85.家電代わりの魔道具
夕食の後、王女達が王都に来た際に宿泊する王女宮を案内してもらった。
王都の中心部は城や騎士団の本隊舎がある他、王女宮という場所がある。
ここは中心に現役の王女達だけが入れる温浴施設があり、そこを囲うように八つの宿舎が建っている。全て三階建ての同じ造りの施設だ。それぞれ自分の方角と同じ施設の建物を使うことになっている。
王女が滞在する場所ということでここの警備は騎士団の女性隊員が担っている。
一階は調理場、トイレ、シャワー、ダイニングがある。
二階は王女以外の宿泊者が泊まれるように四台のベッドや机などがある。個室というわけではなく仕切りで簡単に区切られているくらいだが、一つ一つのスペースの広さとプライバシーの配慮は確保されている。
三階は王女専用の部屋。ここに住んでいるわけではないので最低限のものしかないが、それでも調度品は立派なものばかりだ。ノエルがキッタカールに持ってきているものよりは全て高価に見える。
今回、俺もタモツも王女宮での滞在が許可されたが、さすがに辞退して王都の第二層に宿を取った。第一層の宿も王女達の力で無料で宿泊させてもらえるようだが、それも悪いので自分達で泊まれる宿を選んだ。
それでも今回王女宮を見学させてもらったのは王女達の宿舎の一階にある家電の代わりになっている魔道具を見させてもらうためだった。
全て真似できるとは思っているわけではないが少しでもキッタカールで使える技術があればという期待だった。
俺の立場としては当然ノエルの宿舎を見学するつもりで案内はノエルにお願いするつもりだったのだが、何故かモニカとフランとピラクも来た。
ミネスは昼間の買い物や得た知識をまとめたいと自分の宿に帰って行き、タモツは先に第二層の宿に向かっていた。
プロシパは、
「疲れたから先にあんたの家に帰ってるから」
とピラクに言って帰って行った。
「あんた、王女がまだ仕事してるのに帰るの? 護衛はいいの?」
「ここで襲われることないでしょ? それに公の場じゃないから私たちはただの幼馴染よ。疲れたならあんたも帰ればいいじゃない? タロウの魔道具見学は仕事じゃないだからさ」
「もう、あんなアホは放っておいて見に行きましょう」
ピラクはプロシパに呆れていた。
プロシパの言っていることも正論なのかは分からないがピラクとはこんな会話ができるなら仲はいいだろうし、プロシパも時と場所を考えて行動できているなら成長もしているのだろう。
結局、俺を含めて五人でノエルの宿舎へ来た。
気になる家電の代わりの魔道具がたくさんある。
「これは火炎石を組み込んであるのだよ」
ここは自分の番とばかりに火の属性のフランが説明し始めた。
「ここの魔道具は魔力が無いと使えないものばかりだけど、魔力がある人間が使うと本当便利なのよね」
ピラクがそんなことを言っている。
フランが調理場にある魔道具を起動させた。
「これは起動すると、この鉄板部分が熱くなるんだ。この捻る部分を魔力を込めながら回すと熱さを調整できるんだ」
なるほど、ガスコンロというよりIHヒーターのような感じか。
「これは埋め込まれてる魔法石は割れたりしないのですか?」
「ボクも構造は詳しく知らないが、こういう魔道具に組み込まれる魔法石は特殊な加工がされているから滅多に壊れることはないらしい。そもそも壊れたら交換すればいいからな。それとここはボク達しか使うことないこら壊れることはないんだよ」
「最近の話になるのですが、ここにある魔道具は王宮の研究家が作ったものを実験的に置くことになっているのです。使い勝手が良ければ普及させて行きたいのですが、使うのに魔力が必要なので試すこともままならなくてここで限定的に試しているのです」
フランの言葉にノエルが補足した。
「それなら各地にいる王女のところに配布して日頃から使ってもらった方が実験記録も取れると思うのですが」
「ただ置けばいいわけじゃないから設置費用とかかかるのよ。それに壊れた時にすぐに直せないから王都へ置いてあるのよ」
俺の質問にピラクが答えているとモニカが入ってきた。
「ふふーん。まだ三人とも知らないのじゃな。タロウが言ったように記録が取れないからこれからは王女宮と並行して各地で王女が使っていくのが決まったのじゃ」
「何言ってるのだ、モニカ? この調理器はともかく厠や湯浴び器は設置しても下水の整備もしないといけないのだぞ。そういうのはどうするのだ」
「それはそれぞれ考えるのだ、と王女から言われたのじゃ。プロントは大型魔獣の襲来から復興中なのでそれに合わせて下水も整備するのじゃ」
「そんなの聞いてないぞ」
「そんなの聞いてないわ」
フランとピラクが合わせて言った。
キッタカールは発展途上だから整備も何とかできると思っているのかノエルは何も言わなかった。
それにしてもメルチェはちゃんと伝えるべきことをわざと伝えず試練を与える癖があるのが少し厄介だと改めて思った。




