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ライム・ア・ライト2(第二章、今宵 星の片隅で)

今回から小説情報を変更しています。

 ――幼い頃から、ララティアは繰り返し夢を見てきた。

 それはいつも同じ夢で、どこか荒廃した大地の風景だ。

そこは未来の世界での出来事なのだろうか?

木も草もない荒れた地の上に、自分を守るかのようにただ一人だけ何者かが立っている。どれだけ目を凝らしても、荒地の上に立つ人物には薄いもやがかかっていて、その姿をはっきりと確認することはできない。だが、その人物を見ていると、不思議な懐かしさと、そして悲しみを覚える。そういう夢だ――。


物心ついた時には、ララティアはすでに一人だった。本当の両親と一緒にいたのはほんの幼い頃だけだったので、どんな人達だったのか、どこで暮らしていたのか、ララティアには全く分からずじまいだった。

一人で暮らすには広すぎる神殿をあてがわれ、周囲には忠実な神官達に固められ、しかし家族と呼べる者も心を許せる者もいない。誰もがララティアにかしずくが、誰もララティアを見ていない。それがララティアの世界だった。

毎日世界中の人々から届けられる、数え切れないほどの花束や贈り物で、ララティアの部屋は埋め尽くされたが、ララティアの心は何一つ埋められなかった。本当にララティアの欲しいものは、決して誰も届けてはくれなかった。

だから唯一ララティアが心を満たされるのは、家庭教師や神官の人達に、一緒に戦うことになる少年のことや幼い頃、引き離された両親の話を聞くその時だけだった。

この世界を救う聖女として。ミリテリアマスターとして。ララティアは幼少の頃よりさまざまな教育を施されてきた。そうした授業をする時に、あるいは人々からの贈り物を持ってきた使いの者に、ララティアはその少年のことや両親についてさまざまなことを質問した。

ときには容姿について。

ときには性格について。

ときにはその強さについて。

ときにはその偉大さについて。

そうして人づてに本当の両親の話を聞くたびに、ララティアの中で父と母のイメージは膨らんでいった。また、彼女自身気づいていないことだったが、共に戦うことになる少年に対して誇りを持つことで、ララティアは孤独と不安に負けてしまいそうな己の心を支えていた。

いつしか、夢の中に出てくるシルエットこそ、その少年なのではないか。ララティアはそう思うようにさえなった。夢の中では――いや夢の中でさえ、彼は自分を見守ってくれているのだ。そう思うことで、ララティアは心の安寧を得ていたのだった――。





「一体、これは何の集まりだ!?」

ドアを開け、広間の中を見回して、ラトがそうつぶやいた。明らかに戸惑ったような口調の言葉だった。場所はアズリアの街の南方に位置する、ラミリア王国の王城だった。ラトとララティアは地の魔王に会うため、すぐに彼らの後を追ったのだが、何故か彼らは地の魔王の城ではなくこの城に向かったのだった。

案内された広間には、ラト達以外にも数多くの人々が集まっていた。その中には、見たことのある顔もいくつかあった。その顔ぶれにララティアは驚いた。多分、ラトが戸惑ったのも同じ理由だろう。戦士から魔術師まで、傭兵から騎士まで、世界中の名だたる英雄という英雄が、その場には顔をそろえていた。英雄として知られる人間でその場にいない者は一人もいないとさえ言えるほどの豪華な顔ぶれだった。

一方、ラトが見たことのない顔ぶれの人達には、みな共通した特徴があった。誰もがみな一目でそれとわかる高級な衣服に身を包み、胸には何かしらの簡単な意匠の紋章を着けていた。

多分、どこかの国の偉い奴だろうな。

ラトはそう判断した。

「あっ、お父さん! ルカさん達だよ!」

周囲をしばらくキョロキョロと見回したあと、突然、ララティアが嬉しそうに口を開いた。

何故なら、前方に見覚えのある二人の人物の姿を見つけたからである。

見れば、銀色の髪の青年と青い髪の女性が穏やかな表情で楽しげに会話をしていた。

「なにぃ!?」

ラトはそう叫ぶと、激しく地団駄を踏みまくりながら彼らに迫る。

「貴様ら、何故、ここにいるんだ!!」

「・・・・・久しぶりだな」


「本当にな・・・・・! って、違うだろうが!」

 ラトは思いっきり恨みがましい目で、銀色の髪の青年――ルカを睨みつけた。

 ラトは、ミルドレットの街でララティアからゼフィアの話を聞いた時、一度ルカに会って詳しい話を聞こうと考えたのだ。記憶喪失とはいえ、ルカはゼフィアの息子だ。彼に会えば、何かしらの情報を得られるだろう、とラトは踏んでいた。

 だが、肝心のルカ達は既におらず、それどころかゼフィアについての情報とかと言って、ララティアがどこからか見つけてきた怪しげな男に破額の情報料をも取られてしまったのだ。

