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第20章 スミレ、空をゆく2

再び、両目を開けてみると、四つの視線が僕を強く突き刺していた。

「ダイタさん!」

「ダイタ様!」

マジョンとファミリアさんが激しく僕の体を揺さぶった。

「・・・・・まじで、やばいんじゃないか?」

あんまり深刻でもなさそうに、フレイが言った。

ううっ、それはないよ、フレイ・・・・・。

激しい脱力感が僕の気力を奪い去り、開きかけた目は再び閉じてしまう。

しばらく、間を置いた後、僕はばっちり、さも今意識を取り戻したかのように目を開いた。

「気がつかれましたか、ダイタさん−−」

僕の枕元で、疲れ果てたふららさんが瞳を潤ませていた。

後から聞いたのだが、何でもほとんど寝ずにずっとベットの横で、僕の看病をしてくれていたらしい。

「・・・・・ここは、どこ・・・・・?」

「ダイタさん!」

「ダイタ様!良かったですわ!」

マジョンとファミリアさんに抱かれつつ、僕は周りを見回してみると、どうやらそこはバリスタの港町のようだった。宿屋のベットの上に寝かされていたらしい。

部屋には、僕とマジョンとふららさんとフレイとファミリアさんの五人がいて、そのうち、マジョンとファミリアさんが泣きながら抱きついているらしかった。フレイは腕組みをして少し離れたところで僕を見下ろし、ふららさんは僕のすぐ横でイスに腰かけ、嬉しそうに僕を見つめていた。

