71.対傭兵団
「ミネス様。魔法で騎士団を強化してください」
シノブは唐突にそう言った。
ミネスの魔法は強化魔法だったのか。
「私の魔法は歌が上手くなるだけだよ」
ミネスは否定する。
「違いますよね。本当のこと言ってください」
「でも……」
「後でミネス様にはちゃんと説明します。今は私を信じてください。ミネス様の魔法は歌を上手くするのではなくて、その人の持っている力を引き出すことができる魔法なですよね。普段は歌や踊りの稽古で補助的に使ってるだけですが、ご自身が魔法の歌うことによって望む相手を強化できるはずです」
全体強化魔法だった。
「でも、そんなことやったことないから……」
「それならガルメロの住民は傭兵団になす術もなく蹂躙されますよ。殺されないまでも奴隷のような生き方になるのです。それでもいいのですか? 私やタモツ、それにタロウは自分の力で逃げ切れるでしょう。でも、あなたが協力するなら私たちも戦います」
シノブが俺も戦うことにしていた。それはそのつもりだったが、タモツも何か戦闘魔法が使えるのだろうか?
「ミネス様、キッタカールでもプロントでも王女達が戦っている姿を俺は見てきました。ノエル様もモニカ様も民を守ってきました。まだ出会って間もない俺の言葉は信頼できないかもしれませんが、きっと力を合わせれば大丈夫ですよ!」
気休めくらいにしかならないかもしれないがミネスに俺はそう伝えた。
「分かったわ。やれるだけやってみるね。でも、私が"あいどる"の子達に使っていたのは本当に初歩の魔法だから、全体の、それも戦闘に使うとなると本格的にやらないといけないの。シノブが言う通り私自身が歌い続けることでそれはできるけど、そんなに長くできるかな。この魔道具と舞台装置で広範囲に歌を届けることはできると思うけど」
「今日、どれだけの歌を用意していたか分かりませんが、それが終わる前に片付けましょう。何なら一曲のうちに終わらせましょう!」
俺がミネスを励ますとヨーンが罵ってくる。
「そんなので勝てるわけないだろ。ガルメロの騎士団は精々楽隊を入れても百人。今回、傭兵団は約千人。十倍の人数相手に何ができる」
ヨーンの口調も悪役らしく変わっていた。
人数はそんなに大したこと無さそうだ。よほどの強敵でも現れなければ問題なく対処できそうだと思った。
「こいつが言うことは無視して対応の準備を進めましょう。歌ってる間は途中でちゃんと水を飲んでください。声が出なくなって魔法が発動しなくなったら困りますので」
シノブがいつの間にかこの戦闘の指揮官になっていた。
俺とタモツも出撃準備をする。
「タモツも戦闘できるのか?」
「拙者は戦闘経験はないでござるが女神様から身体強化魔法をもらったでござるよ。ミネス殿の魔法と合わせて最強の肉体で相手するでござる」
タモツの魔法もミネスと似たような感じの身体強化だった。どれくらい強くなるのだろうか。
「いざとなったら騎士団に守ってもらうでござるよ」
タモツとそんな会話をしていた時、ついに傭兵団が攻めてきたが予想していたものと少し様子が違った。
「おい、ヨーン! 聞いていた話と違うじゃねぇか。伏兵がいやがった。おかげで三分の二以上やられちまったよ!」
傭兵団の団長らしき男が叫びながら会場に入ってきた。
「なんだと?!」
ヨーンもその男の言葉に驚きを隠せていない。
「こうなったらこの会場の人質を盾に籠城戦だ!」
とその男は叫んだが会場の人質は既に解放済みだった。
「なんで誰も人質がいないんだよ?! ヨーン、貴様まさか俺たちをハメたのか?!」
男は相変わらず一人で叫んでいるがヨーンが捕まっているのを見て本当の事態を察したようだ。
「念の為に西と南の騎士団に今日に合わせて協力のお願いをしておいて良かったですよ」
ナズマはヨーンの動きが怪しいと思い増援を手配していたのだ。
「くそぉ、こうなったらここの騎士団だけでも全滅させてやる!」
確かに戦力差はある。まだ相手は三倍の人数がいる。
だが、こちらも奇襲に備えて準備していたのだ。負けるつもりもない。
「ミネス様、私も戦闘に出るので後はご自身の良き頃合いで歌い始めてください」
シノブはそう言うと戦場に駆け出して行った。




