第17章 遠き日の誓い
今回から本編に戻っています。
緩やかに漂う朝霧が、広大なバリスタの港町の海岸の海面を覆い尽くしている。
まだ、日が昇らぬ朝方、ベットを出て窓を開いた僕は、眼下の景色に目を奪われた。神殿にある併設の宿屋の二階の部屋から見下ろすと、まるで雲の上にいるようだ。朝の風に吹かれながら、僕は新鮮な空気を思いっきり吸い込み、大きく身体を伸ばして眠気を追い払う。
やがて、東の平原から太陽が昇り、朝霧が鮮やかな小金色に染まった。
夢の聖女、レミィさんとの出会いから、すでに一週間が経過していた。星のかけらを譲ってもらうためにバリスタの港町に滞在しているため、その間大きな出来事が起こることはなかったが、僕の心は常にひとつのことで占められていた。
僕は一体、何者なのだろうか――。
星のかけらのビジョンを見た後にレミィさんと再び謁見というカタチで出会ってから、僕はそのことばかりを考えていた。フレイとともに剣の修行に励んでみても、マジョンと神殿内の書物を調べていた時も、また気分転換に町に出ていても、夢月の女神であるリーティングさんのことやレミィさんのことを思い浮かべた瞬間、気持ちが逸れてしまうのだ。
僕はマジョンをはじめスタンレチア家のお嬢様であるファミリアさん、僕達と出会う以前にターンと一度戦ったことがあるフレイ、あるいは星の女神の生まれ変わりであるふららさんにも、その間もう一度聞いて回ったりもしたが、誰も『星のかけら』について詳しく語れる人はいなかった。
結局、今、分かっていることはたったふたつだけ。
6つの星のかけらを集めるとどんな願い事でも叶うとされているものであることと、僕にとって記憶の手がかりとなっていること。
しかしそれだけで星のかけらの真の姿に迫れるはずもなく、僕にとっては気の晴れないまま、月日が過ぎていった。
晴れ渡った青空を眺めながら、僕は思った。
もし今リーティングさんに会うことができるのなら、今度こそ僕の記憶のことについて聞いてみたい――。
僕が物憂げに溜息をついていると、部屋に穏やかな女性の声が響いた。
「ダイタさん、おはようございます。 今朝は早起きなんですね」
振り向くと、エプロン姿のマジョンが立っていた。
「おはよう、マジョン」
手の甲でまだ眠い目をこすりながら、僕は言った。
そんな僕に、いつもと変わらぬ笑みをたたえてマジョンが言った。
「もう、朝食の準備が出来ていますから、よかったら食堂に行きませんか?」
「うん、わかった」
窓辺を離れて、僕は手早く着替えた。と言っても、マントを羽織ったりするだけなのだが。
そこでやっと僕はある事に気づき、まじまじとマジョンを見た。
「そ、そういえば、もしかして今日の朝食ってマジョンが作ったの?」 エプロン姿のマジョンを見て何の気なしに僕がそう聞いたとたん、マジョンは喜々として話し出した。
「はい! 実はですね、今朝の料理は私とふららさんの二人で作ったんです。 それでふららさんにレシピを教えてもらって羽翼人の方々がよく作られているというスープをこしらえてみたのですが、これがまた、もう、すごく美味しくて・・・・・」
マジョンはそう言って、にこやかに微笑んだ。すごく幸せそうな笑顔だ。
「とてもじゃありませんが、あの味は言葉で説明できるものではありません。 いろいろと心配事もあるでしょうが、あのスープを一口食べれば、嫌な気分なんかどこかへ吹き飛んでしまいますよ」
「マジョン・・・・・」
僕は再びマジョンを見つめた。
マジョンは思い悩んでいる僕の心を察し、励ましてくれているのだ。
そんなマジョンの言葉が嬉しくて、僕はふっと息をついてから、マジョンに言った。
「そうだね。 よぉし、まずは朝食だ!」
拳を振り上げて元気よくそう叫んだ僕を見て、マジョンは「はい!」と、クスクスと声を立てて本当におかしそうに笑った。
僕はマジョンについて部屋から出て、一階へと降りていった。
そして、僕達が食堂の入り口まで来た時。
「ああっ! フレイさん、何をしているんですか!?」
突然そう叫んで、マジョンが食堂へ駆け込んでいった。
僕が恐る恐る中を覗くと、スープの香りが漂う食堂の中央のテーブルに、どんと寸胴鍋を置き一人でスープを堪能するフレイの姿があった。
うっ、い、いつのまに・・・・・!?!?
