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第4章 彼と彼女のそれぞれの事情

やっともう一人の主人公が出ます・・・(汗)

「ふう・・・」

 魔王城の門前で、彼、アグリーは大きく息をついた。

金色の髪に、澄んだ青い瞳が印象的な青年だ。

だが、そんな外見とは裏腹に、彼の心情は、今、激しく動揺の色をみせていた。

ここが魔王の、地の魔王の城!?

 思いっきり背を反らさなければてっぺんが見えないほど、巨大な城だった。塔がいくつか集まった造りで、敷地はぐるりと森に囲まれている。

 森の小道をてくてくと歩くこと数時間。扉から城までは思ったよりも距離があった。

 思ったよりも遠かったな―。

 なだめるように胸を当てた左手からは、自分の鼓動がはっきりと伝わってくる。

「天の魔王、フレイムの力を持つセルウィンを倒すためには、別の同じくらい、力のある魔王から力を借りるしかないんだ。 ミリテリアになるしかないんだ!」

 アグリーは、自分を落ち着かそうと、独り言をつぶやき続ける。

 彼は、セルウィンを追っていた。

 母の敵討ちのために―。

 だが、セルウィンは、天の魔王、フレイムの力を、ミリテリアの力を持っている。言ってみれば、最強の魔王の力をセルウィンは持っているといっても過言ではないのだ。

 例え、他の女神や魔王のミリテリアとなっても、恐らく、彼には勝てないだろう。

 唯一、彼に対抗できる力といえば、天の魔王と相反する力を持つ、地の魔王の力だけだ。

 だが、相手は魔王だ。

 力づくで、自分をミリテリアとして、認めさせるしか方法はないだろう。

きっと、血も涙もない恐ろしい相手だ。

アグリーは、来るべき戦いにさきかけて、腰にかけてある長剣をぐっと握り締めた。

「あれ〜、あれれ〜」

甲高い女の子の声がした。振り返ると、赤い髪をツインテールで結んだ女の子が、ニコニコと彼を見つめていた。

「あれ〜、お客さんですか〜❤」

 少女はそう言うと、わ―い、わ―い、と彼の周りを飛び跳ねまくる。

「久しぶりだ〜、きっと、レー兄、喜ぶね!」

「あ、あの―・・・」

「あのね、お兄さんって、勇者さんだよね?」

「あっ、まあ・・・って、あの・・・」

「やっぱり! 絶対にレー兄、喜ぶよ!」

 少女は、アグリーのセリフに容赦なく、ニコニコと笑いながら割り込む。

「あっ、ほら、入って! 入って!」

「あの、ここって魔王の城じゃ・・・・・」

 ぐいぐいとアグリーの腕を引っ張る少女に、アグリーは必死になって問いかけた。

「あっ、そうか! ごめんね」

 少女は、ハッとしたように口に手を当てる。アグリーは、ほっ、と安堵の表情をみせた。

「まだ、私の名前、言っていなかったね! 私の名前はリバイバル=エンターティナーっていいます! ティナーちゃんって呼んでね❤」

「い、いや、そうじゃなくて・・ね」

 えへへと満足げに笑みを浮かべるティナーとは対照的に、アグリーはガクッとうなだれるのだった。


「あいつ、遅いな」

 がらんとした空間を真っ直ぐ立ち切るように、赤いカーペットの道ができている。

 道先にある立派な玉座には、一人の少年がふんどり返って腰かけていた。

 銀色の髪にスカイブルーの瞳の少年、レークスは、いらいらと肘掛けを叩く。

「まさか、あいつ、おつかいすらできないんじゃないだろうな!」

 だん!

 レークスはいきなり拳を肘掛けに叩きつけた。

 食料を調達してくるね!

 そう言って、町へと出かけた彼の家臣であるティナーが一週間、経っても戻ってこないのだ。

「くそっ!」

余計な心配をかけさせやがって!

いても立ってもいられなくなったのか、レークスはひらりとイスから飛び降りた。

「おや、お出かけですか? レークス様」

 耳がとんがっていること以外は人間とほとんど変わらない魔族の青年がレークスに近寄ってくる。

 レークスの配下の魔族だ。

「散歩だ! 散歩!」

 レークスは顔をゆがめて、不服そうに叫んだ。

 心配だから見てくるとは、間違っても言えない。

「あれ? あれれ? レー兄、お出かけなの?」

 唐突に、聞き覚えのある甲高い少女の声がした。レークスはぴたりと足を止める。

「ティナー、今まで何処に行っていたんだ!」

 レークスは喉が張り叫びそうなほどわめく。

「何処って、買い物だよ」

「そうだな。 そうだよな!」

 のほほんと答えるティナーに、レークスが激しく地団駄を踏みまくりながら迫る。

「だったら、なぜ、丸一週間も帰ってこない!」

 ここから町まで二十分もかからない。

 どう間違っても一週間もかかるわけがないのだ。

「迷っていました! です!」

 ティナーは、満面の笑みを浮かべて手を上げた。

「前も同じことを言っていただろうが!」

「で、でも、うそじゃないもん!」

 ティナーは慌てて手をひらひらさせて、首を勢いよく横に振った。


 何なんだ!?