マジョンとファミリアさんが落ち着きを取り戻し、ふららさんが隣の部屋の様子を見てくると言って出ていってから、僕はあれからどうなったのか質問した。

部屋から差し込んでくる日の光は、すでに血の色を濃くしていた。あれからすでに半日は過ぎていたらしい。

・・・・・って、僕はそんなにも長く、あの空間の中にいたんだ。

う、ううーん。

とりあえず落ち着きを取り戻してから、僕はあらためてマジョンに質問した。

「それで、あれからどうなったの?」

「それが私達も、あの後、何故か、このバリスタの港町の海岸付近で倒れていたんです。でも、ダイタさんだけがいなくて・・・・・」

「まあ、そういうことだ」

マジョンの言葉に後押しするかのように、フレイはうんうんと頷いた。

「・・・・・ですから、わたくし達、必死になってダイタ様を探したのですわ!」

ファミリアさんは目にいっぱいの涙を溜め、両手を大きく広げて、僕の前に立った。

本当に必死だったらしい。

少なくとも、ファミリアさんは・・・・・。

「でも、見つかって本当によかったですの!」

ファミリアさんは嬉しそうに微笑むと、そう言って憂いに満ちた瞳で僕を見つめていた。

「ファミリアさん・・・・・」

僕は一瞬、戸惑った。

どこか熱い眼差しで、ファミリアさんが僕を見つめていたからだ。

開かれた窓から強い風が吹き抜け、ファミリアさんの髪がひときわ大きくなびいた。

「と、ところで、リーティングさんは?」

「隣の部屋で寝ていますよ」

話題を変えるかのように僕が聞くと、マジョンはかすかに微笑みながらそう答えた。

「そ・・・・・そうなんだ・・・・・」

僕は安堵の吐息を漏らす。

マジョンは真剣な表情を浮かべて言った。

「ダイタさん」

「えっ?」

「会いに−−」

マジョンが口を開けるのと同時に、僕の胸の緊張感が高まっていくのを、僕は肌で感じていた。

僕にはマジョンが何を言い出そうとしているのか、皆目というか、ある程度、見当がついていた。

一度言葉を切った後、あらためてマジョンは言った。

「会いに、行きますか?リーティング様に」

僕は即答できなかった。

あの時の−−あの空間でのことを思い出し、照れくさく感じたからだ。

たっぷり三十秒ほど間を置いてから、僕は答えた。

「・・・・・うん!」

「分かりました。私もご一緒します。あの・・・・・立てますか?」

マジョンはそう告げると、僕の側に駆け寄ってきて、僕の右手を両手でぎゅっと握った。

僕の心臓が一度大きく跳ねた。

「えっと・・・・・」

「よし、とっとと行こうぜ!夢月の女神様の元へ!」

僕が何かを言う前に、フレイは素早くそう叫んだ。

そして、病み上がりの僕を無理やり引きつって、リーティングさんがいる部屋へとフレイは向かったのだった。

ああっ・・・・・。



「リーティングさん!」

「ダイタさん・・・・・」

隣の部屋で横になっていたリーティングさんは、僕を見ると少しはにかんだ笑みをこぼした。

「大丈夫ですよ、リーティングさんは」

ふららさんは穏やかな笑みを浮かべながら、僕に言った。

僕はふららさんと顔を見合わせて、ほっとする。

一緒にいたマジョン、フレイ、ファミリアさんも同様に胸をなでおろしていた。

「もう、起きてて大丈夫なの?」

「はい。・・・・・ありがとうございます、ダイタさん」

戸惑いながらも僕がそう訊くと、リーティングさんは柔らかな笑顔をたたえながら答えた。

「そ、そうなんだ・・・・・」僕は慌てて彼女から視線を逸らし、照れ隠しのように頭をかいた。

リーティングさんはそんな僕を見て、くすりとかすかに笑みを漏らした後、「はい」と僕の背中に声をかけてきた。

リーティングさん・・・・・。

僕はぐっと拳を握りしめ、きつく目を閉じた。

言葉でどんどん伝えれば、どんなことでも必ず届くと思っていた。でも、それは間違いだった。

言葉では届かないことがある。伝わらないこともある。

閉じたまぶたの奥に、遠ざかっていくリーティングさんの笑顔がちらついた。

僕の胸がきりきりと痛んだ。

リーティングさんと一緒にいたい。

このまま、一緒に僕達といてほしい。

素直な気持ちに、僕は心を痛め続ける。

「あ、あの・・・・・、リーティングさん・・・・・」

僕は意を決して訊いた。

「これからどうするの?もし、行く当てがないのなら、僕達と一緒に来ない?」

僕はごくんと息を呑み、思い切ってそう尋ねた。

だが、リーティングさんは首を横に振った。

「私、レミィさんの想い人を探してみたいんです!レミィさんがあれほどまでに会いたいと願っていた人を!この世界を滅ぼしてでも会いたいと願った人を!」

「あっ!・・・・・そ、そういえば、どうしてこの世界は消滅していなかったのだろう?あの時、確かにレミィさんはこの世界を滅ぼそうとしていたのに・・・・・」

そこでやっと、僕はそのことに気づく。

僕が不思議そうに首を傾げながらそう訊くと、リーティングさんは悲しそうに微笑んでうつむいた。

「よくは分かりません・・・・・。でも、もしかしたらその人がこの世界で生きることを望んだからなのかもしれません・・・・・」

「で、でも・・・・・手がかりすらも何もないのに−−」

そう不安そうに訊く僕に、リーティングさんは再び、首を横に振った。

「・・・・・確かに、どんな人なのかも分かりません。人なのかも、魔族なのかも、それすらも分かりません・・・・・。・・・・・でも、それでも、私は会ってみたいんです!レミィさんが想い続けた人に!レーナティさんに似ているっていうその人にっ!」

最後はほとんど叫びになってしまっていた。

リーティングさんの決意の固さに、僕は思わずたじろいた。

「えっ?で、でも、一人じゃ−−」

「もう、大丈夫です・・・・・。私のこの胸のうちには、たくさんのものがありますから・・・・・」

風にブロンドの髪をなびかせながら、リーティングさんは深く大きな溜息をついた。

そして、にこやかに言った。

「強く生きていかないと、ね!」

僕は指先で涙を拭いながら笑っていた。

リーティングさんの心には、もうすでに戸惑いの心は微塵にも残っていなかった。そう思ったら、何だか嬉しくなったのだ。

僕は思わず、彼女の名を呼んだ。

「リーティングさん・・・・・!」

リーティングさんは慈しみの笑顔を浮かべて、僕を振り返る。

「ダイタさん・・・・・?」

僕は優しい笑顔を浮かべる。

「その人とは、会えるよ!」

リーティングさんは驚いて、僕を見つめた。

僕は真剣な眼差しで続ける。

「僕に−−、リーティングさんの想いによって生まれた僕に会えたことがその証だよ!必ず会える!レーナティさんに似ている人ならきっと、レーナティさんのような、そういう人だと思うから・・・・・!」

