巨大な手
クリスはブライとサラを呼び俺とノエルと移動をするこもを伝えた。
「焚き火の近くで少し休んでいてくれ。一応、最低限の警戒はお願いする」
少年兵二人は頷く。彼らもいずれは副隊長級というのになり加護とやらを受けるのだろうか。それともこの北の地に赴任させられる時点でその目は無いのか。そこら辺の事情は判断できないがクリスにしっかり従っているのは好感が持てる。
俺たち三人は馬車から少し離れた開けた場所に移動した。
開けた場所とは言ったが、抜けてきた森を背に進行方向に見える頂上も見えない高い山、あとはただ広い草原のようなものが広がっている。目の前に見える山のようなものは初めに見えた時は壁があるのかと思ってクリスに聞いたが山とのことだ。
その麓に目的地となる村があるとのことなのだが、その村へ続く道も全く整備されていない。恐らく馬車や人の往来があり草の生え方が少ない場所が道ということだが、これでは獣道も変わらない。
それと夜に開け過ぎているのも何か不気味な感じがして落ち着かない。焚き火から離れて少し目が効きにくいものあって慣れない場所で不安になっている。
焚き火から離れ過ぎるのも自分たちでは馬車に残っている彼らが心配だというクリスが判断し、目も効きつつそれぞれの安全も確保できるところまで来た。
ノエルが両手を下に広げる。
「巨人の手よ、我に力を」
ノエルの場合は呪文では無くて詠唱だった。
詠唱と同時に巨大な手がノエルの両側に現れた。
俺にははっきり見える。魔力を帯びているからか手自体が光っているから見えないわけがない。
クリスはどう見えているのだろう。
「クリスさんはこれがどう見えるのですか?」
「両側が何かぼんやり光っているようにしか見えない。タロウ殿はそう聞くということは手が見えているのか?」
「はい、はっきりと見えました」
その言葉に二人とも少し嬉しそうだ。
この世界の尺度は分からないがノエルの身長は150センチくらいか。
ノエルの両側の手は開いた状態でノエルと同じくらいだ。開いた状態で全長150センチの手がある。この存在だけでも驚異に感じるが女王たちはどんな判断で使えないと思ったのだろう。
「ノエル様、その手は自由に動かせますか? 今は開いた状態ですが拳を握ることはできますか?」
「できます」
そう言うとノエルは自分の手で拳を作る。連動して巨大な手を拳を作る。
これは召喚だけど手自身が意思を持っている訳ではなくてノエルの操作によって動くのだろうか。まだ判断は難しい。
「そのままノエル様に敵意がある輩が前にいると思って殴ってもらえますか?」
ノエルがパンチを繰り出す。しかし貧弱でヘロヘロなパンチだ。連動してるから巨大な手もヘロヘロしてる。ノエルが成長すれば凄い武器になりそうだが今の時点では攻撃力としては期待できそうにない。
「すみません、この巨大な手は触ってもよろしいでしょうか?」
質量があるのか確かめたい。
ノエルが恥ずかしそうに頬を染める。それを見てクリスが怒った顔をする。
「タロウ殿、手に触れるというのはノエル様に触れるということか」
クリスは鋭い。隠すものでもないので説明をする。
「ノエル様の能力は手を召喚して自分の動きと連動するものです。今まではちゃんと見えている人がいなかったので活用方法を考えたり教えたりすることがなかったのでしょう。今、殴る動作をしてもらったのは連動を確かめたかったからです。王女なので武術の訓練は不要だと思いますが、もし武術を覚えればそれだけでかなりの戦闘力になると思います。ただ、巨大な手に質量があるかどうか分からないとそれも的外れな意見になってしまうと思い触れてもいいか確認しました。触れるのはやはり難しいということであれば質量の有無と触った時に感触があるかを教えていただけませんか?」
この説明で納得してくれたようだが、ノエルが思案顔になってしまった。
「今までそんなことを考えたことがなかったので、上手く返事ができずに申し訳ありません」
そう言うとノエルは手を開き土を触る動作をした。しかし、ノエル自身は手を土に触れず巨大な手だけを土に触れさせようとしている。こちらの意図を汲んでくれた。ノエルは先ほどの説明もそうだがかなり賢い子だ。
クリスにはあまり見えていないようだが、巨大な手が地面に触れる。
「上手く言えませんが土に触った感覚は伝わってきます。ただ、直接私が触れた時とは違う感覚で上手に表現できなくて申し訳ありません。タロウ様がおっしゃる質量というのが分からないのですが、やはりタロウ様に触れて確認していただきたいです」
ノエルがそう言うならクリスは止めないだろう。
「それでは失礼します」
一言断りを入れてから巨大な手に触らせてもらう。手を伸ばすと触れることができた。確かにそこに何かがあることは感じる。これは魔力があって見ることができているから感じられるのか。俺以外の人にも確かめてもらいたいがクリスは魔力持ちだし、恐らくノエルに遠慮をして触れないだろう。しかし、それ以外の人間だと見ることもできないから触れるのも難しいかもしれない。
地面を触れたり、こちらが触れると質量を感じるということはこの手は何かを持ったりすることもできるようのはないか?
「ノエル様、この手で何か物を持ったりして作業をしたことはありますか?」
「王女がそのようなことをするはずなかろう」
これはクリス。即座に否定するが、そういう意味で聞いたわけではない。
「いえ、この手は大きいだけではしたないから無闇に出さないように、と王女様から言いつけられまして発現した時に出して以来、何もしておりません。ですので、この手を使って何かをするというようなことは今までありませんでした」
ノエルには意図はしっかり伝わっていた。やはり賢い。
「でしたら試しに穴を掘っていただけませんか?」
クリスが何か言いたそうにするが、ノエルはそれを制するようにすぐに返事をしてくれた。クリスは王女に穴を掘らずなど言語道断とでも言いたかったのだろう。
「分かりました。やってみます」
ノエルは自身の手で穴を掘るような動作を行う。連動して巨大な手も穴を掘る動きをする。指の先が地面に突き刺さり、そのまま土を掻き上げる。
魔力がないものには巨大な手が見えないため、急に地面から土が空中に浮かんだような奇妙な現象を目撃する形になる。
この手の動きはまるで現代のショベルカーのようだった。先ほどのノエルの説明を聞くと王女たちの能力は元の世界の科学技術でできることを与えられたような印象を受けた。ノエルの魔法もこういう土木関連の活用が目的なのではないだろうか。そして、王女たちはそれを判断できなかった。
あとはノエルが武術を覚えたら戦闘力にもなる。
これは使い方によってはこの世界で脅威になりそうだ。
「あの、そろそろよろしいでしょうか?」
ノエルが手を掬った形で土を持ったまま止まっている。クリスは俺を睨んでいる。
「申し訳ありません、もう大丈夫です。ありがとうございました」
ノエルがゆっくりと手を離し土を元の形に埋めて整地までする。
「まだ不確かな部分はあるのですが、ノエル様の能力は様々な可能性があると思います」
俺の言葉でノエルとクリスの顔が明るくなった。




