表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/39

第23章 その青い空の下2

「レークスさん!ティナーさん!大変です!」

城のバルコニーで語り合っていたレークスとティナーを呼ぶ声がした。ふと耳を傾けてみると、それはアグリー達のようだ。

「ゆ、夢の女神様が、リーティング様が、お二人にお話があるらしいんです!」

「えっ・・・・・?リ、リーティングさんが!」

ティナーは驚いて目を丸くして声を上げた。

「リーティングって、貴様の知り合いのあの女神か?」

「うん!驚いた?」

「うむ。驚いたな」

めずらしく素直に嬉しそうな顔をしたレークスに、ティナーは警戒感をあらわにした。

「あれ?めずらしいよね・・・・・。レー兄がそう言うなんて」

「まあ、一度、会ってみたいとは思っていたからな」

「そうなんだ!」

アグリー達に手を振りながら、ティナーはレークスにとびっきりの笑顔を向けた。

リーティングさんに久しぶりに会えるのもすごく嬉しい・・・・・。

でもそれと同時に、レー兄の口からぽろりと、「会ってみたかった」という言葉が出たのが嬉しかったから・・・・・。

「ただ、それだけだからな」

いぶかしげにレークスが唸る。

「うんうん!」

ティナーは満足げに笑みを浮かべて、何度も何度も頷いた。

いまいち信じられないという顔になりながらも、レークスはとりあえず話題を変えた。

「で、その女神とやらはどこにいる?」

眉をひそめたレークスを気丈に見上げ、アグリーは片手を高々と打ち上げた。

「そちらに案内しましたが?」

「なにぃ!?」

「ええっ!」

語尾の違いはあるものの、レークスとティナーは思いっきり声を合わせていた。

「それにしては、まだいないみたいだが?」

レークスはうつむき、そして反論した。

「そうかしら?」

背後からのくすっと言う笑い声に、レークスは思わず顔をしかめた。

「リーティングさぁぁぁぁぁんっ!」

「テ、ティナー・・・・・ちゃん・・・・・!」

振り返ると、そこには金色の髪の女性−−リーティングが慈愛に満ちた微笑を浮かべて立っていた。

ティナーは以前、一緒に暮らしていた時と同じように、彼女のもとへと転がるように走っていった。

以前、離れ離れになってしまった魔王城での出来事もあって、リーティングは顔をうつむかせて気まずそうにしていたのだが、ティナーには全く気まずさは感じられない。普通の接し方だった。

「リーティングさん、どうして・・・・・」

「ティナーちゃんに会いたかったから、じゃだめかしら?」

「ううん!また、会えて嬉しいよ!」

ティナーは瞳を潤ませて微笑んだ。

「で、こいつが夢月の女神なのか?」

「兄さん!」

「リアク!」

リアクとアクアとスチアを引き連れ、アグリーがのっそりと現れた。

「うん!紹介するね。この人がリーティングさん。私のお姉さんみたいな人だよ。あのね、リーティングさん。こっちがレー兄だよ!」

「おい、俺様達の紹介はないのかよ!」

渋い顔で、リアクがリーティングをじろじろと観察した。何だか、普段より余計にいらだたしげだ。やはり、無視されたことが気に食わないのだろう。

あまりにもぶしつけで失礼ではと、アグリーとアクアとスチアの三人は顔を青ざめたが、幸い、リーティングに気を悪くした様子はなかった。

「ところで、ティナーちゃん」

リーティングはそうつぶやくと、ティナーの背後でぶすっとした顔をしているレークスを見つめた。

「レーナティは・・・・・生きていたの・・・・・?」

リーティングは戸惑いの表情のまま、そうつぶやいた。意味ありげにレークスを見る。

リーティングは喜びのあまり、言葉が出なかった。

ティナーと再会できたことだけでも嬉しいというのに、死んだと思っていたレーナティが生きていたのだ。

言葉なんて見つかるわけがなかった。こんな時、一体、どんな言葉が見つかるというのだろう?