僕はそう告げると、窓から空を見上げた。

リーティングさんも、僕の横に並んで空を仰いでいた。

「また、会えるよ!その人にも、僕達にも!」

僕は満面の笑顔でそう言うと、左手の小指を差し出して、リーティングさんを見つめた。

「はい!」

僕とリーティングさんは顔を見合わせて、指切りをした。思わず、笑みがこぼれる。

僕はリーティングさんを見て、それからマジョン達を見た。

そして、もう一度、空を見上げた。

「絶対に会えるよ!」

と、僕は笑みを浮かべながらそう言った。





その晩。

リーティングさんと別れた後、そのまま僕達はバリスタの港町の宿屋に泊まった。灯りを消してベットに寝転がりながら、僕はまたもやまったく寝つけずにいた。

だから僕は、マジョンが置いていってくれた一口サイズのパンをパクパクと食べながら、またもやじっとリーティングさんのことを考えた。

それから自分のことも、やっぱり考えた。

今頃、リーティングさんはどうしているのだろうか?

大切な人を奪われ、信じていたことに裏切られた身となりながら、それでもリーティングさんは僕のことを考えていた。いや、僕や僕らのことばかりではなく、自分を利用したレミィさんのことさえ心配していた。

レミィさんがリーティングさんの想いを利用してまで会いたいと思っていた人は、あのレーナティさんに似ている人らしかった。でも、レミィさんがこの世界を消したら会えると言ったように、普通の人間とかではないらしい。

魔族−−それとも、−−特別な人間?

それすらも定かではなかった。

ただ一つ、確かなのは、それでもレミィさんが会いたいと願った、ただひとりの人だということだ。

リーティングさんはそんな彼女のために何かしてあげたいと言った。

もしかしたらその人に、亡くなったレーナティさんを重ねたのかもしれない。

だから、レミィさんの代わりにその人のために何かしたいと思ったのだろう。

僕は、僕に何かリーティングさんのために、そしてレミィさんのためにできることはないかと考えていた。

誰かのために力になりたい。

そうすれば、きっと自分の生きる意味を見出せるような気がした。

けど、僕にできることはないに等しい。全くの無力。ただ、励ましたりすることだけしかできない僕自身。

そんな僕が、リーティングさんのために一体何ができるというのだろうか・・・・・。

こんこん。

思考の迷路に迷い込んでいた僕を救い出したのは、突然のノックの音だった。

こんこんこん。

時計を見ると、深夜一時を回っていた。

こんこんこんこん。

一体、誰だろう?

こんな時間に僕達の部屋のドアを叩くのは。

こういうことをしそうなのはフレイなのだが、フレイは僕と同室ですでに深い眠りへと落ちている。

なら、マジョンか、ふららさんか、ファミリアさん辺りだろうか?

胡散臭さ半分、不満と怒りも半分、けれど放っておくといつまでもノックが続きそうなので、

「・・・・・だ、誰ですか?」僕はできるだけ不機嫌な声を出すよう努力しながら、ゆっくりとドアを押し開いた。

「夜分、すみません・・・・・」

ドアの外に立っていたのは、マジョンだった。

「ちょっと話があるのですが、一緒に来てもらえませんか?ダイタさん」

マジョンは言った。



マジョンが案内した先は、バリスタの港町の海岸だった。夜の海は冷えると言うがまさにその通りで、一歩足を踏み入れただけで、僕は恐怖とか高まりとか何の関係もなく、ブルブルと震え上がってしまったほどだった。