「いつの間に起きたんですか? しかも、鍋をテーブルの上に運んだりして!!」
呆れ口調で、マジョンがフレイに食ってかかった。
しかし、それでもフレイは涼しい顔だ。
「今日は、念願の星のかけらを譲ってもらえる日だろう。 で、早速取りに行こうと思ったんだけどな、やはり腹が減っては戦はできぬと言うしな!」
戦じゃないと思うんだけど・・・な。
「た、確かにその通りですが・・・・・」 マジョンが悲しげに溜息をつく。
「せっかく、ダイタさんに一番に食べてもらおうと思ったのに・・・・・」
そんなマジョンを見て気まずく思ったのか、珍しくフレイは慌てて僕に話を振った。
「そ、それなら、ダイタも一緒に食おうぜ。このスープはうまいぞ! なんたって、ふららさんが作ったスープだからな!!!」
まるで自分の自慢話のように言うフレイを見て、僕はしみじみと思った。
やっぱりフレイは、このスープがマジョンと『ふららさん』が作ったものだということを知っていたんだな・・・・・。 ・・・・・というか、いつ知ったんだろう?
僕がそう考えている間にも、フレイがスープをよそい始めたので、僕も慌ててテーブルの席に着いた。スープを口に運ぶと、まろやかな味が口いっぱいに広がった。スープのうま味がたっぷりと染み込んだ魚の白身と野菜が、舌の上でとろけていった。
「マジョン、美味しいよ!!」
僕が唸った瞬間、マジョンの顔がぱあっと明るくなった。
「本当ですか! 凄く嬉しいです! 今、パンも持ってきますね」
マジョンがいそいそと嬉しそうに、食堂の奥からパンの入った篭を持ってきた。
僕とフレイはパンを受け取ると、夢中でスープとパンをかき込んだ。
「あっ、ダイタさん、おはようございます」
「ダイタ様〜❤」
遅れてやってきたふららさんとファミリアさんが、僕達に手を振っていた。
どうやらふららさんは、ファミリアさんを起こしに行っていたらしい。
「あの〜、ダイタ様はお聞きになられましたの?」
ファミリアさんの言葉を聞いたとたん、必死になって魚の骨と格闘していた僕の手が止まった。
「えっ? 何のこと??」
「今日、『星のかけら』を譲って頂けることですわ❤」
「あ、それなら・・・・・」
真顔で訊くファミリアさんに、僕は少し、戸惑いを感じながらもそれに答える。
「フ、フレイから聞いたけど・・・」
なんとなく気恥ずかしくなって、僕はファミリアさんから視線をそらした。
『星のかけら』。
その言葉が、ふと朝方に覚えた不安にも似た重い気持ちを僕の心に甦らせていた。
「とっとともらって来ようぜ!」
だけどそんな僕の思いは露知らずに、すでに料理を食べ終わったフレイが満足げに背後の壁にもたれてそう言った。
「うん、そうだね」
僕はそう応えてパンを口に押し込むと、席を立ち食堂を出ようとした。
「ダイタさん、もうよろしいのですか?」
その時、パンを入れた篭を提げたマジョンが、調理場の扉から僕に声をかけてきた。
相変わらず優しげに微笑んでいるマジョンを見て、僕は少し、マジョンと話がしたくなってきた。
「うん・・・・・。マジョン、ちょっといいかな?」
「はい・・・・・」
どこか沈んだ声の僕を見て、マジョンは心配そうに僕を見つめていた。
マジョンはパンの篭とエプロンを手近なテーブルに置くと、僕の後をついて食堂を出た。
「ずっ、ずるいですわ!」
その背後から悲痛な叫びを上げるファミリアさんの声をかき消すかのように、ふららさんはほがらかな笑顔で言った。
「ダイタさん達、お散歩ですか? 楽しそうですね❤」
――いや、散歩じゃないし――。
星のかけらのことをフレイ達に任せた僕とマジョンは、バリスタの港町にある海岸を訪れていた。
そこは、初めてマジョンと出会った場所でもあり、そして――最初にリーティングさんに導かれた場所でもある。
僕とマジョンが海岸にたどり着いた時、すでに朝霧は晴れ、海面は朝日を受けて輝いていた。
しかし、きらめく波を眺めても、海面を渡る涼しい風に当たっても、僕の気持ちは沈んだままだった。
謁見の時、レミィさんは僕にこう告げた。
「ダイタさん、あなたは大きな流れの中で、厳しい運命を背負わされています。 それはこの世界の運命をも変えてゆくことなの」
あれは一体、どういう意味だったんだろう?
それに――。
「ただ、ひとつだけ・・・・・、忘れないで下さい。 あなたの未来は、あなたの手の中にあります。 どんな過去が待ち構えていても、何があっても、自分が正しいと思う道を選び取って下さい。 そして自分の選択を信じて下さい。 忘れないで」
自分にとって正しいと思う道・・・・・?
どういう意味なんだろうか?