 しかも、その全てがデマだったという、とんでもない仕打ちだ。 これで、ルカ達との再会を喜んで受け入れる奴がいるとすれば、そいつはただのバカだろう。

 まあ、あっさり、騙されてしまった俺達も俺達だが・・・・・。

 ルカは涼しげな顔で、ラトの視線を受け流した。

「おまえ達も、ゼフィアを倒すためにここに来たのか?」

「な、なにい!?」

「えええっ!?」

 思いもよらなかったルカの言葉に、ラトとララティアは驚愕の表情を見せた。二人の声が、城内に甲高く響き渡る。

「ゼフィアを倒すだと!?」

「ゼフィア先生を倒す・・・・・って!?」

 ラトとララティアの言葉は、見事に同じタイミングで発せられた。

「言葉どおりよ・・・・・」

「アリエール・・・・・」 ルカは、まじまじと隣の青い髪の女性を見つめた。

アリエールと呼ばれた女性は、物静かな表情のまま、頷いてみせる。

「・・・・・未来の世界で倒せないのなら、この時代で倒すしかないの」

「た、倒す・・・・・って・・・・・」

「そんなこと、できるのかよ!」

 ラトとララティアは互いに顔を見合わせる。

 ラトとララティアの言葉に、アリエールは深々と溜息をついた。そして、ルカとともに用意されていた椅子に腰かけると、もたれかかって一息つく。

「幸い、この時代にはミリテリアと呼ばれる人達がいるわ・・・・・。 それに六人の神々も、この世界に存在している・・・・・」

「どういうことだ?」思わず首を傾げるラトに、アリエールは衝撃の言葉を口にした。

「・・・・・この時代なら、ゼフィアを倒せるかもしれないということよ」

「なっ!?」

 あまりにも突拍子のない告白に、ラトは目をむいた。

「この時代なら、ゼフィアを倒せるっていうのか!?」

「・・・・・かもしれないってことだ」

アリエールの代わりに、ルカがそう答えた。

「・・・・・かなり曖昧な言い方だな」

「だろうな」

 と、ルカは言った。

 彼は自分の剣を手に取り、笑った。

「だが、可能性はゼロではないということだ。 ゼフィアを倒すことも、その戦いに貴様が加わることもな」

「ど、どういう意味だ!」 ラトは不満げに、ルカを睨みつける。

その彼らしかぬ物言いに、アリエールは思わず笑ってしまった。その近くで、ララティアがくすりと笑う。

 笑いながら、アリエールはルカに言った。

「・・・・・そうね。 これだけ勇者がそろってるんだから、ゼフィアを倒せるかもね」

「・・・・・『かも』じゃなくて、倒すんだろうが!」

 突如、ラトが睨むようにしてルカ達を見た。

 ルカ達はまじまじとラトを見る。

「・・・・・そうだな」

笑みを浮かべたまま、ルカは頷いた。その隣で、アリエールも小さく頷く。

その時、ラトよりも先に椅子に座っていたララティアが、何かを思い出したかのように手をポンと叩いた。「・・・・・あれ? でも、そういえば、私達ってゼフィア先生じゃなくて、先に地の魔王さんに会いに行っていたんじゃなかったの?」

「・・・・・そ、そういえば、そうだったな!」

 ラトがやっと本来の目的を思い出し、ハッと顔を上げた、その時だった。

いつのまにか、広間に集まった人々(ラト以外)が全員用意された席に着き、二人の人物がゆっくりと壇上に上がった。

「英雄諸君、我々に求めに応じてお集まり頂き、まずは感謝の言葉を述べされてもらいたい」

 彼らのうちの一人が、ラト達を見渡してそう言った。彼の顔に見覚えがあった。当たり前だ。何故なら、彼は俺達が必死になって探していた、あの大勇者ラスト=エンターティナーだったからだ。

 彼は隣にいた女性に対して頷き返し、そして率直に用件に入った。

「さっそく用件に入らせてもらおう。 実は英雄の方々にお集まり頂いたのは――」

 その後に大勇者ラスト=エンターティナー様の口から語られたのは、驚くべき内容だった。俺やララティアも驚いていたし、ルカ達も驚いていた。当然、他の英雄達も驚きを隠せないでいた。驚いていなかったのは、壇上のラスト様達と、どこかの国の偉い奴らだけだった。

 この時代でのゼフィアの居城を奇襲する。それが大勇者様の口から発表された計画の概要だった。それも大軍勢をもってじゃない。この場に集められたごく少数の、でも世界で屈指の実力者達だけで、ゼフィアの居城に潜入し、そしてゼフィアを討ち取って来いというのだ。

「そんなの無茶っス!」

と、当然の声が上がった。

・・・・・ん?