「レーナティさん・・・・・、生きて・・・・・生きていてくれたのですね。私、わ−−」

リーティングはそこで言葉を詰まらせる。

代わりに小さく微笑んで、彼を優しく抱きしめた。

「あなたが生きていてくれてよかった・・・・・」

リーティングは顔を伏せると、目を閉じて再び微笑んだ。

しばらくバツが悪そうにそれを見つめていたレークスだったが、意を決したかのように告げた。

「・・・・・勘違いするな。俺は地の魔王、レークス=エンタシス様だ!」

「ああっ!」とティナーがうめいたような気がしたが、空耳だろう。

「レークス・・・・・さん・・・・・?」

「そういうことだ」

リーティングとレークスが、しばらく視線を合わせる。

リーティングとティナーは顔を見合わせ、小首を傾げた。

大丈夫だよ、というようにティナーはこくんと頷いてみせた。

リーティングはティナーに微笑みかけ、それからレークスの手をとった。

「・・・・・そうなのね」

「ああ」

満足げにそう答えたレークスの顔を、リーティングは熱い視線で見つめた。

「あなたがレミィさんが探していたレーナティさんに似ている人なのね」

リーティングの真面目な問い返しに、レークスだけではなくティナーやアグリー達も目を丸くして驚いた。

「レミィラン様のことを知っているのか?」

「ええ・・・・・」

アグリーの問いに、リーティングは小さく頷いてみせた。

そして、逆にレークスに問い返す。

「あなたも知っていますよね?」

「ああ」

リーティングの言葉に頷き、レークスはばしっとリーティングに言い放った。

「だが、あの空間で出会って以来、会ってはいないがな」

「レー兄、行き方、分からなくなっちゃったんだもんね!」

えへへと笑いながら、ティナーは言った。

その途端、レークスはみるみる顔を真っ赤に染めた。

「よ、余計なことを言うな!」

「でもでも、本当のことだもん!」

・・・・・まるで、レーナティさんとティナーちゃんの言い合いみたい。

怒ったり泣いたり笑ったりと以前と変わらぬ表情を見せるティナー。

そして、レーナティよりは背は低いけれど、彼と一遍も変わらぬ表情を見せるレークス。

リーティングは急に懐かしさがこみ上げてきて、大きな瞳をうるうると潤ませた。

「レーナティさん、今度こそ、私が守ってみせます・・・・・!」

その唐突な行動に驚いたのか、レークスとティナーは言い合いをやめた。

「だから、俺はレークスだと−−」

「はい、わかっています・・・・・。あなたがレーナティさんとは違う別の方だって・・・・・。でも、それでも、あなたがレーナティさんに似ているのは確かなんです!私が守りたかったレーナティさんに!」

レークスの言葉をさえぎって、リーティングは真意の眼差しでレークスを見つめた。

「だから、今度こそ守りたいんです!あなたを!・・・・・それが、レミィさんの願いだから・・・・・!」

レークスはぽかんと口を開けた。

リーティングは日だまりのような笑みを浮かべて目を閉じると、両手を胸に当てた。

レーナティさんに似ているけれど、やっぱりどこか違う感じの人・・・・・。

でもやっぱり、レーナティさんの側にいるみたいな感じです・・・・・。

あの時、レーナティさんを守ることができなかったけれど、今度は守ってみせます−−。

あなたを−−、レークスさんを−−。

そしてレミィさん、あなたが愛したこの人を、私が愛したレーナティさんに似ているこの人を−−。

不意に、リーティングは何かの衝動にかられた。自分の心の水面から何かが浮上してくるのをはっきりと感じた。

リーティングは少し顔を曇らせて、ちらりとティナーを見た。

ティナーはそれに気づくと、何かを察したかのように輝くような笑顔を浮かべた。

「リーティングさんも、ずっと一緒にここにいよう!」

「は、はい!」

リーティングもそれに応えるかのように、にこっと自然な様子で微笑んだ。





辺りが和やかな雰囲気に包まれる中、リアクだけが陰険な目つきでレークス達を見つめていた。いや、リアクだけではない。アグリーとアクア、そしてスチアも呆然としたまま、その光景を傍観しているに過ぎなかった。

「・・・・・・・・・・おい、アグリー。この状況はまさか、俺様達の存在を忘れられているのではないか?」

いぶかしげな顔のまま、リアクはうーんと唸る。

「・・・・・多分、忘れられていると思うのですが」

それを聞いて、アクアは悲しげに溜息をついた。

「う、うん・・・・・」

その言葉に、アグリーは力なく同意する。

「・・・・・パーティーはどうなったんだろうか?」

「そ、そうですよね・・・・・」

悲しげにそうつぶやくアグリーに、スチアは困ったように苦笑する。

「・・・・・・・・・・」

リアクはじっと何事か考えた後、ぽんと手を叩く。その口元には、にやりと愉快そうな笑みが浮かんでいた。

そして−−。

「よし、こうなったら、俺様を祝う祭りの続きをするか!」

言うが早いか、リアクは上機嫌で城の外へと向かい始める。

「ちょ、ちょっと、それはまずいんじゃ・・・・・」

目を丸くしたスチアの前に、アグリーが大慌てで割って入る。アグリー達にとっても、それはあまりに思いがけないことだったのだろう。その表情はスチアから窺い知ることはできないが、少し慌てているようだった。

「あ、あの・・・・・、何か特別なお祭りなのでしょうか?」

スチアはまだ首を傾げていた。

だからこそ、失礼だとはわかっていても、スチアはそう聞かずにはいられなかったのだろう。

「あっ・・・・・ごめんなさい。な・・・・・、何でもないんです!気にしないで下さい・・・・・!」

アグリーの代わりにアクアは悲しげにそう答えると、アグリー達の後を追って城の外へと向かった。

「えっと・・・・・?」

−−一緒に行った方がいいのでしょうか・・・・・?

