80.啜る
王女達がそんな話をしていると店の外が騒がしくなった。他に誰か来たのだろうか。
フランがあんなことを言ったからフラグが立ってしまったのかもしれない。
「おうおう、王女のふりした奴らがいるのはこの店か? そんな不届者は俺達が退治してやろう」
「ここにいるのは本物の王女様だ。お前達のような者を通すわけにはいかない」
「そんなわけあるか! なんの通達も無しに突然来るわけないだろう。お前達も騎士団のふりしてるのか」
「今回は特別なのだ。抜き打ち検査のようなものだ」
やはり事前通達とかは出しますよね。衛兵の方も抜き打ち検査とか聞かされていて色々と申し訳ない。
「うるせぇ、どけ!」
入口にいた衛兵を突き飛ばして大男が入ってきた。髪もぐちゃくちゃで整っておらず無精髭だ。
「なんだお前は? 入口の警備を吹き飛ばすとは見所があるな。騎士団に入団希望者か?」
クリスが大男に凄む。
「えっ……本物の隊長……?」
大男もクリス達、騎士団の隊長のことは分かるようだ。
「外の警備の者が伝えていたと思うが、今王女達が食事中でな。店を貸切のようにさせてもらっていた。それを聞いた上で入ってきたのだ。クリスが言うように騎士団隊長がこの場にいると知って入団希望とかなのだろうな。もしそうでないなら理由を述べよ。もし正当な理由が無いなら、この場で切り捨てる」
サクラが怖いことを言っているが本来王女に対してはこれくらい厳しくなくてはいけないのだろう。俺や周りは普段がゆる過ぎるのだ。
「いえ、俺……いや、あっしは王女を語る奴……いや、人達がいて、万が一にも偽物だったらいけないと思いやして、ここら辺の用心棒として見回りに来た次第でさ。決して怪しいもんではありやせん」
大男が言い訳をしている。
「店主よ、この男が言っていることは本当か?」
「はい、本当です」
店主がサクラにそう答えた。
「そうか、ならお前達もこの場に問題がないことは分かったな。早々に立ち去るがいい」
「へへぇ、わかりやした」
サクラの言葉を受け大男たちはそそくさと退却していった。
「騎士団の隊長様。ありがとうございました。あいつらは確かにここら辺の用心棒なんですが、みかじめ料って言って近隣の店から小銭を巻き上げているんでさ。騎士団の方達も見回りに来てくれてますし、酔っ払いの喧嘩の仲裁くらいしか役に立たない奴らなんですが、ああやってでかい顔してるんで、すっきりしました」
「そうなのか。分かった。騎士団の警備にも注意するように伝えておこう。ああいう奴らが大きな顔するのも治安に悪い。何か困ったことがあるなら騎士団にすぐに声をかけるといい」
どこの世界にも悪い奴らはいるものだ。さすがに王都くらいの規模になるとこれくらいの輩はいるのには納得する。
こんな騒ぎになって麺が少し伸びてしまったのは残念だ。
フランとピラクは周りの騒ぎなど気にせずに食べていた。どうやって食べるかと思ったら麺を普通に啜っていた。
「何見てるのよ?」
俺が麺を啜るのを見ているとピラクに突っ込まれた。食べてるところをじっくり見られたら気になるだろう。
「ピラク様、すみません。こちらの世界でも麺を啜るのかと思って気になってしまって見てしまいました」
「あぁ、そういうこと。確かに麺ってあまり流通していないから上手く食べられない人も多いかも」
「ボクは戦場で何でも食べれるように日々鍛錬をしているから麺も啜れるのだぞ」
フランは食事も前線に立つための訓練だと思っているようだ。
そういえばこの店は箸ではなくてフォークが出てくる。一年近くいるのにこの世界の横文字はいまいち慣れなくていけない。固有単語は通じても置き換え可能な日本語がある場合、通じないことがある。アイドル、ライブ、マッスル、パワーなどは通じなかった。
そのフォークも使ってもノエルとモニカは食べるのに苦戦していた。
「タロウ様、麺はほとんど食べたことがなくて……上手く食べられないのが恥ずかしいのであまり見ないでください」
「フランにできてうちにできないはずはないのじゃ」
可愛いノエルとは対照的にモニカはフランに対抗心を燃やしていた。
何とか全員食べ終わり店を出る時、俺は店主に聞いた。
「麺やスープは手作りなんですか?」
「スープは手作りでさぁ! 豚の骨を煮込んでます。麺も自分で作れたらいいのですが、なんせ時間がかかってしまうので市場で買ってます。お恥ずかしい限りで」
「教えてくれてありがとうございます。美味しかったです。ご馳走様でした」
麺そのものは市場で買い付けているのか。もしキッタカールで作るにしても王都の市場から仕入れるわけにもいかないし自作する方が早そうだ。スープはズザやリリに相談したら作れるかもしれない。
「タロウ、次は何が食べたいの?」
ピラクが聞いてくる。
「あとは串焼きがどんなものか見たいと思ってます」