 二人のやり取りを傍観していたアグリーは、ただただ呆然とするしかなかった。

 魔王の城に来たはずなのに、いざとなったら戦う覚悟もしてきたはずなのに、今、彼の目の前で言い争いをしているのは、十歳かそれくらいの少年と十四歳くらいの少女だ。

 そして、どこかやる気のなさそうな魔族の青年だけだった。彼は、だらしなさそうにあくびをしている。

 この青年が魔王なのか?

 アグリーはまじまじと彼を見つめる。

 とても、そうには思えなかったりするのだが・・・。

「あの、あなたが地の魔王・・なのでしょうか?」

 アグリーは恐る恐る彼ににじり寄り、用件を切り出した。もちろん、来るべき戦いのために、剣の柄をぎゅっと握り締めて―。

「ん―――?」

 魔族の青年は、ぐいっと背伸びをしながら、これまた、大きなあくびをすると、アグリーをじっーと見つめた。

「違う! 違う! 向こう! 向こう!」

 彼はめんどくさそうに手を横に振ると、先程から少女と言い争いをしている少年の方を指し示した。

「えっ?」

「レークス様なら向こうだ」

 はき捨てるように言うと、青年は玉座の間から出ていってしまった。

 取り残されたアグリーはしかたなく、彼が言っていた少年の方を振り向いた。

いまだに、彼は、少女と言い争いをしている。

「あの―、すみません―」

 恐る恐るアグリーは彼らに近づいていく。だが、彼らは、アグリーの存在など全く気づいていないらしく、ひたすら、わめき散らしていた。

 全然、聞こえていない・・みたいだ・・・。

 こうなったらー―!

 アグリーは、勢いよく少年に近づくと、がしっと少年の肩をつかんだ。つんのめったものの、どうにか、少年は踏みとどまる。

「あの! ちょっと、待ってください!!」

「何だ、貴様、何か用か! ん?」

 レークスは、まじまじとアグリーを見つめた。ティナーが彼を見てハッとする。

「そう言えば、貴様、見慣れない顔だな。 怪しい奴め、ここで何をしている?」

「怪しいって、挨拶する暇もなかったじゃないですか!」

 アグリーは抗議の叫びをあげた。

 というか、元々、ここに連れてきたのは、彼女、ティナーさんなんだし。

「タイミング悪く、のこのこやって来た貴様が悪い。 さあ、吐け。 貴様は何者だ! 貴様の目的は何だ!」

 思いがけず、ドタバタしてしまったため、いつもより丁重に一礼することにした。

「初めまして。 僕はアグリー、アグリー=ピースと言います。 地の魔王に会いに来ました」

 レークスの眉がぴくりと跳ね上がる。

「俺に会いに、だと!?」

「俺? ってことはあなたが地の魔王なんですか?」

「ああ」

 アグリーはがっくりと肩を落とした。先程の青年が言っていたこととはいえ、あの地の魔王がこんな少年だったとは思ってもいなかったのだ。ショックである。

「あっ! 思い出した!」

 突然、ティナーが声を張り上げた。

「あのね、レー兄、この人、勇者さんなんだって!」

「なにぃ!?」

 レークスはすかさず、アグリーを睨みつけた。だが、すぐに愉快そうににやりと笑う。

「面白い! 久しぶりに楽しめそうだ」

 レークスは拳をぐっと握り締めた。

「あ、いや、僕は・・・・・」

「まさか、逃げるわけではあるまいな。 勇者ともあろう者が!」

「なっ!?」

 アグリーは、それを聞いてカチンとくる。

この言葉に、彼の勇者としての心に熱い炎を燃え上がらせた。

そうさ―。

どうせ、元々、戦うつもりだったんだし!

