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ライム・ア・ライト(第二章、あなたと再会の約束を4)

今年、最初の投稿です。

「その人達なら、確か、名もない大陸の方に行くって言っていたわ」

「そうなんだ、ありがとう! ラミさん!」

 ララティアの言葉でラトは回想から現実へと意識を戻した。

 ラミの働いている酒場は旧都ソルレオンの中心にある。気が付くと夜が近づき、空が濃紺に染まっていた。店はもう営業を始めているようでちらほらと客達が集まり始めているようだった。

 ラトは掛け値なしに真剣な顔で、ララティアに言った。

「で、何の話をしていたんだ?」

「うん。実はね、ラミさんに本当のお父さんとお母さんのことを話していたんだけどね、何だか、それらしい人を見たらしいの!」

「なるほどな・・・・・・・・・・・って!?」

 わけもわからず頷き、とにかく何か頼もうとメニューに目を落とした瞬間、ラトは耳を疑った。

「そ、そうなのか!?」

「うん!」

 気分が暗く沈みがちなラトと違って、ララティアはどこまでも陽気だ。

「ま、ま、ま、ま」

 まさか、会いに行く気か、と言おうとして、でも焦りでラトの唇は上手く回らない。何度口を開いても、出てくる言葉は「ま、ま、ま、ま、ま」。

「行ってみようよ、お父さん!」

「本当に会うのか?」

「うん!」

「本当に本当に会いに行くのか?」

「本当に本当に本当に会いにいくよ!!」

 そこまで言われて、ラトはやっと納得したかのように胸をなでおろした。

 やっぱり、会いにいくのか・・・・・。

 『・・・・・仕方ないな』

 そう言って承託したはずなのに、ラトは何故か、動揺を抑えられずにいた。

 俺はララティアの本当の父親ではない。

 わかっている。だけど、わかりたくない。

ラトはその現実から目を背けたかった。

孤独に戻ることの恐れ。ララティアがいつか去ってゆく姿――考えたくない。

だけど、ララティアはそんな俺に言ってくれた。

『私のお父さんは、お父さんだよ!』って。

 だったら、俺はララティアの願いに応えるべきではないだろうか。

「ね―ね―、お父さん」

 ラトの思案は、ララティアの呼びかけによって中断を余儀なくされた。

気を取り直してラトはララティアを見た。

「ネブレストの森の話って知っている?」

ララティアは言った。どこか笑みをたたえた瞳でラトを見つめて。

・・・・・あん? なんだ、それ?



  『ネブレストの森、それは時迷いの森。その地、足を踏み込むことなかれ。そこは、時間の流れが狂っている場所』



 ララティアはまぶたを下ろし、謳うように詩の一節のようなものを口すさんだ。

 ラトは訊いた。

「それはなんだ?」

「この大陸に伝わる伝説だよ。ネブレストと呼ばれる森の」

「なるほどな。で、それがどうしたんだ?」

「私もね、その森に導かれてこの時代にきたんだよ」

「なっ、なにぃっ――-―!?」 ラトは驚いた。

 だってそうだろう?

 いきなり、時を越える森があって、そこからララティアが来たんだよ、と言われては、俺でなくとも驚くに決まっている。

 ところがそんなラトを、再び動揺させることをララティアは言った。

「私だけじゃないよ。私を追いかけてきてくれたえびこさんも、ルカさんやアリエールさんやラミさんも、そこから時を越えてこの時代に来たんだもの!」

「あいつらもか・・・・・!?」

 ふと、ラトの脳裏にラミと初めて出会った場面が過ぎった。

 そういえば、ずいぶん前に――そう初めて出会った時に、ラミが言っていたことがある。

『・・・・・私やルカと同じね』と。

 あの時は意味がわからなかった。特に深く考えもしなかった。だけど今なら何となくわかるような気がした。それはつまり、ララティアと同じように自分達も時を越えてやってきた者達という意味だったのだ。そう、ララティアと同じくネブレストの森から来たのだから。

「それにね――」

「・・・・・ん?」

 沈黙し、考え込んでいたラトは、神妙なつぶやきに顔を上げた。

 やけにしみじみと、そして昔を懐かしむように、ララティアは言った。

「私のお母さんも、ネブレストの森からこの時代に来たんだよ」

 ラトはララティアの言葉の意味が、すぐに理解できなかった。

 ララティアはラトの戸惑いなんて関係ないようで、続けざまに言った。

「だから、私もこの時代に来たんだもの・・・・・」

 ララティアはにこっと笑顔を浮かべていた。


 そんなやり取りがあった次の日に、ラトはララティアを伴って出発した。旧都ソルレオンを出て、ラト達はミルドレットの街に向かった。

ラト達はミルドレットの街にたどり着くと、休むことなくそのまま駆け続け、港に停泊している多くの船のうち、もっとも雄大で豪華な一隻に迷うことなく乗り込んだ。それはあらかじめ、えびこが前もって頼んでおいた船だった。

 まあ、どうやって頼んだのかは、ラトにとってもララティアにとっても、謎のままだったのだが――。

 ラトはララティアから聞いた話を頭の中で反芻させながら、空に浮かぶ太陽と雲を見上げていた。

 人には色々と事情や思いがあるものだな。まさか、あのララティアが、お母さんが訪れた時代だったから、わざわざネブレストの森まで行って、時を越えてきたとは・・・・・な。

 感慨にふけるラトの耳に、誰かの足音が聞こえてきた。

ララティアだろうか?

