集落
昨夜は巨大な手を見せてもらい土を掘ったところでノエルの能力の確認は終わりそれぞれ夜を過ごした。
ノエルは馬車で休息を取り、他のメンバーで交互に周囲の警戒を行った。俺もさすがにずっと寝かせてもらうわけにはいかないと思い警戒の手伝いをした。
幸い魔獣の発生や野生の獣の襲撃もなく夜を明かすことができた。
「今からオークとゴブリンの集落を抜けて、その先のキッタカール村に入る。昼過ぎには着く予定だ」
クリスが教えてくれる。オークとゴブリンの集落を抜けるのか。また戦闘になるかもしれない。気を引き締めていこう。
「オークやゴブリンの集落は危ない目に遭うかもしれないですし注意をしていきます」
俺がそう言うとクリスは不思議そうな顔をしてこう言った。
「どちらの集落も危険は無い」
クリスが強いから安心ということなのか。それならいいのだが。
「タロウ殿は何か勘違いしているかもしれないが、この世界ではオークとゴブリンも人間と共生している。昨日の森のエルフもそうだ。南の海の近くの領土に行けばサハギンや人魚もいる。世界を見渡せばドワーフ、獣人、リザードなど多種多様な種族と共生している。もちろん縄張り争いなどいざこざはあるが、人間だけを狙って襲ってくるなどということはない。この世界の脅威は魔障気が生まれてくる魔人や魔獣だ。それに対して一丸となって戦っている」
ある意味、平和な世界だった。
「自分の元の世界は種族としては人間しかいませんでした。その人間同士で戦争をしています。それに比べるととても多種族で共生しているのは素晴らしいと思いました」
「タロウ殿の世界は東のフィルニアのような世界が延々と続いてるのだな」
フィルニアは東にある連合国だったか。東の魔王を勇者が討伐して今は残党と争っているという話だったがそれだけでは無さそうだ。
「フィルニアは連合国でゴルドと違って絶対的な君主がいない。領土の大きい領主が発言権を持つためそこかしこで領土争いが続いているのだ。さらに言えばそういうところを魔王軍の残党に狙われて真の平和が訪れない。勇者殿も苦労していると伝え聞く」
フィルニアに転生しなくてよかった。そちらは先に転生した勇者に任せる。
「どこもそれぞれの事情があるのですね。それに比べたらこのキッタカールは人間とオークとゴブリンが共生しているなんて平和だと思います」
「平和は平和だ。魔獣もほぼ発生しない。だが、貧しい。他の地域ともほとんど交流できないため自給自足で生きていくのがやっとの地域なのだ」
クリスの口ぶりから過酷なのが伝わってくる。それと同時にノエルのことを心配するのも伝わる。今から行く場所はそれほどまでに貧しいのだ。
「人間が300人、オークとゴブリンがそれぞれ100人くらい暮らしている。オークは土木作業に長けていて人間と共に鉱山の開拓を行っている。ゴブリンは小物作りに長けていて見栄えは良くないが鉱山で使う道具を作ったり罠を作って野生動物を捕まえて食糧を供給している。人間は主に鉱山の開発と農作業だ。それでもあまり良い作物も作れずキッタカールは常に飢餓と背中合わせだ」
王女に課せられた運命とは言え、そんな過酷な地にこれだけの荷物でわずか15歳の王女を送るのか。クリスと雇われの御者が戻ればお供もわずか二人のみ。しかも少年兵だ。
女王争いの前に文字通り生き残るのことができるのか。
そんな話をしているとオークの集落に到着した。
オークの長であるハイ・オークが現れ出迎えてくれる。
「ノエル様、クリス様、お待ちしておりました」
ハイ・オークの言葉に対してノエルが礼を述べると、早速クリスが指示を出す。
「私の場所に魔獣の死骸が5体ある。これをすぐに解体して欲しい。肉は村に届けて欲しい。骨や皮はゴブリンに頼んで服と簡単な鎧を1着ずつ作るように届けて伝えてくれ。血はエルフの森の祭壇に供えるように。残りはオークとゴブリンで分けてくれ」
「わかりました」
「肉は今夜、村に間に合うように届けること。今夜はノエル様の着任の知らせと交流会を行うのでオークとゴブリンの集落からも可能な限り参加するように。これもゴブリン達に伝えてくれ」
「わかりました、すぐ取り掛かります」
「それでは先を急ぐので後は任せた」
獣の死骸を下ろしたクリスの馬車は広くなった。
「こんな感じで普通にやり取りができるものなのですね。クリスさんの話を聞いて理解していたつもりですが実際に見るとやはり驚きました」
村に向かう馬車の中で素直な感想を伝えた。
「私も実際に見てみないと分からないと思う。私は北の騎士団の隊長だからこの地域に巡回に来るからオークともゴブリンとも知った仲なのだ。騎士団隊長ということで指示にも従ってくれる。今はノエル様のためにもこの地域全体で協力して少しでも豊かにしていきたい」
初めの話はノエルの手のことも少し考えていそうだ。
「俺にできることがあれば協力します。一緒に盛り上げていきましょう」
「そのことだがタロウ殿には村に着いてからも滞在してノエル様を手助けいただきたい。村に到着したら先代の王女の頃から村に駐在しているジョルジュにそのことを伝えて夜のお披露目までにノエル様を支える体制を整えたい」
なかなか重い役職に就く提案がされた。村にいるジョルジュという人がどんな人か分からないが揉めずにクリスの案がまとまることを祈りたい。