「もちろん、挑戦を受けてたつさ! だが、僕が勝ったら、僕をおまえのミリテリアとして認めてもらうからな!」

「ふん、構わん! では、俺が勝てば、貴様は俺の家来になってもらおう! それでどうだ!」

「へっ・・・!?」

 思いもしなかった言葉に、アグリーは言葉を詰まらせる。

 ――魔王の家来――!?

「ふん。 さては、貴様、俺に勝てる自信がないらしいな」

「なっ!」

 落ち着きを取り戻しかけていたアグリーに再び、勇者としての魂が一気に燃え上がった。

「い、いいさ! 勇者は決して負けないさ!」

 即答にレークスはにやりと笑った。ティナーはワクワクしながら二人を見つめている。

「交渉成立だな。 行くぞ、勇者!」

「来い、魔王! 僕は必ずおまえを倒してミリテリアになってみせる!」

 アグリーは愛用の剣をようやく抜き払う。

「ふん」

レークスの両手に、2つの魔力の炎が燃え上がった。

 二人の敵意のこもった視線がからみ合った。

 ばうん!

 戦いの幕は、レークスの投げ下ろされた炎で切って落とされた。


「おい、アグリー」

 魔王城にレークスの居丈高(いたけだか)な声が響く。

「ちゃんと、食料の調達はしてきたんだろうな。 それが終わったら、昼食の準備だ!」

 私室のベットに寝転びながら、レークスは走ってきたアグリーに命令した。

 アグリーがレークスとの戦いに敗れて、はや3日が経とうとしていた。

「はい・・・」

 アグリーは思いっきり力のない声で応える。

 まさか、こんなことになるなんてー―!?

 アグリーの脳裏に、あの時の戦いが甦る。

 レークスが投げ下ろした炎を、アグリーは難なく避けた。しかし、その目前に、避けたはずの炎がいきなり現れた。

「くっ」

 ばうん!

 その炎は、アグリーの目の前で激しい爆発を起こした。一瞬にして、彼の視界が真っ暗になる。

 どうやら、両手同時と見せかけて、わずかにタイミングをずらして放たれていたらしい。

 それにしても、なんという威力なのだろう。

 こうみえても、ちょっとやそっとの攻撃には、僕は耐えられる自信はある。

 なのに、たったの一撃で、僕は彼にあっさり、やられてしまったのだ。

「つまらんな。 歯ごたえがない」

「やったね、レー兄!」

「ふん、当然の結果だ」

 消えゆく意識の中で、そんな彼らの会話が聞こえたような気がした。


 アグリーは、げっそりとした表情で小走りにその場から走り去った。

 魔王の家来の勇者か。

 『光の勇者』、『星の戦士』とうたわれていたあの頃が(といってもまだ3日前のことだけど)すごく懐かしく思えた。

 勇者としての風格がもう既にないなー。

 そう思うと、自然と溜息が漏れてくる。

 リアク。 アクア。

 きっと、心配しているんだろうな。

 2人とも、まさか、僕が魔王の家来になったなんて、思ってもいないんだろうな。

 はあっ。

 アグリーはがっくりと肩を落とした。


「遅い!」

「うん・・・」

 ラミリア王国の城下町にある酒場で、彼らはうなだれていた。

 一人は、バサバサの黒い髪に茶色の瞳の青年だ。じれったらそうに、机をトントンと叩いている。

 もう一人は、ピンク色のストレートの髪を一つに纏めている桜色の瞳の女性だ。彼女は、何かを願うように天に祈りを振り仰いだ。

「やっぱり、アグリー様の身に何かあったのではないでしょうか・・・・・」

「それしかないだろう! あいつのことだ。 どんな無茶なことをしているか、わからんだろう! なあ、アクア!」

「えっ、あっ、う、うん・・・」

 頷くものの、心の中では、リアク兄さんの方が無茶苦茶なのではないでしょうか、と思うアクアだった。

「もしかすると、今頃、俺様に助けを求めているのかもしれない! いや、きっと、そうだ! そうに決まっている!」

 気づかなかった、とばかりに、彼はイスから立ち上がった。そんな彼に、アクアは冷たい視線で突っ込む。

「兄さん、それはないんじゃ・・・」

「行くぞ、アクア! アグリーが俺様達を待ち望んでいるんだ、急ぐぞ!」

「もう、兄さん・・たら・・・」

 そう止めに入るアクアだったが、それ以上は何も言わなかった。

 これ以上、兄に何を言っても無駄なのは分かっていたし、彼女自身もアグリーの身が心配でたまらなかったからだ。

アグリー様、ご無事でしょうか・・・。

暴走気味の兄とは裏目に、彼女はそっと、アグリーの無事を祈った。


「ここが魔王城か! うーむ、俺様の家より数十倍はでかいな」

「当たり前でしょう、兄さん!」

 恨めしそうな目でアクアはリアクを見つめていた。

「だが、俺様は、こんな場所には住みたくないぞ! うんうん」

 独り言のように頷く兄を見て、アクアは、げんなりとした表情をみせた。

 私だけでも頑張らなくてはー―!