「ねえ、マジョン・・・・・」
思いあまって、僕は言う。
「僕って、一体何者なのかな?」
マジョンは間一髪入れずにこう答えた。
「ダイタさんは、ダイタさんだと思います」
マジョンの言葉が僕の耳に飛び込んできた。
まるでふららさんに聞いた時と同じ答えが返ってきたので、僕は驚いてマジョンを見た。
「ダイタさんは、ダイタさんです」
マジョンは再び、そう言った。
マジョンはにこっと自然な様子で微笑んで、僕に言った。
「このバリスタの港町の海岸で私が出会ったのはダイタさんです。 そして、真紅の森でふららさんと出会ったのも、フレストの街でフレイさんやファミリアさんに出会ったのもダイタさんです。 他の誰でもないんです」
まるで祈りを捧げるように、マジョンは瞳を閉じて胸元に両手を置いた。
「私が、私達が出会ったのはダイタさんなんです」
僕はハッとして、マジョンを見た。
確かにマジョンの言うとおりだ。
僕はそう思った。
例え、僕が何者だとしても、僕がマジョンやふららさんやフレイやファミリアさんに出会ったことは紛れもない事実だ。そしてともに過ごした日々は、変わることのない真実だ。もし記憶が戻らないとしても、それはそれでもいいのかもしれない。
僕は本気でそう思ったりもした。
まあ、フレイが聞いたら、絶対に怒ると思うけれど・・・・・。
『貴様に譲った俺の星のかけらはどうなるんだ!?』
そう絶叫しながら、不満げに顔をしかめるフレイの姿を想像して、思わず僕は心の中で吹き出してしまう。
何だか僕の心は先程までと違って、ふっと軽くなったような気がした。
「だから、大丈夫ですよ!」
マジョンの言葉で、僕は現実に戻る。
その時には、今朝方、僕の胸を占めていた憂鬱は、もうすっかり姿を消していた。
海の向こうに目をやりながら、僕は言った。
「うん、そうだね!」 僕がそう答えると、マジョンは本当に嬉しそうに笑った。
「で、そっちの方はどうだったの? 星のかけらは?」
僕達が笑顔を浮かべながら宿屋に戻ると、先にフレイ達が戻っていた。
意外と早かったため、交渉はお手のものだったのかもしれない。
「あ、あれ・・・?」
だけどよく見ると、どこかふららさんも、ファミリアさんも沈んだ表情を浮かべていた。フレイに至っては、不機嫌極まりない。
そこで僕はやっと、一週間前のことを思い出した。
・・・・・もしかしたら、また駄目だったんじゃ!?
言い知れぬ不安を隠せずにオロオロしている僕を尻目に、フレイは不満げに告げた。
「手に入ったが・・・・・」
「そうなんだ。 手に入ったんだ! ・・・・・って!?」
そこで、僕はやっとフレイの言葉の意味を理解する。
僕は目をパチクリさせながら、フレイに訊いた。
「手に入ったの! なら、どうしてそんなに機嫌が悪いわけ!?」
譲ってもらえたのなら、喜ばしいことなんじゃないだろうか?
ふとマジョンを見ると、マジョンも僕と同じように不可解そうに首を傾げていた。
ムッとした顔のまま、フレイは勢いよく腰掛けていた椅子から立ち上がった。
「譲るんじゃなくて、貸すとかほざきやがったんだ! また、星のかけらは保管しておかなくてはならないんだそうだと!!」
かなり不機嫌な顔のまま、フレイはそう告げた。
その瞬間、フレイが八つ当たりのようにぎろりと僕を睨んでみせたが、僕はすかさず、さっと視線を逸らした。
な、何だか、段々、フレイの行動パターンが分かってきたような・・・・・(冷汗)
「ひどいですわ〜!」
今まで黙っていたファミリアさんが、突然、非難をこめた眼差しで、キッと虚空を射抜いた。
「ファミリアさん・・・・・」
もしかして、ファミリアさんも星のかけらのことで怒っているのかな・・・・・?
ありがたいような申し訳ないような気持ちで、僕はぎゅっと上着の袖をつかんだ。
「ひどいですわ! ダイタ様!」
へっ・・・・・?
