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生きとし生けるものの理想形と言われた人格者王太子からの嫌がらせ

消したはずだが

作者: 三矢森
掲載日:2026/03/28

番外編です。

本編の54話目までのネタバレが含まれます。


本編『生きとし生けるものの理想形と言われた人格者王太子からの嫌がらせ』

 ※本編のネタバレ含みます。


 ―― マリス騎士とセオドア王太子が出会う少し前


 ここは、東と西の大国の間に緩衝地帯として在る国、ゼントラン王国だ。

 仲の悪い、大国と大国に挟まれていることが、このゼントランの存在意義だとも言える。

 ゼントランは絶妙なバランスを保って、国体を維持している。

 そして、ゼントランの現在の国王は大変な賢君だと高名だ。

 王の子である王太子も大変に立派だと評判だ。


 とは言っても、王や王子が賢くて立派なのには、良い場合と悪い場合がある。

 賢くて立派だと命を狙われる危険性が増すからだ。

 そういう危険性に満ちた環境で、利発さを捨てて育った王子がいる。

 それがゴルド王子だ。もうすぐで十五歳になる、こちらも王太子だ。

 只今ゴルドは、母国を追い出されて、ゼントランに潜伏中である。

 そのゴルド君、暇なので、潜伏している王都郊外のお邸のお庭を、お散歩している。


 ◇◇◇


 はー、歩くとやっぱり疲れるな。

 ……そう言えば、ゼントランの王太子が留学から帰国したらしいな。

 確か、セオドア王子と言ったか。

 しかし、評判ばかりが良くて中身が伴わないって聞いたぞ。

 王子の叔父が言うんだから、実際そうなんだろう。

 ただし、あのアディファンの言うことが信用できるかって言うのも微妙だけどね。


 邸の使用人たちの話だと全然違うんだけど、そっちも鵜呑みには出来ない。

 ものすごい美男子だ、とか、寝たきりだった老婆を歩かせることができた、とか、随分前に枯れた木に実を成らせた、とか……

 とりあえず、顔は……良さそうだな。ジーナも言っていたし。

 まあ多分、老婆とか実とかの方は……都市伝説? というやつだな。


 ◇◇◇


 ゴルドは王子なのに、父王が王太子にしてくれたのに、今、国を追い出されている。

 と言っても、ゴルドは、「王太子にしてやるから、ゼントランの伝説の剣士を国に連れ帰ってこい。それまでは戻るな」と、父王陛下がおっしゃったので、王太子になれたのだった。

 そう言う経緯もあって、王太子なのに、ゴルドは全然大事にされていない。

 まあ、ゴルドの父王ならそうなるだろう。


 ゴルドの父王は齢八十を超えていると言う。

 一説によると百歳過ぎだと言う話も聞いたことがあるが定かではない。

 生誕祭は毎年行われるが、何歳なのかを誰も知らない。

 国の公文書にさえ、父王の誕生年は記されていない。

 とりあえず、ゴルドの父王の髪は白い。

 以前は赤髪だったそうなので、お年を召している、ということは確実だろう。


 そして父王は、自分の後宮で生まれた子供でも、赤髪の子供しか自分の子と認めない。

 ゴルドのことは、大変気に入っている。

 ゴルドが鮮やかな赤い髪を持っているからだ。


 ゴルドには、たくさんの兄弟姉妹がいる。

 いるはずだ。いたはずだ。

 しかし、父王は疑い深く、王の座を狙っていると思わしき王子王女を次々に闇に葬ってきたらしいのだ。

 なので、ゴルドも物心が付くか付かないかぐらいの頃から、父王の機嫌を取る生き方をしている。


 因みにジーナもゴルドの姉のはずだ。

 ジーナの母も、父王の後宮に居たからだ。

 詳しいことは、ゴルドにもよく分からない。

 ただ、ジーナの髪は少しくすんでいると言うことで、父王の御眼鏡には適わなかったらしい。

 でも、ジーナはゴルドに親切で、しかもなんでも出来る。

 ゴルドはジーナがいれば、全て解決できる気がしている。


 ◇◇◇


 僕は運が良いんだ!

 髪色が赤! 鮮やかな赤! これがなんと言っても父上の好みに合っている。

 体形がずんぐりしているせいで(さか)しく見えない。

 これも父上の望み通りだ。


 だから僕は生き残れた。王太子にもなれた。

 伝説の剣士を国に連れて帰らないといけないけど、その剣士はジーナが見つけてくれたし、ジーナの手配で、僕と剣士は今、同じ邸で生活している。

 なんとか剣士の機嫌を取って、父上に『伝説さま』をお届けしよう。


 あ、庭での鍛錬が終わったのかな?

 伝説の剣士、生きる伝説の『伝説さま』が、なんか独り言を言っている。


「あー、芋、食べたい」


 ほほー、芋、ですね! ご機嫌とらなきゃ。

 早速、芋を用意しよう!



 芋。邸の使用人が用意してくれたけど、箱で大量に用意してくれたけど、ジーナ配下の者たちのために、食事の準備をする時間だとかで、使用人たちは行ってしまった。

 でも厨房で焼いてきた芋も、使用人が一本だけくれた。

 こんな風に焼けばいいんだな。


 ふん。僕だって芋ぐらい自分でも焼けるぞ!

