表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の鑑定は間違っていない。  作者: イチジク浣腸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/1

証拠は?決定的な証拠がないよな

 

 死んだのは月曜の朝だった。

 通勤途中、トラックに撥ねられた。運転手は大手物流会社の役員で、現場から立ち去った。俺——鈴木誠一、享年三十四歳、地方紙記者——の死亡記事は、翌日の社会面の三段に収まった。

 目が覚めると、見知らぬ天井があった。

 双月。石造りの壁。ガス灯の匂い。

 異世界だと気づくのに、十秒もかからなかった。


 この世界には戸籍がない。少なくとも、俺には。

 どこの国の人間でもなく、どの貴族にも属さない。王都の外れに転がっていた正体不明の男。それが俺の、この世界における全てだった。

 鑑定ギルドに拾われたのは、路上で飢えていた一週間後だ。突然、スキルを見せろと言われた。手をかざすと、文字が浮かんだ。

【真実看破】

 物に触れると、その来歴が見える。誰が作り、誰が壊し、何が隠されているか。嘘と事実の区別がつく。

 上官のバルトという男が値踏みするように俺を見て、一言だけ言った。

「明日から来い。住む場所と飯は出してやる。報酬は後で決める」

 契約書はなかった。でも俺に選択肢はなかった。異邦人に、ここ以外の居場所はない。


 事件は三ヶ月目に起きた。

 ヴェルナー侯爵家の馬車が持ち込まれた。轢死事故。被害者は農民の子供で、歳は七歳。御者は「子供が飛び出した」と言った。侯爵家の代理人は「不可抗力だ」と言った。

車輪の木材に、乾いた血が黒く残っていた。

 俺は馬車に触れた。


【鑑定結果】

速度:通常走行の約3倍

制動操作:痕跡なし

血痕付着位置:前部右側面(追突痕と一致)

隠蔽処理:確認

車輪付着土壌:

一次付着層の除去痕を確認

二次付着層の人工的再付着を確認

処理推定時期:約三日前


 報告書を書いたさ。勿論、事実だけを書き記した。

 翌朝、会議室に呼ばれた。バルトと、司法ギルドの男と、侯爵家の紋章をつけた男がいた。

「訂正しろ。己が立場も分からんのか?甚だしいほどの阿呆だな。貴様の脳みそは胡桃分しか詰まっていないのか?」とバルトが捲し立てた。

「できません」

「スキルの誤作動だ。違うか?目で見たものと内容に相違がある。」

「誤作動はしていません」

 侯爵家の男が、初めて口を開いた。静かな声だった。怒ってもいなかった。

「...証拠がなければ、事実ではない」

「鑑定に基づいた報告書があります」

「それはお前が書いた文書だ。その時、お前のスキルが正確だったという証明がないではないか。」

 俺は言葉に詰まった。

 そうだ。このスキルの精度を、客観的に証明する方法がない。俺の証言以外に。

 男が続けた。

「それに——お前は何者だ。戸籍もない、身元もない劣等人種の異邦人だろう。そんな者の証言に、どれほどの重みがある?」


 翌週、ギルドを追放された。理由は「虚偽報告による信頼毀損」。

 子供の両親は侯爵家から見舞金を受け取り、訴えを取り下げた。農民が十年働いても届かない額だったと、後から聞いた。

 御者は不問。侯爵は不問。


 大通りに出ると、王都はいつも通り美しかった。

 石畳、ガス灯、花屋の色。馬車が行き交い、紳士が山高帽を傾けた。

 死んだ子供と同じくらいの歳の子が、笑いながら走っていた。

 俺は報告書の写しを握った。捨てなかった。

 戸籍のない異邦人の書いた文書など、この世界では紙切れ以下だ。それはわかっている。

 それでも捨てなかった。

 転生する前も、思いは...同じだった。

証拠がないから不起訴。素晴らしきかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