76.南東の脅威
「それと南に関してはもう一つある。モニカ、お前も南へ行くのだ」
メルチェはそう言った。
「な、なぜなのじゃ? うちもプロントの復興が大変なのじゃ」
モニカは少し嫌そうだった。復興で忙しいというが案外好き勝手に遊んでいるのがメルチェにバレているのかもしれない。
「海の魔獣の撃退にはモニカの魔法が必ずいるはずだ。キッタカール鉱石……いや、これにも火炎石のように名前を付けようと考えている。モニカの魔法から落雷石というようにな。この落雷石を持ってピラク達と一緒に南へ向かうのだ」
メルチェは女王として命じればいいはずなのだが、モニカのやる気を出させる言い方をした。
そしてモニカはメルチェの思惑通り釣られた。
「仕方ないのじゃ! キッタカールの時のようにアキアンでもうちの力を見せつけてやるのじゃ! そしたら大型魔獣と三回も戦ったうちが次の女王になるかもしれないのぉ」
モニカはフランを見て挑発するように言った。
「ボ、ボクだって魔人を三体撃退したんだぞ!」
フランも負けじと言い返す。モニカはフランが嫌いなのか、それともからかっているのか。恐らく後者だろう。
「これ、二人とも喧嘩するでない。ピラク、モニカが来るので問題ないな」
「本当は私もフランみたいに自分一人で大丈夫って自身満々に言いたいけど、キッタカールでの大型魔獣との戦いを経験して戦力はどれだけあっても足りないんじゃないかって思ってる。だから、モニカが来てくれるのは助かります。あの時、キッタカールで経験できてよかったわ。あれがなかったら来なくていい、って言ってそうだったもの」
ピラクのこういう対応できるところは素直でしっかりしていて好感が持てる。
「モニカ、頼りにしてるわよ」
「ま、任せるのじゃ」
ピラクに頼られたのが意外だったのかモニカの方がしどろもどろになっている。モニカはこういうところはもう少ししっかりした方がいい。
「これで南については以上だ。ランダとリエス、お前たちもそれぞれのところで何か気になることはあるか?」
メルチェが二人に聞く。
「リエスね……少し気になることあるの……」
先に口を開いたのは意外にもリエスだった。
「何か心当たりがあるのか?」
「その、ローシャのこともあったからね……森との対話を続けてるの……そうするとエルフ教の過激派の人たちの……嫌な話がたくさん聞こえてきて……ずっと不安だったの……」
ローシャは名前が出て少し気まずそうにしている。
「リエスのところはボクが助けてやろう!」
「フランちゃん……ありがとう……でも……フランちゃんが来たら森を全部焼いちゃいそうだから……ごめんね……気持ちだけもらうね……ランダちゃんやパルちゃんが助けてくれるのが相性良さそうだけど……二人とも自分のところが大変そうだから……」
「ボクが一番強いはずなのに活躍の場所がない……」
リエスの言葉にフランはまた泣きそうになっている。本当にこの王女は最強なのだろうか。
「リエスよ、それならローシャをまた南東に戻してもいいか?」
メルチェからリエスに提案があった。
「リリもティキットも許してるから……問題ないです……」
「ノエルとクリスもそれで構わないな」
「はい」
メルチェの問いかけにノエルははっきりと返事をした。
「ローシャに新たに魔力を与えるわけにはいかないが、魔法を使うのと同等の力を発揮できるように魔道具を渡してある。ローシャよ、南東の地のために力を発揮してくれ」
「仰せのままに。ノエル様、短い間ですがお世話になりました」
ローシャはそう言って頭を下げて、リエスの後ろへ向かった。
「おかえり……ローシャ……」
「ローシャ隊長! 自分には隊長は荷が重いのでローシャ隊長が隊長に戻ってくださいよ!」
リエスの後ろで待機していた若い隊長がローシャに言っていた。
「再びお世話になります、リエス様。それとフィデス隊長。今は僕は魔法も使えないただの一兵卒だ。存分に使ってくれたまえ」
「無茶言わないでくださいよ」
ローシャの言葉にフィデスと呼ばれた隊長はたじろいでいた。
元上司が部下になるのだからやりにくいだろうな。
「あら、そうすると予兆も何もないのは私のところだけかしら?」
ランダが言った。
「うむ、そうみたいだな。だが、予言書が解読されるまではどこも気を付けようがなかったのだから気にするでない。今回を機に注意して、何かあったら報告してくれたらそれでよい」
「わかりました。私のところは一番平和な地だと思っておりましたが、これからは気を付けるようにします」
西は平和で豊かな地と聞いていたから確かにこの話が無ければ脅威に気を配ることも無かっただろうとランダの言葉を聞いて俺は思った。
「じゃあ、私はそろそろ帰ってもいい?」
パルがそう言うとメルチェが制した。
「パルよ、急ぐ気も分かるが、まぁ、待て。お前たちに渡す物がある。その説明だけ聞いてからでも遅くはなかろう」
メルチェはそう言って王女たちに石を嵌め込んだペンダントを配った。
嵌め込まれていたのは通信石だった。




