第1章 名もなき大陸と名もない少年
完結部分は短くなっています。
「お願い・・思い出して・・・」
えっ・・・?
僕が目を開けると、藍色の帽子とコートを羽織った女性の顔があった。
「お願い・・思い出して・・・」
「えっ・・? な、何を・・・」
彼女の問い掛けるような声に反射的に反応してから、「僕は、どうして、こんなところにいるんだっけ?」と当然の疑問が僕の頭に浮かんだ。だが、何故か、何も思い出せない。
とにかく、僕は、現状把握と、周囲を見渡そうとした。何度も、何度も、目を見開いて左右を見る。・・何度も、何度も・・・・・。
けれど、どんなに目を凝らしてみても、結果はすべて同じだった。辺りは真っ暗で何も見えない。いや、何も存在していないのだろうか―。無音の世界のように、辺りは静まり返っている。
僕は、再び、目の前の女性に視線を戻した。
不思議なことに、この人だけははっきりと見ることができる。
藍色の三角型の帽子とコートに身を包みこんでいる。それに、金色の髪と薄紫色の瞳がどこか、不思議な雰囲気をかもし出していた。
「お願い・・思い出して・・・ あの、悲しい出来事を・・・・・」
「悲しい出来事・・・?」
「名もなき大陸に・・・あなたの記憶のかけらがあります」
「名もなき大陸?」
初めて聞く名前だった―。
と、いうか、よく考えてみると、僕は、大陸の名前どころか、自分の名前がなんなのか、それさえもぜんぜん分からないし――!?
『悲しい出来事』っていうのがなんなのか以前に、まずは、僕は一体、どこの誰なんだ?
「まずは、そこに行ってください・・・」
「あの、その前に・・ですね・・・僕って・・・」
彼女の言葉をさえぎって、僕は慌てて彼女にそのことを問いかけようとした。だが、その前に彼女は、それすらもさえぎって締めのコメントを残した。
「全ての答えは、ダイタさん・・・。 あなたの心の中に・・・・・」
彼女がそうつぶやくと、周囲と同じように、彼女の姿が暗闇にうもれていく。
ちょっと、待て! 締めの言葉がそれでいいんですか? そーゆことでいいんですか? と、いうか、僕の言葉は無視ですか――。
だが、僕の必死の訴えも彼女には届くことはなかった―。