 王太子自らが焼いた芋で『伝説さま』をもてなしてやろう! すごい良い考え!


 とにかく、火種をもってこさせて、それで、この箱でそのまま焼けば、おー、芋焼けるなー

 簡単だなー


 ◇◇◇


 邸の使用人の子供たちに言って、芋を入れた木箱をそのまま焼こうとしたゴルドは、結構な炎が出て来たところで驚いて逃げ出した。

 しばらく、遠くから木箱が燃えているのを眺めていたが、やがて火が収まってきたので、戻って来た。

 そこでゴルドが目にしたのは……真っ黒焦げの芋と、真っ黒焦げの芋だった。

 外側はアレだが、中はうまく火が通っているかもしれないと半分に切らせてみたが、残念、中身は生だった。


 ◇◇◇


 ええー、どうしよう。

 見つかったらジーナに怒られるかな。

 今日は、もうすぐジーナが来る日なのに。

 いや、こんな邸の裏まで見に来ないよな。

 いやいや、来るかな? ジーナだもんな。

 ええい、ここに隠してしまえ。


 ◇◇◇


 ゴルドは、庭先の運河の縁で芋を焼こうとしていた。

 火を使う作業は水辺で行った方がいいと、使用人の子供らが言ったからだ。


 この邸には、食料などを運ぶために王都の中心部にも繋がる運河が、邸の建物のすぐ近くまで引き込まれているのだ。

 その運河に、荷物を運んで来たばかりの空の小舟が停泊していた。


 芋を焼いていた炎はすでに消えている。

 木箱には、運河から運んだ水も掛けさせた。

 ゴルドはちゃんと火を消したのだ。


 木箱はまだ熱を帯びていたようだが、ゴルドの芋焼きに駆り出されていた使用人の子供たちに言って、なんとか船に運ばせた。

 上から、濡らした布も被せて隠蔽した。

 なんだかそれで全てが片付いた、とゴルドは邸に入った。



 そのあと、邸に荷物を運んで来た商家の配達人が、運河を使って王都の中心部に戻るため、ゴルドのいる邸の庭から小舟を漕ぎ出して行った。




 ―― セオドア王太子が狙われた事件のあとに、マリス騎士がゴルド王太子を捕らえた数日後


「マリスは、セオドアが留学から帰って来たときに行われた凱旋パレードを見に行ってないんですよね?」

「うん、そうなんです。ちょうど、王都の外れの方で火事の騒ぎがありまして。

 それで……なので……言い訳ですけど、私、セオドア殿下の顔を知らなかったんです」


 セオドア王太子の側近フェリクスに尋ねられて、セオドア王太子の専任騎士マリスが返答した。

 マリス騎士は、セオドアといつも行動を共にしているフェリクスとジャスティンに続く、第三の側近という立ち位置に今いる。

 フェリクスとジャスティンは貴族で、幼い頃からセオドアに付き従っているが、平民出身で王立騎士団に所属する騎士だったマリスがセオドアに直接仕え始めたのは、つい先日だ。


 そして、マリスは第三の側近と言うより、もっと近く、セオドアが自分の間合いに入れて離したくないと考えている、唯一の女性だ。

 マリスに傍に居て欲しいと、セオドアは父である国王に掛け合って、王太子の専任騎士と言う役職を新たに設け、マリスをその座に就けたのだ。

 平民出身であり、騎士の位しか持たないマリスに、王太子である自分の真横に立ってもらうためには、まだまだ根回しも必要だ。

 そもそも、セオドアの気持ちはマリスに全振りしているが、それがマリスには全く伝わっていないという……話もある。


 それにしても、マリスとセオドアは剣術大会で出会っている。

 その剣術大会で、マリスがセオドアに勝ってしまったことから、二人の関係は始まっているのだ。

 マリスは、相手が王太子だと知らずに対戦した。

 もしも、試合の前から、対戦相手が王太子だとマリスにも分かっていたら、色々状況は変わっていただろう。

 セオドアの心は今も、理想形王太子の容れ物に収められていたかもしれない。

 もしももしも、ボヤ騒ぎが無く、当初の予定通り、凱旋パレードの警備の方にマリスが参加していたら、マリスがセオドアの傍にいる未来は来なかったかもしれないのだ。


「なるほどねー。色々偶然が重なって今が有るわけだね。

 で、その火事って大丈夫だったの?」


 セオドアのもう一人の側近、ジャスティンがマリスに聞いたので、マリスが答えた。


「運河で、船の荷物から火が出たんです。ちょうど、民家に近い場所だったから騒ぎになりました。船はすぐに転覆して火も消えたから、被害自体は大したことなかったんですけどね。

 まあ、火事は怖いです。

 『火の用心』、大事です。


 それでですね、船の荷物が燃え出すって、今までも無くは無いんですけど、でも一応、危険物が無いか調べるのに、私、濁った運河にも潜ったんです。そしたら、芋でした。大量の芋の墨が出て来たんです。

 船を漕いでいた配達人が知らない内に、船に火の付いた芋の墨を置かれてたそうです。

 それで私、腹が立って……その芋を無駄にした不届き者をいつか捕らえてやるって、心に決めているんです」

                              「了」

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