振り返って、僕は絶句した。
ファミリアさんはいつのまにか、へなへなとその場に座りこんでいた。そして何故か瞳には、うっすらと涙をにじませている。
「マジョンさんと二人きりになられるなんてひどいですわ!」
呆然としたままの僕に、ファミリアさんはきっぱりとそう言った。
そ、そっち・・・・・ですか。
僕はガックリと肩を落とした。
まあ、ファミリアさんらしいけれど・・・・・。
「ダイタ様、今度こそ、わたくしと二人っきりになるべきですわ❤」
ファミリアさんが突如奇跡の復活を見せて、真剣な眼差しで僕の腕をぐいっと引っ張ってきた。
「あの、えっと・・・」
僕は慌ててその場から立ち去ろうとするのだが、ファミリアさんが僕にしがみついて動けない。
「離れて下さい! ファミリアさん!!!」
と、怒りの表情のマジョン。
「嫌ですわ! 今度は、わたくしがダイタ様と二人きりになりますの!」
「ふっ、罪な男だな、貴様」
フレイが少し悔しそうに、僕の肩を叩いた。
ううっ・・・、いつものことだけど、フレイはやっぱり、この状況を楽しんでいる・・・・・(涙)
「だ、だからね、星のかけらはどうなったのかな・・・・・?」
力なくつぶやく僕を背に、二人の言い争いはいまだ続いていた。
「マジョンさんとファミリアさん、ダイタさんのことを励まそうとしているのですね。 素敵なことですね❤」
ふららさんがそう言って、嬉しそうに両手を前に組んでみせる。
そして柔らかな笑みを浮かべながら、ぐっとブローチを握りしめ、僕を見つめた。
――いや、多分というか間違いなく、違うと思うんだけどな・・・・・。
ふららさんの発想力の豊かさに、僕は心の中で拍手を送らずにはいられなかった。
「で、肝心の星のかけらは?」
明らかに意味のないドタバタ劇の後、僕はフレイにそう訊いてみた。
すると、フレイは今、やっと思い出したかのように手をポンと叩いた。
「そういえば、そうだったな」
軽い調子でフレイはそう言うと、持っている皮袋の中から青色の卵のようなものを取り出した。
「これが、5つ目の星のかけらなんだね」
「ああ。 それにしても、今回は骨が折れたな・・・・・」
「えっと・・・・」
ひたすら恩着せがましく言うフレイの態度に、僕は困ったように悲しげに溜息をついた。
「とにかく!」
さもありなんといった表情で、フレイはこう言った。
「まあ、これで残りは一つだけだな。 ほら! なくすなよ!」
フレイは思いっきり満足そうに何度も何度も頷いてみせると、僕に『星のかけら』を放り投げた。
「フレイ、何も投げなくても・・・・・!」
そう叫んで僕が受け取ろうと『星のかけら』に触れた途端、僕の脳裏に再び、不思議な光景がよぎった。
雪景色――。
藍色の帽子とコートを羽織った女性――。
真摯な瞳で誰かを見つめている。
いや、誰かを待っているのだろうか―。
僕には、一目ですぐにそれが誰なのかが分かった。リーティングさんだ。
そうだ。これは僕が初めて星のかけらに触れた時に見た光景だ。
ふと、彼女は誰かを見つけたかのように、頬を染めて、はにかむように笑った。
そこまでは最初に見たビジョンと同じだった。
だが――。
「リーティングさん!」
僕は突然聞こえてきた第三者の声に、目を丸くしてしまった。
視線をやると、僕の後ろに銀色の髪の少年が立っていた。
僕は呆然とその少年を見つめていた。
僕の心臓がバクバクと僕の意思と一切関係なくわめきちらしていたのは、何も突然その少年が何の前触れもなく、僕の背後に現れたからというばかりではなかった。
僕はてっきり、過去の僕がリーティングさんに声をかけたのだと思った。だが、そこには想像していた僕の姿はなく、全くの別の少年が彼女に向けて笑みを浮かべているだけだった。
誰・・・なんだろう・・・・・・?
僕は独り言のように、ぼそりとつぶやいてみる。
誰なのかは分からない。誰なのかは分からないが、なんとなく僕は嫌な予感がした。
今まで、星のかけらが見せてくれた不思議な光景やビジョンは、本当に僕の記憶なのだろうか――と。
もしかしたら、全く違うのではないだろうか?
もしそうなら――
だとしたら、一体、これは誰の記憶なのだろうか?
未だ答えの得られない疑問と疑惑に、僕は言葉を呑みこんだ。
結局、何の答えも見出せないまま、僕はその場に立ち尽くしているしかなかった。
「ダイタさん・・・・・?」
僕は、マジョンの声で現実へと意識を取り戻した。
「あっ・・・・・」
「どうかされたのですか?」
マジョンは心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
でも、僕は自分の感情をコントロールすることができなかった。顔を上げることもできなかった。テーブルの下の自分の足に視線を固定させたまま、僕は自分でも驚くくらいの強い口調で言っていた。
「何でもないよ!」
気がつくと、僕はテーブルに拳を叩きつけていた。僕達のいる部屋内が、ぞっとする静寂に包まれた。
マジョンは言ってくれた。
僕は僕だって。
でも、今まで見てきた星のかけらの光景が、実は僕の記憶じゃないなんて!?
