあよくある子供の背伸びだ。
その本は外国の話を日本語に訳しているものだったがなんせその時の私はまだ小学校に上がる前だったのだ。
漢字がいっぱい使われていた文章を読むのは大変だった。
幸いにも漢字の全てにふりがながふってあり、その本を読むのを諦める事はなかった。
その時読んだのがアーサー王伝説だ。
幼い私にとってはまさにおあつらえ向きだった。
若きガヴェイン郷の冒険、円卓の騎士、魔法使いマーリン、そしてアーサー王。
幼い私が物語に夢中になるのはそう時間はかからなかった。
そして、いつの日かそんな夢物語に出て来る真っ直ぐな正道を歩み、生涯を自分の決めた婦人に仕える騎士に私は理想の相手は騎士様がいいなと思った。
今でこそ65歳を過ぎた男の人が恋愛対象な私だが、小さいときはありがちな自分はお姫様になりたいというやつだ。
そんな事を考えながら小学校に上がった。
小学校に入ってから半年ほど経った辺りだろうか…。
今では会わなくなったし、やっかみが嫌で私自身が会いたくないと思っている幼馴染みと出逢った。
その時、幼馴染みはいじめられていた。
とろい、デブ、とか男子に言われていて泣いていたし、しかも、今の希久哉と同じように喋るのも得意では無くいつもひとりぼっちだった。
実際太っていたしとろかった。
しかも親の遺伝らしく目は蒼く金髪も手伝って浮いていた。
私はというとアーサー王伝説の影響を受け、男の子は弱きを助け強きを挫くものだと思っていたのがいとも容易く崩れ去り、変わりに激しい怒りと嫌悪感を覚えた。
ある日、その幼馴染みの容姿を馬鹿にし、泣いた幼馴染みをさらに虐めた男子達にキレた私が殴る蹴るの大喧嘩(私、女1:男子、男5)を仕掛けた。
勿論私が勝ちましたがなにか。
「へーんだ!!よわいものいじめはわたしがぜったいゆるさないんだからね~っだ!!」
「うわーん!!かっちゃんー!!いたいよ~!!」
「なくなよ!!ううっ」
「あー!うそだー!めがキラッてひかったー」
「うるせえな!!このおとこおんな!!!」
「なんですって~!!もういっかいなぐってやる!!」
「やべっ、にげろ!」
「「「「うわーん!!」」」」
ガキ大将が逃げると同時に取り巻き達が逃げる。
「あっかんべーっだ!あ、大丈夫だった?」
「へ?あ、あ…ううっ…」
「むりにしゃべらなくていいよー」
それから幼馴染み、
卯木 拓海との出会いである。
それから拓海をなんとか人並みに出来るように家から無理矢理引きずり出して、いろんなところを引きずり回した。
その内、拓海は私にいろんなところに連れまわされた所為か、どんどん痩せていき、とろいなんて言わせないほど機敏になった。
だって家がかなり近かったから暇潰しに行っていたこともある。
私達が3年生になったある日、拓海が好きなタイプについて尋ねて来た。
「ねえ、砌ちゃん。好きな人いるの?」
顔を赤らめて恥ずかしそうに聞いてくる。
当然私は、
「いないよ~。なんで~?」
「じゃ、じゃあ好きなタイプは!!」
何故そんなに必死になって聞いてくるのか今でも分からない。
勿論私は、
「騎士様!!」
「騎士…様?」
私が即答したのが意外だったのか疑問系で復唱する。
「うん!!」
それから私は騎士についての憧れとアーサー王伝説を気合いを入れて喋った。
その間拓海は、静かに聞き入っていた。
その頃からだろうか…。拓海が剣道や空手や柔道等の体技全般をやり始め、勉強の成績が一番になり始めた。
その辺りから私と拓海の距離は開き始めた。
なんというか、付き合う人のレベル…というか次元が違うかなと思い、私が距離を取り始めたのだ。
そして一年生の時は見向きもしなかった女子が一斉に拓海に秋波を送り始めたのだ。
