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86.ハネヒト族の羽根

 モニカの衝撃的な発言は置いておいて他にも気になるものを見せてもらう。


 水道周りは水が来ているわけではない。それどころか上水道は引かれていない。下水道は完備されているのに、だ。

 では、どうしているかというと全て水石で解決している。昼間のフランがやったように壊すわけではなく、ここも魔力を注入することで水石から水を出して、魔力によって補充されるという仕組みを魔道具で行っているらしい。

 この仕組みは台所だけでなく、トイレやシャワーに当たる部分でも活用されている。


 ノエル達が湯浴び器と呼んでいるのがシャワーだ。

 宿舎には風呂桶は無いが客がシャワーを浴びることはできるようになっている。これも魔法石で管理されているので一般人では使うことができない。王女本人がお供で泊まることのある騎士団隊長くらいしか王女宮の中へ入ることはほとんどないだろうし宝の持ち腐れのような気は確かにする。

 この湯浴び器は火炎石と水石を上手く魔道具で組み合わせあり、魔力によって自分で出てくるお湯の熱さを調整できる。取手を回す時に魔力を込めて回すとお湯が出てくる。逆に魔力がない人間には水すら出せない。


 トイレは水洗になっている。ウォシュレットまではないが元の世界の水洗トイレと何ら変わらない。水を流す時に魔力が必要なこと以外は……


「これが欲しかったのじゃ! 今度、各領に配られるのが楽しみじゃ」

 モニカはキッタカールにきた時も話していたがトイレ環境をかなり気にしていて、これが来るのが本当に嬉しいようだ。

 これも水を流す時に魔力を込めて取手を回すと水が出てくる。こちらはお湯ではないので水石と浄化石を組み合わせた水が流れてくるようだ。


「これがキッタカールにも来るなんて凄いですね」


「そうですね! でもキッタカールは下水道の整備がまだまだですから屋敷から下水の処理をできるようにしないといけませんね」


「これを見るのじゃ!」

 俺とノエルがそんな話をしているとモニカが何やらスイッチの様なものを持っている。

 そしてそれを押した。


 部屋が明るくなった。


「どうじゃ! 落雷石を応用した灯りじゃ。これは最新技術じゃぞ!」


「おぉ!」

 俺は思わず声をあげた。

 これは立派な室内灯だ。火の灯りよりも部屋がしっかり明るくなる。

 モニカは自分の系統の魔法が生活の一部になったのが嬉しそうだ。


「火を使うボクが言うのもなんだけど、この装置を押すだけで部屋が明るくなるのは便利だな」

 フランがそう言うとモニカはますます自慢げになった。


「あと最後にタロウが気になるのはこれでしょ?」

 ピラクがそう言うと他の装置を動かした。


 まだ一月の終わりで春とはいえ夜になると少し肌寒い。それがピラクが装置を動かしたら部屋の温度が上がってきて過ごしやすくなった。エアコンか?


「これは空調器よ。適温になるように風を起こすの」


「風を起こす石もあるんですか?」

 風を起こすものは初めて聞いたので、そんなものがあるのかと俺はピラクに尋ねた。


「タロウ様、風に関しては石ではなく特殊な羽根があるのです」


「羽根ですか?」

 ノエルが答えてくれたのだが、石ではなく風を起こす羽根があるようだ。


「パルのことを覚えいるか?」

 フランが俺に聞いてきた。


「風の魔法を使う王女様ですよね」


「そうだ。さっきの会議でハネヒト族という名前が出たのは覚えているか?」


 覚えている。何だろう、と疑問に思ったので記憶に残っていた。


「この羽根はハネヒト族の羽根を使っている。仰ぐと風が起こせるのだ。火炎石や水石で風の温度を調整した風がその装置から出てきて部屋の温度を快適にしてくれる。あと、浄化石も使っているから部屋の埃とかも片付けてくれる」

 エアコンと同時にハウスダストまで掃除してくれるなんて凄い魔道具だ。

 だが、それよりもハネヒト族について気になる。


「そもそもハネヒト族って何なのですか?」


「ハネヒト族は空を飛べる人じゃ」

 モニカが答えてくれたのだが、いまいちイメージが湧かない。


「それってプロントの鳥人とは違うのですか?」


「プロントの鳥人は鳥が人型に進化したから顔が鳥なのじゃ。ハネヒト族は人間に羽根が生えているから人が基準になっていて顔も人間じゃ。羽根が生えていること以外はうちらと変わらないのじゃ」

 なるほど。モニカのこの説明なら俺にも理解できた。


「それでハネヒト族の羽根はさっき言ったように魔力があるから貴重なのよ。彼らは自分たちの羽根を生え変わる時に加工して王国と貿易しているのよ。国とは言わなくてもどこの国にも所属していない独立した種族って形ね。でも、パルの話からするとこの羽根を悪用しようとしている連中がフィルニアにいて攻められそうになっているってことなのでしょうね」

 フランはさすが東の王女という形で状況を整理していた。やはり戦ごとには強いのだろう。


「この羽根にそんな悪さができるほどの力があるのでしょうか?」


「そんなのボクには分からないさ。でも、例えこの羽根でが兵器にならなくても貴重なものには変わりない。ハネヒト族の意志とは別にむしり取って闇の市場に流せば軍資金を稼げると考える奴がいてもおかしくないだろう」


「確かに……」


「すでに変な動きがあるならパルのことが気がかりね」

 ノエルはパルを心配していた。他の三人も頷いている。王女の座を争奪すると初めは聞いていたが、こうして直接見るとそんな険悪な雰囲気があるわけでなく、仲の良い姉妹に見える。


「今日はありがとうございました。そろそろ宿に向かいます」


「タロウよ。王女宮の中心にある湯浴び所も案内してあげたいのじゃが、ここばかりはうちでも無理なのじゃ。混浴もしたいのじゃが、女王様でも入れない場所だからのぉ」


「混浴はともかくそんな神聖な場所に入れませんよ。何か新しい装置とかあればまた教えてください」


 モニカもこういう神聖な場所は分別がしっかり付くのはいいことだ。

 王女達に改めて挨拶をして俺はタモツが待つ第二層へ向かった。

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