「ねえ、マジョン」

そろそろ海岸付近が見えてきた頃、僕はマジョンに呼びかけた。

「話って、何なのかな?」

「どうして、ダイタさんはリーティング様と一緒に行かなかったのですか?」

マジョンはそう尋ねてきた。

マジョンの言葉には責めるような調子は含まれていなかった。マジョンはただ、僕を心配して言っているだけだった。

僕は沈黙で答えた。

まっすぐに僕を見つめたまま、マジョンはまた訊いた。

「どうして、なんですか?」

「どうしてって・・・・・言われても。・・・・・ううーん。・・・・・どうしてかな?」

僕は遠い目をした。

「でも、僕の居場所はここだと思うから!みんながいるのは当然だと思っていたからずっと気づかなかったけれど、あの時−−レミィさんの世界が消えてしまうかもしれないっていう時、マジョンが、みんなが遠くに行ってしまうと思ったら、とても怖かったんだ・・・・・」

「ダイタさん・・・・・」

僕はバツが悪くなって、ごまかすように笑うのが精一杯だ。

「私もあの時、すごく怖かったです!・・・・・ダイタさんが消えてしまう、そう思ったらすごく怖かったんです!」

「マジョン・・・・・」

涙をうっすらと浮かべるマジョンに、僕は胸を突かれた。

その時、ふわっと白いものが僕の頬に落ちてすっと消えた。

「あっ!」

僕は思わず、空を見上げた。

真っ暗な空から、白いものがふわりふわりと舞い落ちてくる。雪だった。

「バリスタの港町でも、雪って降るんだ・・・・・!」

「・・・・・ええ。めったには降りませんけれどね」

雪をみつめながら、マジョンはつぶやくように言った。

「こうしていますと、お母さんのことを思い出します。お母さんの言葉を」

そう言うと、マジョンはにっこりと微笑んで母の声音をまねた。

「『いい、マジョン。たとえどんなに願っても、決して時間は止まってはくれないの。だからね、今、あなたができることを、やれることをしなさい。自分のために、そして誰かを助けるために力を使いなさい。そうすれば、きっといつかあなたのことを、本当に大切に想ってくれる人が現れるはずだからね−−』って・・・・・」

「マジョン・・・・・」

僕はまじまじとマジョンを見つめる。

「お父さんは、やっぱり私にとってよく分からない人でした」

と、マジョンは言った。

「それにレミィさんは−−」

「レミィさんは、彼女の信じる強さを貫き通した人だよ!」

僕は言った。

僕はきょとんとするマジョンの右手を両手で握りしめ、笑った。

「僕達やリーティングさんと同じようにね−−!」

僕とマジョンは、熱いまなざしで見つめ合った。

笑いながら、僕はマジョンに言った。

「想いの強さはカタチになるって、マジョンも言ったじゃないか。ほら、レーブンブルクの街で!」

「あっ・・・・・!本当ですね」

僕とマジョンは、お互いにひとしきり笑い合った。

僕とマジョンは長い付き合いだけど、こんなふうに二人で顔を見合わせて笑い合うなんて久しぶりだった。それに、二人きりになるのだって本当に久しぶりだった。

「どうしたの?」

突然、押し黙ったマジョンを、不思議そうに僕は見つめた。

「いいえ、何でもありません・・・・・」

マジョンはそう答えたけれど、すぐに「ダイタさん」と、僕に呼びかけていた。

「えっ?」

と、僕は首を傾げた。

「あのですね−−」

どうして急に、マジョンがそう言ったのか、僕には分からなかった。

でも少なくとも、僕はこの時、動揺してしまっていて、そんなことを考える余裕はなかった。

マジョンは言いにくそうにつぶやいた。

「えっと、あのですね。私−−、私−−」

「なあに?」

「私、ダイタさんが好き・・・・・です」

つぶやいてみて、マジョンは自分の声にびっくりしていた。

「へっ・・・・・?」

一瞬、意味を図りかねて、僕はきょとんとしていた。

だが次第にことの重大さが分かってくると、僕は顔中を真っ赤にさせて目を丸くしてしまった。

マジョンの一言で高鳴り始めた僕の心臓は、しかし次の一言で、さらに加速度を上げてしまうことになる。

「私、どうしてもダイタさんが好きです!」

僕は言葉を探した。

な、なんて、言えばいいんだ?

えっと・・・・・えっと・・・・・。

マジョンは僕が好きで−−


じゃあ、僕は−−。

僕にとって、大切な人は誰なんだろうか−−。



ふと何故か、マジョンの顔が過ぎった。

どうして、マジョンの顔が浮かぶんだろう???