深い失望感に打ちのめされ、僕は継ぐ言葉すら見つけられないまま、その場に立ち尽くしているしかなかった。
明らかにいつもと違う様子の僕に、マジョンだけではなく、ふららさんやフレイ、ファミリアさんも心配そうに僕のことを見つめていた。
だいぶ間があってから、おずおずとマジョンが口を開いた。
「あの、ダイタさん・・・・・」
「な、何でもないよ・・・」
マジョンの言葉をさえぎって、先程より少し落ち着いた口調で僕はそう答えた。だけど、自然とどこか、ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
でもマジョンの方は、それを聞いて特に気分を害した様子はなかった。
マジョンはにこやかに言った。
「ダイタさんはダイタさんです」
僕は驚いて、マジョンを見た。マジョンはまるで僕の心など見透かしているかのように、あの時と同じ言葉を口にした。
「だから、大丈夫ですよ。 そんなに悩まなくても」
「どうして、そう思うの?」
「そんなの、分かります」 と、マジョンはくすりと笑った。
「ダイタさんと今までずっとそばにいたんですから」
「・・・・・そうだね。 確かにそうだよね」
確かに僕と一番付き合いが長いのは、マジョンだった。
何しろ、このバリスタの港町の海岸で出会ってから、ずっと一緒に旅をしているのだから、当たり前と言ったら当たり前だった。
「あの、もしよろしければ、何を悩んでいるのか、打ち明けてくれませんか?」
「・・・・・うん」
心の底では誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。自分でも驚くほど素直に、僕は促されるまま、マジョンに悩みを打ち明けていた。 マジョンは、いや、マジョンだけではなく、ふららさんもファミリアさんも、そして、あのフレイでさえ、僕の話を真剣な眼差しで聞いてくれた。
僕は最後にこう言って、自分の話を締めくくった。
「だからね、今まで星のかけらが見せてくれていた記憶は、僕の記憶じゃなかったみたいなんだ。 まだ、確信が持てる話じゃないんだけど、でもそうとしか・・・・・」
「そうなのですか。 でも・・・・・」
マジョンは首を大きく振った。それから両手を伸ばして僕の手を優しく握り締めた。
「マジョン?」
手のひらを通して、朝の光のようなぬくもりが僕の手に伝わってくる。どきまぎして舌が回らない。
「大丈夫です、ダイタさん」
と、マジョンは言った。
「大丈夫です。 星のかけらが見せていた光景がダイタさんの記憶ではなかったとしても、夢月の女神であるリーティング様の過去の記憶ということは確かです。 リーティング様はダイタさんのことを知っていたのですよね? でしたら、少なくともリーティング様の過去がダイタさんの記憶の手がかりとなっているのかもしれません」
僕はハッとして、マジョンを見た。マジョンはにこりと優しく微笑する。
マジョンにそう言われて、僕はようやくその事に気がついた。
星のかけらが僕にだけ見せていたビジョン、それはやはり、少なくともリーティングさんの過去に繋がることなのではないだろうか。そして、何らかのカタチで僕の記憶の手がかりとなっているのではないだろうか。
マジョンはすうっと僕の手を解放し、僕に微笑みかけた。
マジョンの両手が離れても、僕の手には彼女のぬくもりが残った。そのぬくもりが、僕の不安や恐怖を溶かし崩してしまったのかもしれない。気がつくと、僕の心から、嘘のようにそれらの存在が取り除かれていた。
マジョンが言った。
「だから、大丈夫ですよ!」
「うん、そうだね!」
僕はマジョンの言葉に頷いた。
すると、今まで黙っていたファミリアさんが勢い込んで叫んだ。
「わたくしの運命の人はダイタ様ですわ❤」
「ファミリアさん・・・」
僕はファミリアさんの言葉を聞いて、ドキンと胸を高鳴らせる。
「だから、大丈夫ですわ!」
真顔で言うファミリアさんに、僕は少し、戸惑いを感じながらもそれに答える。
「そ、そうだね・・・・・」
何で大丈夫なのかは、僕にはよく分からなかったりするんだけれどね。
それでも僕は、そんなファミリアさんの気持ちがすごく嬉しかった。こうして、みんなが僕のことを励まそうとしてくれている。
マジョン達の言葉の端々からは、僕を本当に心配してくれている気持ちが伝わってきた。そのことが、僕はとてもとても嬉しかった。