発言者は、明らかにどこかで聞いたことがある声だった。

「勝てるわけないっス! ひどいっス!」

発言者であるえびこは何度も何度も、不満そうにそう叫び続けていた。

それを見て、ラトは不機嫌そうにえびこを睨みつけた。

「何で貴様がここにいるんだ!」

ごく当然のことのように、えびこは答えた。

「愛があれば、何でもできるっスよ!」

「できるか!!」


 ラトは声を張り上げた。

その間に、ララティアが邪気のない口調でえびこに聞いた。

「えびこさんも、やっぱり一緒に戦ってくれるんだね!」

「もちろんっス!」

 ん・・・・・?

 あまりにも意外なえびこのセリフに、ラトは首を傾げてみせる。

 いつものえびこなら、ここで明らかにしらじらしい言い訳をして退散するはずだが・・・・・?

 えびこはわざとらしく咳払いをした後、とびっきりの笑顔で言った。

「・・・・・任せるっスよ! このえびこの真の力をお見せするっス!」

「そうなんだ! すごい!」

 いつのまにかうつむき、何事か考え事をしていたルカが顔を上げた。

「・・・・・先程から思っていたが、何故、貴様はそのような仰仰しい格好をしている?」

「・・・・・そ、そういえば、そうだな」

 ルカに言われて、ラトは改めてえびこをじっと見つめてみた。

 上半身には黄金色の鎧を身にまとい、肩には豪奢なマントを羽織っているという風変わりな格好をしている。これを怪しくないと言うのなら、何を怪しいというのだ。

「そ、そんなことないっス!」

 首を左右に大きくブルブルと振ると、えびこはビシッと音がしそうなほど鋭く指先をラトに突きつけた。

「この鎧は、魔力を防御するといわれている伝説の鎧っス! そして、このマントはあらゆる攻撃を防ぐといわれている伝説のマントなんっスよ!」

 えびこは決めポーズを解き、ピシッと自分の額に手を触れる。

「決まったっス!」

「あの―、えびこさん」

 と、ララティアが遠慮がちに口を挟んだ。

「何っスか?」

「素晴らしい防具なんだと思うんだけど、えびこさんが身につけるとこれほど似合わないものはないと思うよ!」

 ララティアが正直な感想を述べる。

ラトもそれに同意するように大きく頷いてみせた。

「そ、そんなはずはないっスよ!?」

 必死でごまかすえびこに、アリエールが追い打ちをかける。

「・・・・・『伝説』って、ちょっとうざいのね」

「そ、そんなことはないっス!?」

あくまで冷めた口調で言うアリエールに、えびこはバツが悪そうに大きな汗をかくと、さっと話題を変えた。

「・・・・・そ、そうっス! もし、この先、魔物が出たとしても、えびこにおまかせっス!」

あまりにも曖昧でしらじらしいえびこの態度に、ラトはげんなりとする。

「・・・・・あのな! それって防具だろうが! 戦力には全くならんわい!!」

 そう叫ぶと、ラトは不機嫌そうにえびこから顔を背けた。

 ルカはえびこを一瞥すると、神妙なトーンで小さくつぶやいた。

「・・・・・つまり、一人だけ生き残るわけか」

「えっ、すごい――! きっと、『伝説』になるね!」 ラトの隣にいたララティアが、確信に満ちた表情で宣言した。


何も戦わず、ただ一人防具で生き残った男。

人々は語りついだ。

『伝説の自己中心男(アンブレイカブル)・えびこ』と!!


「ひっ、ひどいっスっっっっっ――――――!!!!!」

「ひどいのは貴様だろうが!」

 ラトはすかさず反論する。

「・・・・・そ、そんなことよりもっス」

 ラトの言葉をさえぎって、えびこはバツが悪そうに大きな汗をかくと、さっと話題を変えた。しらじらしいえびこの態度に、ラトはげんなりとする。

「逃げたな!」

怒りで打ち震えるラトを無視して、えびこはさらに言葉を続けた。

「えびこ達だけでゼフィアを倒しにいくなんて、無茶っス!!」

「そういえば、そんな話だったな」

 えびこに言われてやっとそのことを思い出したらしく、ラトは壇上にいるラスト達に目を向けた。

「無理なことを言っているのは分かっている」

と、壇上のラストはえびこ達の言葉にうつむいた。でも、彼が顔を背けていたのは一瞬だけだった。

すぐに顔を上げると、ラストは続けた。

「だが、あなた方の方がおわかりのはずだ。 今、この時代に――いや、この世界に危機が迫っていることを」

途端、あちらこちらから出ていた不満の声が静まった。

「このままでは――このままでは、いずれゼフィアとこの時代の世界の支配者たるセルウィンとの衝突は避けられないものになる。 そうなれば時を待たずとして、この世界は危機に陥ることになるだろう。 ・・・・・未来の世界が死の荒野と姿を変えたようにな」

