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81.海鮮

「ここの海鮮串は良さそうじゃない」

 ピラクはそう言って屋台を選んでくれた。

 ここはお祭りにあるような屋台で軒先で焼いたものを販売している。


「うーん、比較的他のところよりも良さそうだったけどやっぱりアキアンと比べると味は劣るわね」

 俺が久し振りに食べたイカ串は元の世界の出店の屋台の味とそんなに変わらない味で満足していたのだが、ピラクとプロシパはいまいちだったようだ。


「ピラク様、それは仕方ないでせさぁ。王都の四層と海の幸をその場で食べれるアキアンを比べたら味は落ちますって。王都の一層で食べれる魚介類でもアキアンには敵いませんよ」

 店主が言う。


「それもそうね。冷やして空輸で運んでも早くて半日以上、陸路なら三日はかかる。水槽に入れて運んでもやっぱり水を綺麗に保つのも難しいし、アキアンで食べるのが一番ね」

 ピラクがそう言うなら俺もアキアンでの海鮮を食べてみたくなった。


「ねぇ、あんた。店に出す前のイカやタコはどうやって保管してるのよ?」


「へぇ。あっしらは海水は手に入りませんし、氷も高くて手に入りません。水石に水を溜めて氷の代わりに使ってまさぁ。でも、やっぱり痛んでしまうんで何とかその日のうちに売り切らないといけないんですよ」


「ねぇ、ちょっと水石を貸しなさいよ」

 ピラクは店主に言って水石とやらを借りた。俺の知らない魔法石だ。


「なに? タロウは水石を初めて見るの?」


「はい、キッタカールでは見たことなくて」


「水石はね、アキアンで山ほど採れるのよ。海外に流れ着くし、漁の時に網に入るし。アキアンでは観光のお土産にもなっているくらい手軽なものでね。火炎石や、ましてや落雷石みたいに効果なものじゃないの」

 ピラクが俺に説明してくれる。そのまま水石に魔力を込める。


「こうやって魔力を込めると冷たくなるの。氷ほどじゃないけどね。夏とかは水に入れておけば冷たいまま飲めるわよ」

 そんな便利なものがあったのか。北と南で対局なのでキッタカールには流通していなかったのが残念だ。


「ピラク、その魔力を込めた水石をボクに貸せ」

 フランがピラクから石を借りる。そしてそのまま壊した。壊した石から水が溢れる。


「こうやって魔力が籠った石を壊すと水が出てくるのだ。戦場では水分補給ができるんだぞ」

 フランは実演をしてみせた。


「こら! フラン! お店の物を壊したらダメでしょ!」


「フラン、さすがに非常識なのじゃ」


「えっ?! あっ……」

 ノエルとモニカに怒られて、フランはやっと気付いたらしい。フランは戦場のことしか頭に無くて周りが見えないのだろうか。心配になる。店主も唖然としていた。


「そうね、安いものとは言っても勝手に壊したらダメね。でも、私も壊すつもりだったから安心して」

 ピラクのその言葉を聞いて店主がさらに驚いている。


「あら、ごめんね。そうじゃないの。壊してから再生するつもりだったのよ」

 フランが壊した水石にピラクが魔法を込める。石が再生していく。再生するだけじゃなくて綺麗な水色の玉になった。


「タロウ、ちょっと持ってみなさい」


「はい。うわっ、冷たいっ!」

 ピラクから渡された水石は氷と同じような冷たさだった。


「私が魔力を込めて再構成したの。本物の氷ほどじゃなくても冷たさは半永久的に維持されるわ。凄いでしょ?」

 ピラクはそう言って俺の手から水石を取り上げて店主に渡す。


「そこのフランが壊したお詫びよ。受け取って」


「いや、こんな高価なもの受け取れませんって。水石なんて安いんでまた買い直しまさぁ。ここのような屋台に置いてあったらいつ盗人に取られるかも心配ですし」


「盗まれる心配はないわよ。私の魔力が籠っているんだから。追跡もできるし、何なら遠隔で破壊してあげるわよ。あなたは海鮮の知識もちゃんと勉強してそうだし、アキアンの王女からの贈り物と思って受け取りなさい」


「ははぁ。それでは家宝として受け取らせていただきます」


「家宝はいいけど、飾らずにちゃんと使いなさいよね」

 ピラクのツッコミに店主は苦笑いだ。


「ねぇ、ピラク。私もできるかな」

 今のやり取りを見てプロシパがピラクに聞いている。


「今のあんたにならできるんじゃない? ねぇ、もう一つ水石貸してよ」

 ピラクは店主から水石を借りる。

 それにプロシパは自身の魔力を込めて、フランに渡した。


「フラン様、壊してください」


「君はボクを何だと思っているんだ! 壊す役割じゃないぞ」


「いえ、やはりここは強いフラン様にやっていただきたく思いまして」

 ピラクやプロシパが魔力を込めた石はそれだけでも普通の人には壊さないようだ。


「それなら仕方ないな」

 フランは石を壊した。


「ちょろいのじゃ」


「モニカ、何か言ったかい?」


「何も言ってないのじゃ」

 モニカが全員が思っていたことを代弁していた。

 そんなことを言っている間にプロシパも石の再生に成功していた。ピラクの作った水石と同じように綺麗な青色の球体になっていた。


「ありがとう。これもどうぞ」

 プロシパはそう言って店主に水石を渡した。

 店主は驚いて声も出ず頭を下げるだけだった。


「ノエル様、あれって相当な値段しますよね?」


「そうですね。火炎石は一般的には市民の一ヶ月のお給金の半分から全額くらいします。水石はピラクが言ったように観光地のお土産程度の値段でも買えます。でも、あの二人の魔力で再構築されたものになると、恐らくとんでもない値段……というより価値を付けられないのではないでしょうか?」

 俺の問いかけにノエルは真剣に答えてくれた。確かに火炎石は便利な家電と考えるとそれくらいの価値はするのだろう。実際に俺が公衆浴場を作る時に用意してもらった時もかなり支払った。水石は気軽に手に入る分、安いとはいえ二人が再構築したものに価値が付けられないというのにも納得する。


「ノエル、そんな高価なものじゃないよ。価値が付かないとか言い過ぎ。キッタカールに必要なら作ってあげようか」


「いえ、気持ちは嬉しいけどピラクの魔法石なんてやっぱり貰えないわよ。それより普通の水石をキッタカールにも置きたいから何か同じくらいの価値のものと交換しましょう」

 ノエルはちゃんと等価交換を申し出ていた。俺はピラクの魔法石があった方が便利かと思ったが、やはりそんな価値のあるものをタダで貰うことはできないだろう。あの店主が少し羨ましい。


「次は何を食べるのじゃ?」

 モニカは俺たちの会話はどうでもいいようだ。

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