まあ、拓海の容姿は整っていて金髪蒼目で格好良くて、元々優しい性格だから気遣いが出来ていたから女子の人気が良かった。
私は一回だけ拓海を好いている女子のやっかみに会い、それが嫌になり拓海から充分に距離を取っていた。
その頃、拓海は習い事や勉強を中心に生活していたから私は拓海気付かれない内に疎遠になるよう行動を取った。
そしてそのまま小学校を卒業し、中学校に入った。
私達の住んでいる所にはあまり中学校が無いため中学校に入っても、そんなにクラスメートに変わり映えは無かった。
その頃にはお師匠様に出会っていて、騎士というものに幻想を抱かなくなっていた。
そのまま1年が終わり、2年になった時、拓海と同じクラスになった。
拓海は相変わらずのハーレムを築いていた。
とはいっても所詮その程度、私は拓海に会わない姿勢を貫いていたし、もう安心だと思い、拓海から興味が離れていた。
その半年後、私が放課後の図書室で本を読んでいた時、奴は話しかけてきた。
「久しぶり…、砌ちゃん…」
どことなく責めるような、そして悲しそうに私に声を掛けてきた。
「何のようかな?卯木君」
私としては拓海は私から離れた方が良いと思い、突き放すような態度を取ることにしていた。
暗い過去の遺物を残させてはいけないと思ったからだ。
「何のようって…!?砌ちゃんはどうして僕からどうして離れていったの!?」
傷付いているようで責めるように聞いてくる。
できれば優しくしてやりたいが、それでは彼の為にならない。
「うーん、女子のやっかみが嫌だからだよ。卯木君」
「その呼び方やめてよ…。昔みたいに拓海って呼んでよっ…!」
「いや、だから卯木君をそんな風に言ったら女子に目を付けられちゃうからね」
「そんなに嫌なら僕がなんとかするからっ!!だからまた一緒に…」
「しつこい!」
「え…?」
言い切る前に遮った。
これ以上は私が危ない。
せっかくだから、この際スッパリと縁を切らせて貰う。
「なんで解らないかな…。あんたと一緒に居るのが苦痛なの!今更友達に戻ろう?はい、そうですね、なんて言わねぇんだよ!!はっきり言ってウザイ!ちょうどいいしここではっきり言っとく…。あんたに興味が無くなった。だから失せろ」
自分で言っててキツい。良心の呵責が痛いほどするし、何より…、『今まで大切にしていた人の今を守る為に、今まで築いてきた全てを壊したのだから』。
今なら嘘だって言える。
良心が囁く。
「そんなっ…の、嘘だ。嘘だって言ってよ…。みぎ…」
「呼ぶな!!」
それでも、大切だからこの縁を切る。
恋愛感情ではない、友人としてだ。
「不愉快になった。帰る」
図書室の本を返し、急ぎ足で退出する。
これ以上は耐えれないから、拓海の傷付いた顔も、泣いていた私の顔も。
『私は大切なものを守るために大切なものを傷付けた。』
それからの私の中学校生活に拓海は関わらなくなった。
私は私の人生を、拓海は拓海の人生を歩んでいくのだ。
ただ、二人は初めからお互いの人生の歯車がかみ合わなかった。…それだけのことだ。
だけど、図書室の一件以来一度だけ話した事がある。
3年生の終盤、受験を控え、受ける高校の願書を出した後、勉強期真っ盛りな12月中旬頃に拓海は聞いていた。
「ねえ、朝霧さんはどこを受けるの?」
そんなたわいない質問だったので正直に答えた。
「園城寺学園だよ。…卯木君はどこ受けるの」
「私立は聖アーリアンティ学院高校で公立は藤棚高校だよ」
どちらもレベルが高いところだ。
どうせ…、私の気が変わらないならもう会う事も無いのだから…。
それから時は移ろい、入学式。
星1から星7の新入生代表達を見て思わず吹いた。
だってそこには、
「ランク6つ星代表、卯木 拓海」
「はい」
なんで…、いるの?