 広間の人々はうつむいた。

 この世界の支配者で天の魔王のミリテリアでもある、セルウィン。

 未来の支配者たるゼフィアのことは全く知らぬとはいえ、この世界の支配者たるセルウィンのことは誰もがよく知っていた。誰もが彼の恐ろしさを身をもって知っていた。

そんな彼が、彼と同等もしくはそれ以上の力を持つゼフィアと戦うことになれば、この世界は間違いなく破滅へと追い込まれてしまうだろう。

誰もが肌で感じている、それは完全な事実だった。


「だが、大攻勢に出たくとも、我々にはゼフィアが手に入れようとしている、六人の神々を守らなくてはならない使命がある。 ・・・・・もし彼らを手に入れられ、彼女が真のミリテリアマスターとなってしまっては、もう我々にはどうすることもできなくなるのだ。 それに、大軍を動かせば、必ずその動きはゼフィア達に察知されてしまうことになる」

「・・・・・だから、少数精鋭、というわけか」

 ラストの言葉に、ルカはむしろ静かな口調で言った。

「ああ。 少人数なら、ゼフィア達に動きを察知されずに、ゼフィアの居城へと潜入することができる」

「・・・・・おい! それよりも何故、ゼフィアは六人の神々を狙っていたりするんだ? それに、真のミリテリアマスターって一体、何のことだ?」

 と、そこでラストのセリフをさえぎってそう質問したのは、ラトだ。

「・・・・・本来、ミリテリアマスターとは六人の神々全ての力を借りることができる存在のことだ。 恐らく、ゼフィアは六人の神々すべての力を手中にし、真のミリテリアマスターになろうとしているのだろう」

「・・・・・じゃあ、未来の世界に六人の神々がいなくなったのは、ゼフィア先生が彼らを『始まりの地』に封印したからとかじゃなかったんだね!」

「そういうことだ」

ララティアの言葉に、ラストは頷いた。

「例え、ミリテリアマスターといえど、六人の神々全てを封印することはできないだろう。 同じミリテリアマスターである君ができないのと同じようにな」

「だけど、いくら何でも俺達だけでゼフィアの居城に行くのは至難の業じゃないのか?」

「その心配はいらないわ。 そのために私がここにいるのだから」

 それまでラストの隣で沈黙を守っていた赤いロングヘアーの髪の羽翼人の女性が、ラトの言葉に反応した。

 彼女のこともラトは知っていた。大勇者ラスト=エンタティナーの妻であり、六人の神々の一人でもある時音の女神ミューズだ。

「かって私達が魔王グレイスと戦った城が、今はゼフィアの居城となっていると聞きます。 ならば、私の時音の魔法でそこまであなた方を送り届けられます」

「この作戦には、世界の命運がかかっている」

 と、ラストが言葉を継いだ。

「あなた方英雄という英雄を送り込むのだ。 万が一にも失敗は許されない。 だが、それでも私達はあなた方に世界の命運を託したい。 どうだろう? この作戦、引き受けてもらえるだろうか?」

ラストがしゃべり終えると、広間にはまた沈黙が満ちた。英雄と呼ばれ、この場に召集された人々の顔には、一様に不安と戸惑いの顔が浮かんでいた。敵の本拠地に乗り込むのだ。危険な旅になることはわかっていた。

それにこれまでとは双肩にかかる重みも違う。サークジェイドとの戦いの時でさえ、俺達はあれだけ苦戦したのだ。サークジェイドよりもはるかに強いゼフィアと戦って生き残れる保障はどこにもなかった。

「――大丈夫だよ!」

広間にいた全ての視線が一点に集中した。視線の先では、ララティアがにっこりと笑っていた。

「サークジェイドさんや天丼さんを止められた私達なら、きっとゼフィア先生を止められるよ!」

それはいつものララティアの声で、いつものララティアの口調だった。自信に満ち溢れ、微塵も不安を感じさせなかった。まるで勝利は約束されたものであるかのように、彼女の言葉は広間に響いた。

そのララティアの態度が、俺を――いや俺達を勇気づけたのかもしれない。

「・・・・・まあ、そうかもな」

 ララティアの言葉に、俺は思わず、大きく頷いてしまっていた。

 でも、『天丼』じゃなくて、『天魔』だったりするんだけどな!

 と、俺はひそかに心の中で突っ込んでしまったりもしたのだが。

「・・・・・全く根拠のないセリフっスね」

 と言って、えびこは深々と溜息をついた。だけど、表情を改めてつぶやいた。

「まあ、ララティアらしいといえば、ララティアらしいっスが」

 ルカは立ち上がり、ラストに向かって言った。

「その作戦、乗せてもらうことにする」

 その様子を見て、ラトはふと思った。

 例え、どれほどらしくなくても、やはりララティアはこの世界の希望なのだと。彼女の一言が俺達を勇気づけた。彼女の存在そのものが人々を勇気づけている。

これを希望と呼ばずして、何を希望と呼べばいいのだろう?