スチアは人差し指を口元に近づけて、不思議そうに首を傾げた。

そして少し遅れるカタチで、スチアはアグリー達の後を追いかけ始めた。




それからまもなくして、リアクが再び開いたパレードの続きは順調に進行していった。

プログラムは『リアク様を称える歌』(もちろん、リアクの独唱)、その次は『リアク様を称える演説』(当然、リアクの独断の話)、さらにその次には−−とプログラムは目白押しだ。

明らかにリアクのためにある、リアクのためのお祭りだった。

そこへ怒りの表情のレークスが、ドカドカと割り込んできた。

リアクの表情が目に見えて凍りついた。

「何をやっているのだ!」

こめかみをピクピクさせながら、レークスは問いただす。

「いや、あの・・・・・」

「言い訳など聞かん!」

レークスは左足をだんっと前に出す。

「く、くそっ!こうなったら、俺様の本当の実力を見せつけてやる!行くぞ、スーパーギャレッ−−」

「遅い!」

「ぐわぁぁっ!」

ずがべし〜ん!とばかりに、レークスの放った炎の玉によって、リアクは勢いよく空へとぶっ飛んだ。そのまま雲を突き破り、宇宙の塵へと消えていった。

どうやら、彼は本当のお星様になってしまったらしい。

「リアク!」

「リアク兄さん!」

「リアクさん!」

慌ててアグリー達は、リアクを追いかけ始める。

「レー兄、やったね」

「ふん、当然の結果だ!」

嬉しそうにバルコニーから手を振るティナーを見て、威厳溢れる声でレークスはそう叫び返した。

「すごいですね!」

リーティングはにこっと微笑んでみせた。

「・・・・・・・・・・」

腕を組み、レークスはあらぬ方向に向いた。耳先まで火照らせたままで。

「あっ!レー兄、照れているんだね」

ティナーは苦笑まじりに、レークスに視線を送った。

途端、レークスは顔をしかめ、言葉を詰まらせる。

「そ、そんなはずないだろうが・・・・・!」

「えへへ・・・・・」

ティナーもつやつやした頬を染めて、はにかむように笑った。




その後、城のバルコニーの上で、リーティングはティナーとともに夜空を見上げていた。

時刻はもう夜だった。空を見上げても夕暮れの太陽は見当たらず、その代わり、三日月の月が彼女らの営みを見下ろしていた。

「ねえ、リーティングさん・・・・・」

微かに微笑みながら、ティナーはつぶやくように言った。

そして、リーティングの右袖を握りしめるとそっと寄りそった。

「・・・・・一緒にいてね。これからは」

リーティングはハッとする。

ドクンッ!と彼女の心臓が大きく胸をノックした。

「レー兄とリーティングさんと私と、あとアグリーさん達で・・・・・、ずっと一緒にいようね!」

ティナーは身じろぎもせず、きっぱりと言い放った。

「・・・・・うん」

だいぶ間があいてから、リーティングは言った。

「うん。私もね、ずっとそうなったらいいなと思っていたの」

リーティングは噛みしめるようにつぶやき、頷き、しかしまたすぐに顔を上げた。そしてまた、日だまりのような笑みをティナーに向けた。

「よかった・・・・・。じゃあ、これからはずぅっ−−とずぅっ−−と、一緒にいられるんだね!」

ティナーはそう言って、にこっと微笑んでみせた。

つられて、リーティングもくすっと笑う。

「えへへ!これからもよろしくね!リーティングさん」

ティナーはそう言って、満面の笑顔で笑った。

その笑顔を、リーティングは心からいとおしいと思った。




嬉しい。

夢だったから。

ずっと、ずっと・・・・・。

両手をつないでくれる人が−−。

側にいてくれる人がいることが−−。

ずっとずっと前から。




「・・・・・・・・・・ありがとう、ティナー」

リーティングは隣にいる少女に、ぎりぎり聞こえるくらいの小さな声で呼びかけた。

「うん・・・・・」

声はティナーに届いた。目を閉じて、小さく頷く。





レーナティさん、今まで守ってくれてありがとう。

大好きです・・・・・!

今までも、そしてこれからもずっと・・・・・!

今回で完結です。

この後の話が『ライム・ア・ライト2』の話だったりします。順番が違っていたりしてすみません



最初に短くなります、と書いていましたが、実際は最後まで載せてしまいました

そのため、長いお話になってしまいましたが、ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