それが第一感想だ。
まあ、未だに接触は無いが奴は生徒会の王子様の愛称を女子達に付けられている。
まあ、それでも拓海とは、もう関わらない事に決めている。
拓海side
彼女は僕の王子様だった。
僕は小学校の頃、デブでとろくてコミュニケーションが不十分な子供だった。
そんなんだから、低学年の時はいじめられていた。
そんな時、彼女は僕をいじめていた子達を蹴散らして助けてくれた。
いつも物語で敵をやっつけってお姫様を助けてくれる王子様の存在に憧れていた。
彼女は僕をいろんなところに連れて行ってくれた。
いつしか、彼女と一緒にいたおかげか、デブじゃなくなったし動きも速くなった。
そして僕は彼女に惚れていた。
ある日、彼女に好きなタイプを教えてもらった。
騎士様だそうだ。
騎士様を語る彼女の目はキラキラと輝いていて僕は心底騎士になりたいと思った。
彼女の喜ぶ顔がみたい、彼女の隣に恋人としていたい、そんな想いで両親に頼み込んで剣道や色んな武術を習った。武術の先生から大会に出ないかといわれたが僕はそんなのに興味が無かった。
勉強も頑張って一位になった。
全ては騎士が好きな砌ちゃんの為だ。
ため…だったのに…、
いつしか僕の周りは砌ちゃん以外の女の子が寄ってきた。
僕はそんなのどうでもよかったが砌ちゃんの理想の騎士様はそんなぞんざいに女性をあしらわないと思い出来るだけ丁寧に対応した。
だけど、いつも僕の隣居たはずの彼女はいつしか僕が気付かない内に離れていて、僕の隣から消えていた。
ねえ…、砌ちゃん。僕、立派になったでしょ?もう君を守れるよ?君の好きな騎士様に…僕、なったよ?だから…、お願いだから僕を見て…、…また僕の隣に居てよ…。
砌ちゃんは僕を見てくれないまま、僕達は小学校を卒業した。
もう会えないと思い、中学校に入学するまでの間、ずっと泣いていた。
だから入学式で君を見つけて凄く嬉しかった。
だけど、やっぱり彼女は僕を見てくれない。
砌ちゃん以外の女が纏わりついてきたのが正直ウザかった。
だけど僕は騎士になりたいんだ。だから絶対に女の子には酷い事はしなかった。
そして、2年生になって機会がやってきた。
先生に頼まれたコピーを取りに放課後、図書室に行けば砌ちゃんがいた。
チャンスだ!と思い話しかけたら、
「何のようかな?卯木君」
え?なんで、
「うーん、女子のやっかみが嫌だからだよ。卯木君」
どうして…、
嘘だ…。ああ、そうだ!
女子の嫌がらせが嫌なら僕がなんとかすればいいんだ!
なのに、
「しつこい!」
なんで?どうして?
砌ちゃん。…なんでなの…?『俺』を嫌いになったの?
そんなの、嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁっ!!嘘だよねぇ!?砌ちゃん!
「そんなっ…の、嘘だ。嘘だって言ってよ…。みぎ…」
「呼ぶな!!」
僕の中で何かが壊れた音がした。
「不愉快だ。帰る」
嫌だ…。置いてかないで砌ちゃん。『俺』、立派になったよね?君の好きなはずの騎士になれたはずだよね?強いよ?君を守れるはずなんだよ…?
だから…、お願いだから『俺』を見捨てないでよ…。砌ちゃん。
『君の理想になりたくて、一生懸命頑張ったけど…、僕が頑張る度、君と君の理想から僕は離れていく』
それから僕は砌ちゃんに関われなくなった。
でも三年になってふと気づく。
砌ちゃんはどこの高校に行くのだろうか?
会えなくなるのは絶対に嫌だった。
だから、
「ねえ、朝霧さんはどこを受けるの?」
「園城寺学園だよ。…卯木君はどこ受けるの」
いいよね?これくらい。
砌ちゃんの質問に先生に受けなさいといわれた高校を答えた。
だけど、砌ちゃんがいないならそんな高校に価値は無いよ。
そして『俺』は砌ちゃんと一緒の高校に入った。
逃がさないよ?砌ちゃん。砌ちゃんは『俺』のお姫様なんだ。君を守るためなら王子様だって斬り殺すよ?だって砌ちゃんは『俺』だけのお姫様なんだ。騎士は忠誠と愛を誓うから『俺』だけを見てね?
少女と少年を隔てる溝は深い。
少女は前を向き歩き始める。
少年は少女の理想に捕らわれ、ゆっくりと壊れ始める。
はてさて、少女と少年の溝は埋まるのでしょうか?
その結末はまだ先のお話。