「えへへ、頑張ろうね、お父さん!」

 ララティアがそう言って、にこっとラトに微笑んでみせた。

「ああ」

 と頷いてから、ラトはひとりごとのようにぼそりとつぶやいた。

「ララティアは、本当に『聖女』なのかもな」

「えっ? 何が?」

 ララティアは思わず、目を丸くする。

 しかし、すぐにこう言った。

「あっ! もしかして、お父さん、私に愛の告白をしようとしたとか!」

「ちっ、違うわいっ!!!」

 ラトはみるみる顔を真っ赤に染める。

ララティアもつられて、ぽうっと頬を火照らせてしまった。

「私も、お父さんのことが大好きだよ」

「だ、だから、違うって言っているだろうがぁっ!!!」

 嬉しそうにするララティアに、ラトは不本意だと言わんばかりにそう絶叫した。

 やっぱり、ララティアが『聖女』というのは間違っているのかもしれない。

 そう思ってしまうラトだった。





「な、なんだ!? これは・・・・・!」

「ここがゼフィア先生の城なの・・・・・!」

 その場所に出た時、ラトとララティアは同時につぶやいていた。

 驚いたのはラト達だけではない。ルカもアリエールも、そして結局、なんだかんだ言いながらもラト達の後を着いてきていたえびこも驚きを隠せずにいた。 彼らは、その空間に圧倒されていた。大理石で出来たらしき天井はアーチ型に作られており、人間なら千人は入ってもなお余裕があるであろうほどに広大な空間だった。辺りに並ぶ柱にはそれぞれ凝った意匠が施され、そして広大な空間の中央には、巨大な祭壇が設置されていた。

 時音の女神ミューズが作り出した魔法陣の先につながっていたのは、ラスト達が語っていた、かっての魔王城ではなかった。既に魔王城の姿は跡形もなく消え失せ、その魔王城の跡地には、見覚えのない禍々しいシルエットを持った新たな城が建っていた。ラト達はその城にゼフィアがいるというミューズの言葉を信じて、その城を奥へ奥へと進んでいった。そして、その先に広がっていたのが――この広大なドーム型の空間だったのである。

実際、ゼフィアを倒すというこの作戦への参加を申し出たのは、ラト達だけではなかった。作戦の参加を表明した他の英雄達は、俺達とは別の経路から先に侵入を果たし、ゼフィア達と戦っているはずだった。

「この城のどこかに、ゼフィアがいるというわけか」

「そのようね・・・・・」

ルカとアリエールがそれぞれ思い思いの台詞を口にしていた、そのときだった。

「――待っていたわよ」

 少女の声だった。ひどくアンニュイな声が、ラト達のいる空間を轟いた。まだ幼さが残るその声は決して怒鳴っているわけではないのに、どこか聞く者を圧倒するだけの威厳を備えていた。

 いつのまにか音もなく、祭壇の前に一人の少女が立っていた。

「待っていたわよ・・・・・。 ララティア」

 高価なドレスに身を包み、あからさまに高貴そうな雰囲気を醸し出す少女は、表情を隠したまま、しかしわずかに憂いを帯びた瞳でララティアを見つめていた。

「ゼフィア先生・・・・・!」

 動揺する気持ちを必死に抑えるかのように、ララティアは一歩前に進み出た。

「ずっと待っていたのよ・・・・・。 ララティア、あなた達が私の元に来るのを!」

「・・・・・なっ!?」

 ラトの表情が、ゆっくりと驚愕へと変わっていく。

そして、ゼフィアと名乗った少女とルカの顔を交互に見比べて、言った。

「・・・・・貴様が、ゼフィア・・・・・?」

「そーよ♪」

「・・・・・あの、未来のこの世界の支配者のゼフィア・・・・・?」

「そのとーり♪」

「・・・・・・・・・・ぷっ」

 そこまでが我慢の限界だった。自信満々に答える少女の様子に、ラトはついにこらえきれなくなって吹いてしまった。

 そのまま笑い出したい自分を抑えながら、ラトは言う。

「き、貴様がゼフィアだと? じょっ、冗談を言うなよ! だいたい、ゼフィアはルカの母親だろう? それなのに、ララティアと同じお子様なんてありえないだろうが!」

「おっ、お子様じゃないもの!」

 ララティアの傷ついたような声は無視して、ラトは続けた。

「それに、ゼフィアはあのセルウィンと互角以上の力の持ち主だろう? どこからどうみても、へなちょこのこいつが、あのゼフィアのはずがないだろうしな!」

「ああっス!! それは、ゼフィアには禁句っス!!」

「お、お父さん――っ!?」

 ラトの台詞に、えびことララティアは騒ぎ立て始めた。

ゼフィアを名乗る少女は、それを聞くと「・・・・・ふっふっふっ・・・・・」と肩を震わせ低く押し殺したような笑い声を立てていたが、顔を上げ、ラトの顔を壮絶な眼光で射抜くと、唐突に壁がある方向へ右手を水平に突き出した。