「どうした? ララティア」

 ラトはそう言いながら振り向いた。

だが、そこにいたのはララティアではなかった。

青い髪を揺らしながら、どこか無表情の長身の男が近づいてくるのを見た時、ラトは自分の目を疑った。その青年は、ラトと視線がぶつかると、軽やかに前髪をかきあげた。「誰だ?」

 ラトが話し掛けると、その青年の表情がわずかに動いた。「ん」。口に出してはそう言った。

 その時、誰かの声が船内に響き渡った。

「エレニック様っ!」

 それを訊くと、登場したときと同じように、彼はあっという間に去っていった。

 その場に一人取り残されたラトは、ぽつりとつぶやいた。

「なんだ? あいつ」






「まず、お互いに自己紹介しようよ!」

紫色の髪のエルフの女性が朗やかに提案する。

 いや、エルフだろうか?

 エルフにしては、少し雰囲気が違う感じの女性だ。確かにララティアのように耳が尖がってはいるが、どこか丸みを帯びている。 船はラトとララティアを名もない大陸に降ろし、ここから目的地であるターンの城までは徒歩で数日の旅というところだ。

 名もない大陸の支配者、ターン。彼を倒せば、その大陸の支配者になれるという。その噂は、名のない大陸に訪れたばかりのラト達の耳にも入ってきた。

 もしかしたら、ターンを倒しにくるかもしれない。

 ラトは確信に満ちた表情のまま、そう思った。

 なにしろ、あのララティアの両親だ。当の本人であるララティアがそれを訊いて俄然やる気になっているのだがら、恐らく、彼らもここにいるに違いない。

そんな思惑を胸に、ラトは今、酒場で出発する前の朝食の準備に取り掛かったところだった。

 そこで、ラト達は、紫色の髪の女性と青い髪の少年に出会った。

 彼らもターンの城を目指しているらしく、せっかくだから一緒に行こう、と紫色の髪の女性の方が強引に誘ってきたのだ。

 だが、確かにお互いの名前も分からないままでは、短い旅の間だけでもちょっぴり不便だろう。

 そして紫色の髪の女性は、ラト達の同意を得る前に勝手に自己紹介を始めてしまう。

「私はフロティア。フロティア=ネブレストだよ。スタンレチア家から来ました。よろしくね!」

 ウキウキ気分を隠そうともしていないフロティアは、口を閉じてにっこりと笑った。

 そんな彼女の後を引き継いだのは、人懐っこい笑顔を崩さないララティア。

「うん、よろしくね、フロティアさん! 私はララティアだよ! で、こっちが私のお父さんだよ!」

 ララティアは手を合わせてお辞儀をすると、くすっと笑った。

「誤解を招くようなことを言うな!」

 途端にそっぽを向いたまま、ラトはぼそりとつぶやいた。

 ララティアとフロティアは今回のことを楽しんでいるようだが、ラトはもちろん、かなり不満そうだ。

「本当のことだもの!」

「どこがだ!」

 お皿のミートボールをフォークに突き刺したまま、ララティアは動きを止めた。

 そして満面の笑みを浮かべる。

「お父さんはお父さんだよ!」

「・・・・・俺はラトだ!」

 言い捨てて、ラトはプイッと横を向く。

「えっ?」

「俺の名だ」

 きょとんとしたフロティアに、ラトがぼそっとつぶやくと、彼女はオーバーアクションで喜び始める。

「ラトさんね。ラト! うんうん! で、ラトさん達はどこから来たの?」

 ラトはがっくりと肩を落とした。

 そしてゆっくりと持ち上げた指先で、頭を抱えながら言った。

「フロティア」

「えっ?」

「いいのか?」

「何が?」

 ラトはきょとんとしたままのフロティアに、にっと勝ち誇った笑顔を作る。

「おまえの連れ、もう先に行ったが・・・・・」

「えっ? あああっ―――――!!!」

 そこでやっと、フロティアはもう一人の青い髪の少年がいないことに気づく。

「メリ君、待ってよ!」

 フロティアは大慌てで少年を追いかけ始めた。

「私達も一緒に行こう!」

 ララティアがそう言うと、途端にラトは怪訝そうな顔をした。

「・・・・・俺もかよ!」

 ラトはララティアに視線を転じ、不満を口にする。あいもかわらず仏頂面だ。

「勝手にしろ」

「うん!」

 ララティアはまるで元気づけるかのように両手を握りしめると、強い口調で言った。

 そうしてフロティア達を追いかけるかのように、二人はその場を後にするのだった。

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