僕はどきどきと胸を高鳴らせ、赤らんだ頬にそっと指先を寄せた。

その時ふと、以前、ふららさんが言っていた言葉が過ぎった。

『きっと『愛すること』って、その人のために何かをしてあげたいとかそういうことじゃなくて、自分がその人に、その人のために、何かをしたいと想うことだと思います。きっと−−』

何かしたいと想うこと・・・・・?

僕が、マジョンのためにしたいと思うこと・・・・・?

言いたいと思うこと・・・・・?

それは、それは−−

「ずっと照れくさくて言えなかったのだけど・・・・・」

気がつくと、いつのまにか台詞が僕の口からついて出ていた。

「マジョンが悲しそうだと僕も悲しい。マジョンが元気だと僕も元気が出る」

口をぽかんと開けて、マジョンはきょとんとしていた。

僕は勇気を出して、言葉の続きを口にした。

「だって−−、僕も、僕もマジョンが好きだから!」

僕はそう告げると、優しくマジョンの肩を抱きしめて、そして−−

僕はマジョンに唇を重ねた。

自分でも大胆だと思う行動に、僕は初めて自分が何をしたのか、その実感が湧いてきた。

僕は何をした?

僕は口づけをした。

マジョンと。

どうして、マジョンにそんなことをしてしまったのか。

僕にはよく分からなかった。

でも、どうしてもそうしたかったのだ。

その気持ちを抑えることができなかった。

「えーと、そ、そういうことだから・・・・・」

マジョンからすぐに顔を背けて、僕は言った。

「じゃ、じゃあ・・・・・」

それだけ告げると、僕はすぐにその場から駆け出した。

この後、どんな顔をして、マジョンと話せばいいのか分からなかったからだ。

「私−−」

呆然としたまま、マジョンが噛みしめるようなつぶやくような声でささやいた。そっと、自分の唇に触れながら。

「私、今、とても幸せです・・・・・!」

僕は思わず言葉を失って、その場に立ち尽くした。

その時−−。


「ダイタ様〜、ひどいですわ!」

その声に思わず我に返り、僕が振り向くと、ファミリアさんが目を丸くして立っていた。

「あっ、あれ?ファミリアさん・・・・・?」

唖然としたまま、僕はつぶやいた。

な、何で、ここにいるんだ?

しかも、今は深夜のはずなのに・・・・・!?

「ひどいですわ!」

だが、そんな僕の動揺とは裏腹にファミリアさんは信じられないような眼差しのまま、第一声と同じ言葉を再び口にした。

「ひどすぎですわ〜!」

「貴様、なに、こんな夜更けにマジョンさんを襲ってやがる!」

「ぐわぁ!」

いきなり、ファミリアさんは僕に抱きついてきた。ファミリアさんと、そして後からやって来てひじてつをくらわしてきたフレイのダブルアタックで、僕はすでに息つく暇もない。

「ファ、ファミリアさん、何をやっているんですか!」

それを見て絶句したマジョンが、怒りで肩を震わせている。

「抜けがけは許しませんわ!」

「違います!」

二人はバチバチと火花を散らす。マジョンとファミリアさんはにらみ合ったまま、彫像のように固まっていた。

「で、どうするんだ、ダイタ」

先程までの怒りは何処へいったのやら、フレイは愉快そうに僕を冷やかす。

「ど、どうする・・・・・って言われても−−」

僕はガクッと肩を落とした。

僕の告白なんて、実際のところ、まともに受けとってもらえないのかもしれない。

そう思わずにはいられなかった。

−−あああ・・・・・。

「幸せそうですね、ダイタさん」

羨ましそうに、ふららさんはつぶやいた。



−−ど、どこが・・・・・ですか・・・・・!?



それはひとつの出来事が終わりを告げ、新たな出来事が始まった瞬間だった。




一つの世界があり、一つの大陸があり、一つの街がある。

バリスタの港町の海岸。そこに一人の少年が倒れていた−−。




これは大きな世界に比べれば、とてもささやかでちっぽけな、ごくありふれた一人の少年の物語−−。

今回でダイタ達の話は終わりだったりします。

次回はレークス達の話です。

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