 一体、何のつもりなのか、ラトには分からない。

 隣を見ると、その場を見守っていたララティア達の顔がみるみる青ざめている。

 おもむらに、ゼフィアは奇声を上げた。

「――そらぁッッッ!!!!!」


 次の瞬間、ラトは言葉を失った。信じがたい光景がラトの瞳に映し出されたのだ。ゼフィアが叫んだ瞬間、周囲の温度が急上昇し、大地が激しく震動した。

 えびこは「ぎゃあっス! ぎゃあっス!」とわめき、そして天空に巨大な空間の穴が穿たれた。

 そしてその天空の穴より、炎に包まれた隕石が飛来する。

隕石は壁の中心地に直撃した。その破壊力は凄まじく、あっという間に壁は崩壊し、はるか彼方の大地にまで無数の亀裂が走った。壁ぎわにいたえびこが大地の亀裂に飲み込まれ、さらに隕石の衝突の破壊力でどこか遠くへと吹き飛んでいく。

ラトがまばたきをするわずかな間に、周囲の地形が見るも無残な姿へと変わり果ててしまった。

 ラトはどうにか地面にしがみつき、被害に巻き込まれるのを避けた。ララティア達もやはり同様に、しゃがみこんで自分の身体を支えている。

 自ら巻き起こした大破壊の惨状を満足げに見回して、ゼフィアはにっこり笑った。

「・・・・・どぉ? 信じる気になった?」

 戦慄がラトの背中を駆け巡った。圧倒的。世界の支配者を名乗るのにふさわしい、圧倒的な力だった。さっきまではただの少女のいたずらっぽい笑みにしか見えなかったその表情も、今では何か凄みを漂わせているかのように感じられた。

ラトは、目の前の少女がゼフィアなのだと信じざるを得なかった。

ラトの無言の返答に、ゼフィアは満足げに頷いてみせた。

「そ、わかってくれたみたいね♪ 私が、ゼフィアだってこと」

 と、ゼフィアは唖然としたまま、その場に座り込んでいるラトに声をかけた。

「何でもこの世界じゃ、セルウィンが最強らしいけれど、未来の世界では私の方が最強なんだからね」

 言いながら、ゼフィアは一歩踏み出した。

「それから、子供扱いはやめてね♪ 事情があってこの姿だったりするけれど、こう見えて、結構、あなたより年上なんだから!」

「―――!?」

 オーラに気圧されて、ラトは無意識のうちに一歩下がってしまう。ゼフィアが言った。

「じゃあ、早速、あなた達に教えてもらいたいことがあるんだけど」

「・・・・・な、何だ?」

「六人の神々の居場所を教えなさい」

「何で、だ?」

硬い顔でラトがつぶやく。

ゼフィアはにこっと笑みを浮かべて言った。

「決まってんじゃん。 私が真のミリテリアマスターとなるためよ」

「・・・・・・・・・・っ!?」

 冷たいものがラトの背中を流れ落ちた。ぬけぬけと言い放つゼフィアの笑みは、自信の塊そのものだった。同時にラトには不吉の象徴のようにも映った。

この目の前の少女は・・・・・、セルウィンを凌駕する力を持っているかもしれない。いや、もしかしたら、六人の神々さえも――

「・・・・・い、言わんわい!」

 勇気を振り絞って、ラトは叫んだ。

「絶対に言うか!!」

「ふーん。 なら、ララティア、あなたはどう?」

「えっ・・・・・?」 ララティアは突然、声をかけられたことに動揺したのか、しばらくの間、落ち着きなくきょろきょろと視線をさまよわせていたが、ラトから「言ってやれ!」と肩を押されて、きっと顔を上げた。

「・・・・・ぜっ、絶対に言わないよ!」

「あなたも、同じ考えって言うわけね?」

 ゼフィアは不愉快そうに、手にした杖の先の部分で、コツコツと自分の肩を叩いた。

「涙ぐましい光景だけど、それはそれ。 言わないと、こっちも困るのよね」

「・・・・・言うか!」

「って言われても、こっちもどうしても真のミリテリアマスターにならなきゃなんないわけがあんのよねー」 ぼそりと言うと、ゼフィアは全く予備動作なしに、突然、左手から光弾を放った。近くに残っていた柱の一本が、瞬間的に消滅する。今、光弾を放った左手の手のひらをラトと隣にいるララティアに向けて、ゼフィアはにっこりと微笑んだ。

「ね? だから、教えて?」

「そ、そんなこと、知るか!」

 ラトはゼフィアの要求をはねのけた。

「だいたい、貴様のようなお子様を、六人の神々が認めるわけないだろうが!!」

 ラトのセリフに、見る見るゼフィアの顔が真っ赤に染まっていく。額にわかりやすく血管を浮き上がらせて、ゼフィアはむしろ冷たく言った。

「あんた・・・・・、ホントに死ぬよ?」 突き出されたゼフィアの手のひらに、爆発的な魔力が収束していくのがわかった。

 あれを直撃されたら、間違いなく俺は――いや、俺達は死ぬな。

 ラトはそう思ったが、恐怖で足がすくんで動けなかった。手のひらが光を放つ。逃げることも抵抗することもできないラトは、ふたつの瞼をぎゅっとつむった。

 ――轟音が響き、爆発音がした。

 爆風がラトの身体を吹きつけた。

 ・・・・・だが、生きている。痛みもない。

 確かに、ゼフィアは俺達めがけて一撃を放ったはずなのに、何で俺は生きているんだ?

