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72.まっするぱわー

 ミネスが歌い始めた。

 これが開戦の合図になった。


 俺も剣を持って戦場に出る。いつもより身体が軽い気がする。


「何だ? 戦いの場で歌なんて歌いやがって」


「気を付けろ。王女の歌は騎士団の力を強化している」


「何だとぉ?」


 傭兵団の団長にヨーンが注意しろと叫んでいた。


「マッスルパワー」


 近くでタモツが魔法を唱えて自分の身体を強化して戦っていた。素手で傭兵団をボコボコにしていた。

 しかし、背後から忍び寄る敵に気付いたいないようだ。


「タモツ、うしろ! 危ない!」


 俺がそう叫ぶとタモツは振り返った。

 敵がタモツに対して剣を振り上げて顔に斬りかかろうとしている。

 防具を装備しているわけではないので受けることは難しい。身体能力強化をしているなら避けられるのではないか?

 俺はそう祈ることにした。


 しかし、無情にも剣はタモツに振り下ろされた。

 敵の剣がタモツの頭から斬りかかる。


「タモツ!」

 俺は叫んだ。

 こちらの世界に来てもまた友達を失うのか。

 おかしくなりそうだ。


 だが、壊れたのはタモツの頭ではなく敵の剣の方だった。

 そしてタモツは相手を吹き飛ばした。


「タロウ殿、心配無用でござるよ!」

 本当にその通りだった。剣の攻撃を防げるなんてとんでもない。


「タモツさん、その魔法、僕も真似させてください! "まっするぱわー"」


 ナズマは詠唱を聞いた魔法を真似できるのだった。

 タモツの魔法も例外ではないらしい。


 気が付けば騎士団は大きな損害もなく傭兵団を殲滅できそうだった。残るは団長の男のみだ。


「どうしてこうなったぁ!?」

 大きな刃が両側についた戦斧を振り回して怒鳴っている。

 あとはあの男をどうにかしたら決着が付く。


 ナズマが寄って声をかける。


「もうあなただけですよ。降参しなさい」


「ふざけるなぁ! てめえみたいな弱そうな女男に俺がやられるとでも」


「一応、僕、男なんですけど。あと、隊長なのであなたよりは強いですよ」


「お前みたいな弱そうなのが隊長だと?! 武器も持たずに近付いてきやがって。なめるなよ。それならどうせ捕まるならお前を倒して道連れにしてやる」

 ナズマは武器を持っていないし防具も大して着けていない。丸腰だ。

 相手が戦斧を振り下ろす。


 ナズマは左手でその攻撃を受け止めた。そのまま斧を掴んで相手の動きを止める。


「その程度で僕を倒そうなんて、どっちが甘いのでしょうか?」

 ナズマは武器を掴んでいない右手で強烈な一撃を相手に叩きつけた。一発で相手を倒す。


「タモツ、お前の魔法、とんでもないな」


「いや、拙者の魔法を使ってとんでもなく身体を強化してているのはナズマ殿の魔力量だからできることでござるよ」


 ナズマが俺とタモツのところに寄ってきた。


「タモツさん、ヨーンと同じように疑ってしまってすみませんでした。こうして魔法までお借りして感謝の限りです」


「いやいや、拙者が怪しまれても仕方ないでござったよ。それにしてもとんでもない魔力量ですな」


「僕の信念なのですが、ガルメロは芸術の都だからあまり武器を持ち込みたくなくて。僕は体術で戦うために身体を鍛えるだけでなく、魔力を身体に循環させる訓練もしていて。こういう場面ではミネス様やタロウさんの魔法とは相性がいいみたいです」


 確かにナズマは女性みたいな顔立ちをしているが身体はそう言われて見るとかなり鍛えられて引き締まっていることがわかる。


「タロウさん、あまり身体をジロジロみないでくださいね。ちょっと恥ずかしいですから」


 ナズマは俺にそう言うと大きく舞台に向かって手を振った。戦闘終了の合図だ。

 それを見てミネスの歌が止まった。



 俺たちもミネスのいる舞台へ戻った。


「今回はみんなありがとう。まだ何がなんだか分かってないけど、無事に敵の襲撃を止めれたことは分かったよ」

 ミネスが感謝の言葉を口にした。

 確かに何がなんだか分からないままだろう。

 俺もよく分かっていない。


「説明もままならない中、戦闘を終えることができ安心しました。戦闘処理が終わりましたら改めて説明させていただきます」


 騎士団が倒された敵を捕獲していた。こちらは大きな損害は無いが、逃走した者や死んだ者もいて全員生きたまま捕えることはできなかったようだ。


 俺やタモツも手伝うことになった。


 するとその時、一頭の馬が駆け込んできた。

 人が乗っている。


「伝令です、至急ミネス様へ」


 敵襲かと思って身を構えたが違ったようだ。

 ナズマが用意してくれていた西か南の騎士団の者のようだ。


「ごくろうさま。それで至急の伝令ってなに?」


「はい、女王様から突然だが王女を集めた王女会議を行うため、すぐにナズマ隊長と戦闘が終わり次第、王都へ来るようにと。ガルメロにいる転生者も連れて来ることと聞いております」

 伝令はメルチェからの書状をミネスに渡した。

 それにしてもメルチェは伏兵のことや戦闘終了のタイミングも分かっていたのか。もしそうならまだメルチェには秘密がありそうだ。


「この書状は本物ね。分かったよ。すぐに馬車を用意して向かうね。タモツとタロウも付いてきて」

 シノブのことは転生者という認識がないから名前は呼ばれなかった。


 ナズマが戦後の処理の指示を出し、馬車の手配をしている。

 シノブはミネスに近付き他の者に聞かれないように転生者ということを打ち明けたようだ。遠くからでもミネスが驚いた顔が確認できた。


 俺はガルメロで芸術を学ぶ時間などなく王都へ戻されることになった。

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