けれど、僕達がこうして喜び分かち合えるのも、束の間の間だけだった。
「どうして大丈夫なの?」
唐突に背後から、どこかで聞いたことがある少女の声がした。
「まだ、何も知らないのに」
振り向くとそこには、黄緑色の長い髪の少女が微笑んでいた。白いワンピースに、瞳と同じ赤色のリボンを髪と胸元につけた、美しい少女だ。
落ち着いた足取りで、少女は僕達の元へ近づいてきた。
「レミィさん、どうしてここに?」
「ダイタさん、本当に大丈夫だって言えるの? 真実を知っても」
僕はうろたえ、それ以上何も答えられなくなる。
レミィさんの言葉には、何か他に深い意味が隠されているような気がしたからだ。
けれどフレイは、とたんに拳を振り上げて叫んだ。
「貴様は何か、知っているのか!」
「知っているわ。 全てのことを」
レミィさんはあくまで微笑みを絶やさずに僕を見つめ、そこにいる人達みんなに聞こえるように話しかける。
「なら、ダイタの記憶のことも知っているんだな! 答えろ!」
レミィさんは何を思ったのか、突然、おかしそうにクスクスと笑った。
「何がおかしいんだ!」
フレイは不機嫌そうにそう叫ぶと、いぶかしげに眉を寄せた。
「ダイタさんはね、私と同じ存在。 でも、やっぱり違うの」
フレイがそれを聞いて、怪訝そうな顔をする。
「どういう意味だ?」
「私を夢見る者はいない。 ただ、私を夢なのだとすれば、私の父は天の魔王、フレイムなの」
「フ、フレイム!?」
僕はレミィさんの口からフレイムの言葉が飛び出したことに、驚愕してしまう。
けれど、レミィさんは知らぬふりでそのまま話を続けた。
「フレイムが望んだことではないわ。 例え、もし望んでいたとしても、彼は私を必要としていなかったでしようから」
マジョンが青ざめた顔で、悲痛な叫びを上げた。
「では、あなたは!」
「そうね。 一応は、魔族。 名前は前に名乗ったとおり、レミィラン。 天の魔王の魔力によって自然発生した意識体。 そう言っても分からなければ、夢の中に存在している夢魔と思ってくれていいわ」
「夢魔・・・・・!?」
僕の驚いた顔に、レミィさんは楽しげな笑みを漏らした。
「夢の中は私の世界。 天の魔王が私の父。 フレイムが去った後、私に会おうとする者はいなかったわ。 ただ一人を除いてね。 私は人の夢に語りかけたけれど、私の声を聞き取ることができる人はいなかった。 そう彼が、セルウィンが、私の声を聞くまでは」
ふららさんはレミィさんを悲しそうな目で見つめ、天を仰ぐように両手を掲げた。
「たった一人で寂しかったのですか?」
ふららさんのその言葉にも、レミィさんはクスクスと笑い続けていた。
「そんなはずないでしょう。 私は人として生きるなんて馬鹿げたことを考えたりするあなたとは違うのよ。 そんな弱さを持たないのが魔族なの」
マジョンが目を見開き、両手を口に当て、「ひどい」とつぶやいた。そして、同じ言葉を繰り返した。
「馬鹿げたことなんてひどいです!」
マジョンは瞳を潤ませ、両手をぎゅっと握り締めた。そして大きく息を吸い、声を荒げた。
「私も星の女神様のような――ふららさんのような強さを持って生きていきたいと思ったんです! 私も大切な人のために――、ダイタさん達のために力になりたいと思ったんです! それなのに!」
マジョンは真剣な眼差しで、レミィさんを見つめていた。
レミィさんはまたも、クスクスと笑う。
「私を許せない? なら、どうするの? 夢の存在でしかない私を、倒そうとするのは無駄なことよ。 実体を持っているとはいえ、あなたの目の前にいる私は、幻にすぎないのだから」
「そんなこと、できるわけないよ!」
そう答えたのは、マジョンではなく僕だった。
僕の悲痛な叫びに、レミィさんは不思議そうに肩をすくめてみせた。
「どうして? あなた達が私を倒さなくてはこの世界は滅ぶのよ?」
「ど、どうしてって、レミィさんは僕を何度も励ましてくれたじゃないか! そ、それに僕に会えば、レミィさんも会いたい人に会えるって言っていたじゃないか! ――って、えっ? この世界が滅ぶ?」
動揺を隠せずにいながらも、どうにか必死に叫んだ僕は、しどろもどろですべてを言い切ってから、ようやく彼女の台詞の不可思議な部分に気がついた。
そんな僕に、笑いをおさめたレミィさんはにっこりと言った。