何が起きているのか理解できないままに、ラトは瞼を開いた。こちらに背を向けた誰かが、ラトのすぐ目の前に立っている。鈍い月のような銀色の髪が、吹き付ける爆風になびいている。それは――ルカだった。

ラトは自分が目を閉じている間に起きたことを理解した。ルカがゼフィアの光弾を受け止めて、そして弾き飛ばしてくれたのだ。ラトとララティアを守るようにして。

「・・・・・お、おまえ・・・・・!」

「ゼフィアは俺達が止める」

 顔だけをラトに向けて、ルカは言った。

 ゼフィアが不愉快そうに顔をしかめる。

「なに? ルカ、邪魔するつもり?」

「貴様が俺の本当の母親なのかは、俺には分からない・・・・・。 だが、この時代を未来のような世界にだけは絶対にさせるわけにはいかない!」

「ルカ・・・・・」


 アリエールはまじまじとルカを見つめた。

「貴様を倒して、すべての悪夢を終わらせてもらう!」

 ルカはそう宣言すると、ゼフィアに剣を突きつけた。

「あなたは、・・・・・本当にすべてを憎んでいないの?」

「なにっ!?」

 突然シリアスな調子に変化した彼女の声に、ルカは面食らってしまった。

ゼフィアはそんなルカの動揺を無視して、落ち着いたトーンの声で言った。

「未来の世界の人々は、あなたの力を見て『化け物』だって(ののし)ったのよ。 それなのに、あなたは彼らが憎くないわけ?」

「・・・・・っ」

「な、なんだと・・・・・!?」 ラトの絶叫とはもるかのように、完全に冷静さを失った顔でルカはつぶやいた。

 ルカ達だけではない。ララティアもそしてアリエールの表情からも、あらゆる生気が失われていた。

「この時代の人々は、あなたのことを『勇者』だって称えているのかもしれないけれど、それはきっと最初の頃だけ。 あなたの力を見れば、この時代の人々も恐怖の虜になってしまう」

 ただ一人顔色を失っていない少女は、にこっと笑みを浮かべながら言った。

「・・・・・なのに、あなたはそんな人々のために戦うっていうの?」

 ルカは無言でゼフィアを見つめた。

 脳裏に、未来の世界での自分に罵声を浴びせる人々の姿が思い出される。 苦悩の表情を浮かべるルカを見て、アリエールは打ちのめされたように顔をうつむかせた。

かける言葉が見つからなかった。

そんなことない、って言えばいいのかもしれない。

でも、どんな言葉も口に出せばうそ臭くなってしまう、アリエールはそう思った。

結局、何も言えないまま、絶望の沈黙が彼女を押しつぶそうとしていた。

「・・・・・戦うさ」

 アリエールは顔を上げた。

 ルカが、壮絶な目つきでゼフィアを睨みつけていた。

「どうして?」

「もちろん、貴様を倒して、後世に残るような立派な像像を造ってもらうためだ!」

ルカの代わりに、ラトが得意げにそう言ってのけた。

だが、大した理由ではないのは間違いない。ルカは言った。

「貴様を倒して・・・・・、今度こそすべての悪夢を終わらせてみせる!」

「はあっ〜」

 ゼフィアは大きく溜息をついた。

 そしてまた、表情モードを切り替えて、ルカに言った。

「どうでもいいけれど、本当に私に勝てるって思っているわけ?」

 頭をかきながら、ゼフィアはルカを横目で見た。

「私に勝てるわけないのにねえ♪」

 近づいてくるルカを見つめながら、ゼフィアは我知らずそうつぶやいていた。




「――ッッ!?」

 ルカは目を剥いた。

ルカの剣は空を切り、むなしく土の上に突き刺さった。いつのまにか、ゼフィアの姿が消失していたのだ。

「・・・・・へーえ」

と言う声が背後から聞こえてくる。ルカは慌てて振り向いた。

 背後に凄みを漂わせた笑みを浮かべ、ゼフィアがこちらを見つめている。

「結構、やるじゃん。 さすが、サークジェイドがあなたの力を欲しがっただけのことはあるわね。 でも、そんなんで私にかなうと思っているわけ?」

「くっ!」

 より力強く敏捷に。ゼフィアの位置を確認したのとほぼ同時に、ルカは再び大地を蹴った。ゼフィアめがけて幾度となく剣を叩き込む。

「だから、ムダだって言ってんのに〜♪」

 再び、ルカの攻撃はゼフィアを捉えられなかった。ゼフィアは上半身を軽くそらすだけで、ルカの一撃を避けてしまった。 しかし、それでもルカはくじけることなく、何度も何度も剣を振り落とした。ラトも、ルカが剣を振り落とすタイミングを見計って、剣を振りかざす。その背後から、ララティアが魔法で、アリエールが短剣でそんな二人を援護した。