 そう決意を硬くするアクアだった。

「あれ〜、あれれ〜」

甲高い女の子の声が聞こえた。振り返ると、赤い髪をツインテールで結んだ女の子が、ニコニコと彼らを見つめていた。

「私、リバイバル=エンターティナーって言います! ティナーちゃんって呼んでね❤」

「はあ〜」

 二人は唖然として彼女を見つめていた。なんと言っていいのか分からない、そんな表情で二人は彼女を見つめていた。

「また、お客さんだね、きっと、レー兄、喜ぶね❤」

 そんな二人の心情を露知らずか、えへへとはにかむティナーだった。


「アグリー!」

「アグリー様!」

「リアク! アクア!」

 城内の薄暗い廊下の中で3人は再会を喜び合った。

「久しぶりだね、2人とも」

「お久しぶりです。 アグリー様」

「無事だったか!」

 コクンとアグリーは頷く。

 久しぶりにリアクやアクアに出会えて、アグリーは胸の奥がじーんと温まっていくのがわかった。先ほどまで失望やら無念さやらで冷え切っていた分、余計に温もりが強く感じられる。

「ところで、何でおまえ、そんなものを持っているんだ?」

 リアクは、アグリーの持っているモップに気づくと、怪訝そうに指で指し示す。

「いや、今、ここの廊下の掃除をしていたから・・・」

「俺様が言っているのはそういう意味じゃない! なんでおまえがこの魔王城の掃除をしているのか、と聞いてるんだ!」

「そ、それが、ぼ、僕、魔王に負けてしまって、今、魔王の家来だったりするんだ」

 しばらくの間、誰もしゃべらず、いや、しゃべれず、愕然とアグリーを見つめていた。

リアクは口を大きく開いたまま固まっていた。アクアも呆然としてその場に立ちつくしている。言葉なんて見つからなかった。こんな時、一体、どんな言葉が見つかるというのだ?

「レー兄に負けたんだもんね!」

 ぱちりとウインクしたティナーに、リアクはキッと非難じみた視線を送った。リアクはぶすっとした顔のまま、ずいっとティナーに迫る。

そして、きっぱりと言い放った。

「言っとくが、アグリーが魔王に負けたのは偶然だ。 そうに決まっている!」

「え――、そうには思えなかったよ!」

 ふてくされたような顔でティナ―はそれを否定する。

「な、なら、今度は俺様と勝負しろ! ちなみに言っておくが、俺様はアグリーよりも格段、実力が上だったりする」

「そんなわけないでしょう、兄さん」

 得意げに、にやりと笑うリアクに、アクアは口を挟んだ。

「さあ、俺様と勝負しろ、と魔王に伝えろ! 魔王など俺様の手でこてんぱんにのしてくれる!」

「リアク、無茶だ!」

アグリーは慌てて、リアクを止めに入る。

はっきりいって、リアクが地の魔王に勝てるわけがない。なにしろ、リアクは、僕にすら、勝てたことがないのだ。いや、今まで、彼はいろいろな人達に挑戦してきたけれど、誰にも勝てた(ためし)がない。