「知っていたかしら? どうして星のかけらを6つ集めれば、どんな願いでも叶うなんて、噂があったのかを」
レミィさんは優しそうな笑みを浮かべ、マジョンに笑いかけた。
「でもね、星のかけらにはそんな力はないの。 6つ集めれば、どんな願いも叶うものなんて、本当に存在していると思う? もしかしたら、そんなものは存在しているかもしれないけれど、星のかけらにはそんな力はないわ。 星のかけらは、一種の鍵なのだから。 けれど、人々がそれに気づくはずはなかったの。 だって、どんな願いでも叶うという星のかけらの噂は、神殿を飛び出し、大陸の街という街に、村という村に伝わったのだから。 何故だか分かる? その時、神殿の最高幹部の一人だった大神官の彼、セルウィンに、私がそのことを教えてあげたからよ」
「ふざけたことを言いやがって!」
噛みつくような勢いで吐き捨てるフレイの後ろで、マジョンはがたがたと肩を震わせていた。
これは何かの間違いだ。そう思ってしまいたくなるほど、マジョンにとって間違いなく、驚愕の事実だった。
マジョンのお父さんであるセルウィンが、大陸の支配者に、『魔雲の大公』の異名を持つに至ったきっかけは、やはりレミィさんにあったのだ。
でも、僕はそれでも信じられなかった。信じられるわけがなかった。
僕はレミィさんを覚えている。
初めてバリスタの港町の神殿の前で出会ったレミィさんの姿も、謁見で再び再会したレミィさんの姿も。
確かに、最初に出会った時はつかみどころのない人だな、と僕は思った。
でも、一瞬間前に謁見というカタチで出会ったレミィさんは、僕達に対して穏やかで優しい笑みを浮かべていた。それに、そう、4つ目の星のかけらを譲ってくれたのだって、レミィさんが――
「・・・・・まさか・・・・・」
「そう、あの時、あなたに星のかけらを渡したのは、何も偶然とか気まぐれとかではないわ。 星のかけらは、この世界と夢の世界をつなぐ鍵。 でもそれを開くことができる者は、夢の存在に近い者でなければならないの。 私はあなたと違って、人と触れることは出来ても、物に触れることはできない。 そう、あなたと違って、ここにいる私は幻にすぎないのだから」
僕は息を飲み、一歩後ろに下がった。
「だから、私は考えたの。 どうしたら、それは可能になるのかしら? って。 でも、それは簡単だった。 愛する人を失って気落ちしていた彼女に、そう夢月の女神であるリーティングに私はささやいたわ。 あなたが彼の夢を描いて想いをカタチにすれば、彼は生き返るわ、って」
「そんな・・・・・」
僕はレミィさんは凝視して、呆然とつぶやく。
「リーティングさんが・・・・・」
ファミリアさんはそんな僕とレミィさんを見て混乱していたが、すぐに声をあげた。
「そ、それが、ダイタ様だっていうのですの! でたらめですわ!!!」
だが、そんなファミリアさんの叫びなど聞こえなかったかのように、レミィさんは話を続ける。
「一度、滅した魂が甦ることはあるのかしら? 例え、その人を知っている人が想い描いたとしても、それは全くの別人に過ぎないわ。 そう、あなたが内面だけではなく、外見でも彼と違うようにね。 彼女が愛した彼が銀色の髪にスカイブルーの瞳だったのに対して、あなたはレモンを入れた紅茶の色のした髪に黄緑色の瞳なのだから」
レミィさんがしつこいくらいに念を押すと、
僕は言葉を失ったかのように口をぽかんと開けてしまった。
言葉なんて見つかるわけがなかった。
こんな時、一体どんな言葉が見つかるというのだ?
僕の記憶がないのは、つまり、僕が人じゃないから、そんなもの存在するわけなかったというわけで・・・・・。
それに僕を今まで導いてくれたリーティングさんが、実は僕を想い描いてくれた――創りだしてくれた人だったんだという事。
さらにこの世界を滅ぼすきっかけを作ってしまったのも、星のかけらを5つ集めてしまって、夢の世界の扉の鍵をそろえてしまった僕自身だった。
うんうん!
なるほど、納得!
って、納得している場合じゃないし!
僕は自分の思考回路に、思わず苦笑してしまう。だがすぐに、両膝と両腕を床につけ、「あああっ!!!」と天を仰いで嘆いた。かなりのオーバーアクションではあるが、ことの事実が事実なのでこれもいさ仕方ない・・・・・はずだと思う・・・・・(多分)
つまりそれって、僕がこの世界を破滅へと導いてしまったってことじゃないか!?