 だが、それらもすべて無駄に終わった。ゼフィアはほとんど移動することなく、最少の動きでラト達すべての攻撃をかわしきってしまったのだ。

「なっ・・・・・!?」

 心臓が凍りつくような衝撃に、ラトは襲われていた。

 圧倒的である。圧倒的な強さだった。

 だが、ラトは絶望しない。諦める。そんな言葉がラトの辞書にあるのなら、最初からラトはゼフィアを倒しになどいくはずがない。「ど? 力の差ってやつが理解できた?」

 ゼフィアは腰に手を当て、上半身を乗り出した。

「じゃ、教えてくれるわよね? 六人の神々の居場所・・・・・」

「戦いは、これからに決まっているだろうが!」

 ゼフィアの言葉をさえぎって、ラトは思いっきり絶叫した。背後にいるララティア達が、ラトにコクンと頷いてみせる。

「ったく、もう、住生際の悪い人達ね〜。 ・・・・・オッケー、分かった♪」

 何を思ったのか、くいくいと指で招く仕草をして、ゼフィアが言った。

「もーめんどくさいし、一気に決めさせてもらうわ」 言い終わると同時に、ゼフィアの手から複数の光弾が放たれた。

 ラト達の周りに土煙が巻き起こり、あっという間に彼らの姿が確認できなくなってしまう。

「――お父さんッッ!!」

 一人離れた場所にいたララティアは、思わず絶叫した。

 ゆっくりと土煙が晴れていく。

 粉塵の中から現れたのは、うつぶせに倒れたラト達だった。

「・・・・・・・・・・っ!!」

 ララティアは声なき悲鳴をあげた。

 ゼフィアが言った。

「・・・・・つーか、私、周りに着弾させただけで当ててないけれど」

「・・・・・じゃ、じゃあ、お父さん達は?」

「多分、反動で勝手に前のめりに倒れたんじゃない?」

 ゼフィアの言葉を裏付けるように、うつぶせにあったラトの身体が、ぴくりと動いた。 よく耳をすませば、「・・・・・うぅ・・・・・」という彼のうめき声も聞こえてくる。

「でも、次はマジに当てるよ? ララティア、六人の神々はどこにいるの?」

「そ、それは・・・・・」

 ララティアは口ごもった。

 お父さんやルカさん、アリエールさんを助けたい・・・・・。

でも、ゼフィア先生に六人の神々の居場所を言うわけにはいかない。

「・・・・・言えない」

 ララティアは顔をうつむかせたまま、そうつぶやいた。

 結局、ララティアに用意された返答はそれしかなかった。

「やっぱり、言えないってわけ? あーあ、ホントむかつくわ」

 ゼフィアは足元の小石を蹴っ飛ばした。

「もーいーや、あんた、とりあえず、くたばりな!」

再び、ゼフィアが右手を水平に上げ、ラトに向かって攻撃モーションを取る。

「お父さんっ!!」

たまらす、ララティアがそう叫んだと同時に―。



「ハーハッハッハッハッハッ! 最強勇者リアク様、参上ッッ!!!!!」




突然、場違いだと思うほどの大声が、城にびりびりと響き渡った。

見れば崩れた柱の先端にかろうじて立っている黒髪の青年が、意味もなく豪快に高笑いをあげている。

そんな彼を、ピンク色の髪の女性が不安げな表情のまま、そっと見上げていた。

「もう、兄さんってば・・・・・」

「見ろ! アクア! 今世紀最大の戦い、最強勇者、リアク対未来の世界の支配者、ゼフィアとの壮絶な戦いが幕を開けようとしているのだ!!!」

「そんなわけないでしょう・・・・・」

 自信満々でそう言い放つリアクを見て、アクアはげんなりとした表情をみせた。

混乱しきっていた思考がどうにか収まり、ララティアは素っ頓狂な声を上げた。

「え・・・・・えっと? だっ、誰ですか??」

「ふっ、見ればわかるだろう! この最強勇者、リアク様とその仲間達だということをな!!」

「・・・・いや、分からないと思うけれどな」

 苦虫を噛みつぶしたような金色の髪の青年の声に、リアクと名乗った青年は不敵に笑う。

「そんなことはないだろう! 俺様のことを知らぬ奴など、もはやこの世界にはいないのだからな!!」

 それはないと思うのですが・・・・・。

 恨めしそうな目で、アクアはリアクを見つめていた。

「・・・・・ていうか、よく分からんが、貴様ら、とりあえず、とっとと帰れ」

倒れたままのラトが、顔だけを起こして、うめくようにそう言うのだった。

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