「ふっ、心配するな、俺様は勝つ! 必ずな」

 アグリー達の心配をよそに、リアクは、さも自信ありげに叫ぶのだった。


「おい、アグリー」

 リアクはきょとんとした顔で目を瞬いた。

「魔王はどこにいるんだ?」

 アグリー達は、ティナーの案内で玉座の間までやってきた。玉座に座っていたレークスは、いぶかしげに眉を寄せる。

「えっ、目の前にいるけれど」

「どこだ。 俺様には、生意気そうなガキしかいないように見えるが・・・」

 そう言ってリアクは、キョロキョロと辺りを見回す。

どうやら、彼は、魔王がその辺に隠れているのではないかと疑っているらしい。

「いや、彼が地の魔王なんだけど・・・」

「な、なにぃー―――!!」

 リアクは驚きのあまり、絶叫をあげた。そして、レークスに対して、人差し指をふるふると振るわせる。

 だが、一瞬、何かを察したかのように、フッと小さく笑った。

「こんなガキが地の魔王だって? 笑えないジョックを言うなよ、アグリー。 どう見たってただの生意気なガキにしかー―」

 レークスは呪文を唱えると、リアクの足元に炎を噴き上がらせた。よける暇もなく、リアクは炎に包まれていく。

しばらくした後、ゴンと鈍い音がして、リアクはあっけなくその場に崩れ落ちた。もちろん、黒焦げの状態で。

「ふん、子供扱いするな」

リアクを見下ろして、レークスは、不機嫌そうにつぶやいた。

アグリーとアクアは、唖然としてその光景を見つめていた。

「レー兄、やったね❤」

 ティナーだけが嬉しそうに目を輝かせていた。


「おい、アグリー・・・」

 地の底からわき上がるような呻き声がアグリーを呼び止めた。

「リアク、大丈夫か?」

 見れば山のような石材を(かつ)いだリアクがよろめきながら城壁に向かっているところである。

 何でもスループットさん(あのやる気のなさそうな魔族の人)達と城の外壁の修復工事を行うらしい。

「兄さん、頑張って」

 買い物かごを持ったアクアが応援する。リアクは恨めしそうにそれを見つめると、どんよりと抗議した。

「どうして、俺様達も魔王の家来になっているんだ?」

「ごめん・・・」

 アグリーは申し訳なさそうにうなだれた。

あの後、彼らも、アグリーの仲間だという理由で、魔王の家来にされてしまっていた。あの時、あっさりしてしまった口約束を、アグリーは、今更ながら後悔していた。

「アグリー様、お気になさらないで下さい。 私はアグリー様のお役にたてるだけで幸せですから」

 アクアは頬を染めて、はにかむように微笑んだ。

「ありがとう、アクア」

 アグリーも微笑する。

「それにしても、あのガキが地の魔王なんて、いまだに俺様は信じられんぞ!」

 疑うような眼差しで、リアクはぼやいた。拳を握り締めて力強く断言する。

「おい、誰がガキだ」

「決まっているだろう! あのくそ生意気なレークスのガキだ」

 背後から聞こえてきた声に、リアクはきっぱりとそう答えた。途端、アグリー達は真っ青な顔になる。

「ん? なんだ」

 あっけからんとした口調でつぶやいたリアクは、背後にいた人物を見て、硬直した。

「この俺の前で、そんな暴言を吐けるとはいい度胸だな」

「うっ・・・」

案の定、そこにはレークスが立っていた。不適な笑みを浮かべ、リアクを見つめている。

「どうやら、すぐにでも死にたいらしいな」

 すさまじいとしか形容できない目つきで、レークスはリアクを睨み付けた。

「ううっ・・・・・」

「あ、あの―ー」

慌てて取りなそうとしたアグリーとアクアだったが、レークスの次のセリフで目が点になった。

「ふん、まあ、いい」

 マジマジとレークスを見るアグリー達。

「だが、俺のことをガキ扱いをするのはやめろ、いいな!」

 いきなりレークスは声を張り上げると、その場から立ち去っていった。

「あいつて、・・・魔王だよな」

 リアクは、ほっと胸をなでおろしながらつぶやいた。

 てっきり、自分は殺されるとばかり思っていたからだ。

 少なくとも天の魔王、フレイムや魔王、グレイスといった輩は、気に入らんと思えば、あっさりと殺していたはずだ。

「地の魔王って、天の魔王の弟だったよな」

「はい、そのはずですが・・・・・」

 アグリーの問いかけに、アクアは返答した。

 天の魔王を間近で見たことがあるだけに、そのギャップが激しい。

 3人は思わず絶句した。だが――

「魔王って悪い奴ばかりじゃないんだな」

アグリーには、すぐに嬉しさがこみ上げてきた。

魔王は血も涙もない恐ろしい相手だ。

 てっきり、そう思っていた。

だけど、実際は、レークスさんみたいな人もいる。

そう思うと、アグリーの心に大きな希望が出てきた。

「生意気なガキだけどな」

 珍しくリアクは、アグリーの言葉を否定しなかった。

 ブツブツ言いながらも、どことなく嬉しそうだ。

「兄さんの方が・・・えっと・・・」

 生意気なのではないでしょうか、と言いたかったアクアだったが、とっさに言葉を濁らす。


 セルウィンに勝てるかもしれない。

 天の魔王、フレイムに勝てるのかもしれない。


アグリーは力こぶを作る真似をして見せた。

「絶対に、地の魔王のミリテリアになってみせるさ!」

「そうですね、きっと、すぐです!」

 スッキリしたアグリーの横顔を見て、アクアは満面に笑みを浮かべた。


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