嘘であってほしい。そうであってほしい。だがしかし、――やはり、それは逃れようのない真実だった。
僕はまるで空気を奪われたみたいに、息を飲んでいた。
レミィさんはじっとそんな僕を見つめながら、くすくすと笑い続ける。
「あなたに星のかけらを探すように仕向けたのも、私なのよ。 私はリーティングに言ったわ。 星のかけらを集めれば、彼はあなたのことを思い出す、って」
マジョンがレミィさんに向かって叫ぶ。
「どうして、そんなことをするのですか?」
レミィさんは面白おかしくてたまらないように、くすくすと声を立てて笑った。
「ダイタさんが言ったでしょう? 私には会いたい人がいるのよ。 この世界が消えれば、きっと会えるの」
そしてレミィさんは僕を、僕達を、全ての現実を睨みつける。
「だから、私はこの世界を消すの。 星のかけらの最後の一つは、夢の世界の私の手の中にあるわ。 そして、私があなたから奪った星のかけらをあわせれば、これで全部が揃うの」
レミィさんがそうつぶやいた瞬間だった。
「ええっ!? あれれ・・・・・!!!」
突然、僕の持っていた星のかけらが消失してしまった。
まるで手品でも使ったみたいに一瞬で、星のかけらは僕達の視界から消え去ってしまった。
「な、何だと!? 一体、いつのまに――」
動揺もあらわにフレイが叫ぶ。
フレイもまた僕同様に、星のかけらを見失ってしまったのだ。
「止めたい? でもね、夢と現実は互いに触れ合うこともできないわ」
そしてレミィさんは、考え深げに言葉をいったん止めて、そして続ける。
「そうね、だからもしあなた達が、夢の中の私のお城にたどり着くことができたのなら、世界を賭けて戦ってあげるわ。 たどり着くことができたらね」
レミィさんの言葉にはそんなことできるはずがないと考えて、からかっているかのように聞こえたけれど、けれどそれは違うような気がした。
きっとそれは、僕達には可能で、彼女はそれを望んでいるんだ。
何故だか分からないけれど、僕にはそう思えてならなかった。
レミィさんはクスクスと笑いながら、その場から姿を消した。
とたんについに業を煮やしたフレイは、地団駄を踏んで叫んだ。
「ふざけたことを抜かしやがって!」
マジョンは突きつけられた真実に立ち直れずに、悲しみに沈んでいた。フレイは、ショックから覚めやらぬふららさんの肩を抱いたまま、歯を食いしばってレミィさんの幻があった場所を睨みつけている。そして、ついに出自を知ってしまった僕。
どうしていいのか分からず、僕は一人でその場から出て行こうと歩き出した。
「・・・・・どこに行くのですか?」
マジョンのその声に立ち止まり、僕は申し訳なさそうにマジョンを見返した。
「セルウィンの城に行って、レミィさんを止める方法を探すよ! きっと、そこに何らかの手がかりがあると思うし、それに――」
僕の言葉をさえぎって、マジョンはしっかりと僕を見つめ返した。
「私も行きます!」
僕は即答できなかった。
これは言ってみれば、僕がまいた種だ。正確には自分のまいた種ではないけれど、レミィさんやリーティングさんと深い関わりを持っているのは僕だけである。
僕が沈黙を貫いていると、少しばつが悪そうな顔でふららさんが僕の前に立った。
「私達も一緒に行きます。 ダイタさん」
「でも、これは僕の問題だから――」
「そんなことないです」
僕の言葉をさえぎって、ふららさんは凛とした声で言った。
そして、にこっと僕に笑みを向ける。
「えっ?」
僕は呆然としたまま、そうつぶやいた。
何を言われたのかわからなかった。
そんな感じだったからだ。
「これはダイタさん、一人の問題じゃないですよ。 私達、この世界に住むみんなの問題です」
驚いて、僕は目の前に立つふららさんを見つめた。
「だけど」
僕はその言葉を口にするべきか迷った。
しかし、こらえきれなくなって、僕は訊いた。
「だけど、セルウィンと戦いになるかもしれない。 生きて帰れるかも分からないんだよ!」
「ダイタさん・・・・・」
「このまま、僕と一緒に来たら、ふららさんも、みんなも――」
突然、ふららさんは、すうっと僕の目をのぞきこんだ。
僕は思わず、言葉を詰まらせ、顔を真っ赤にさせながら、たちまち落ち着かなくなってしまう。
そんな僕に、ふららさんは少しだけ悲しそうな顔をして言った。
「・・・・・一人じゃ、セルウィンに勝つことなんてできません。なのに、ダイタさんは自分だけでどうにかしようとしています。 ・・・・・そんなダイタさんを見ていたら、真紅の森でマドロスさんを待ち続けていた私をちょっと思い出したんです。 これも、マドロスさんのためだと思うことにして、無理やり頑張ろうとしていた私を・・・・・」
ふららさんはそう言って、しゃきっと背筋を伸ばした。
そして僕を見つめつつ、両手で僕の両手を握って、自分の方に身体を向けさせた。
「ダイタさんが人じゃないとかそういうことは関係ないんです。 ダイタさんは、私達の大切な仲間なんです。 ダイタさんは、私達の目の前にいます。こうして話すことも触れ合うこともできます。 こうして、ここに存在していますよ? だから、大丈夫です!」
ふららさんはにっこりと笑った。
次第に僕の顔には、穏やかな笑みが戻ってきた。
そうか、そうだよね。
『どんな過去が待ち構えていても、何があっても、自分が正しいと思う道を選び取って下さい』
あの時、レミィさんもそう言っていたっけ。
僕はあの時のレミィさんの顔を思い出す。
ふららさんの顔を再び見つめた時、僕の心にはもう不安は微塵もなかった。
代わりに、僕の胸を満たしたのは、ある一つの言葉だった。
自分が正しいと思う道を選び取っていくこと――。
満足げにひとつうなずいて、僕は言った。
「これからもよろしくね。 ふららさん」
僕は笑顔で手を差し出す。
ふららさんも柔らかな笑みを浮かべて、手を差し出した。
「はい!」
僕達はお互いの顔を見合わせて、しっかりと手を握りあった。