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67.アイドルとオタク

「お、お主は!?」

 タモツが俺の元の世界の名前を言いそうになったので、俺は慌てて名乗った。


「久し振り、タモツ。今はこっちの世界ではタロウって名乗ってるんだ。まさかこっちの世界で会うなんて驚きだよ」


「拙者もでござるよ。まさかお主がいるとは。それにしてもタロウとは……ハンドルネームみたいなものでござるな」


「色々、あってこう名乗ってそのままで一年過ごしちゃったよ。俺は交通事故で死んじゃってこっちの世界に来たんだけど、タモツはどうしたんだい?」


「拙者は工事現場での事故だったでござるよ。ガスでやられてしまったのでござるよ。それにしても半年くらい早くこちらへ来ていたのでござったな。SNSの更新も無くて、アイドルの現場にも来なかったからどうしたかと思っていたら、そういう事情だったでござるな」


 そういえばSNS……死んでしまったからそのままなんだな。タモツとは元の世界で共通のグループを推しているうちに色んなライブで会うようになって仲良くなって、ライブ後とかもオタク仲間の飲み会に行ったりしていた仲だった。

 俺は地方在住でタモツは首都圏在住だったから、会う回数はそんなに多くなかったが仲良くしていたと俺は思っている。

 そんなタモツとこちらの世界で再会するとは思ってもいなかった。


「女王様が言っていた転生者、あなたがタロウなの? 思ったよりおじさんなのね。それにしてもタモツと知り合いとは驚きだわ」

 もう一人いた女の子が言った。


 国民的アイドルグループのメンバーだったニンちゃんがそこにいた。

 暗めの茶髪のショートカット、目は大きく顔は整っている。身長は成人女性の平均くらい。俺とタモツの推しグループとは違うが日本国民が誰でも知ってるような大きなグループのメンバーだった。


 俺が事故に遭う少し前にストーカー化したファンに刺されて亡くなった。当時、ショッキングな事件だったことからテレビや新聞はもちろんネットニュースでも大きく取り上げられので、この事件のことを知らない人の方が少ないくらいだろう。


「本物のニンちゃんなの?」

 俺が間抜けな感じで聞く。


「そうよ。本物のニンよ。今は本名のシノブを名乗ってるけど。忍者の忍って書いてシノブなの。芸名はそこから取ってたのよ。それにしてもアイドルオタクがこっちで再会するなんてどうなってるのよ、ほんと」


 俺のことをメルチェから聞いていたと言っていたから、まさかとは思ったがニンちゃんがシノブだったとは……こちらも衝撃だった。


「こちらの世界ではあなたがタロウって名乗ってるように私のことはシノブって呼んでよね」

 アイドルを本名で呼ぶ方が変な緊張があるのだが、本人がそう言うなら慣れるしかない。


「それとタモツって元の世界でもこんな話し方だったわけ?」


「そうだよ」

 タモツは高校まではサッカー部に所属して全国大会にも行ったけど、大学で首都圏に出てからアイドルにハマってオタクになっていったと言っていた。体型も今では丸々しているが、よく動けるデブだって自分で言ってオタ芸をやっていたのを思い出した。


「こっちの世界でキャラ作ってるわけじゃないのね」

 シノブは少し呆れているようだ。


「拙者の話し方のことはどうでもいいでござる。それより今この国で起きていることをタロウ殿に伝えて仲間になってもらうでござる」


 タモツはシノブの話し方のことはどうでもいいとばかりに入ってきた。

 この国で起きていることってアイドルプロデュースのことだろうか?

 それなら俺も少しは何か役に立てるかもしれない。

 それに元国民的アイドルがいるなら心強い。


「アイドルのプロデュースの話? それなら俺も興味が……」


「違うわよ。もっと深刻なのよ」


「いやいや、タロウ殿は何も知らないので仕方ないでござるよ。実はアイドルプロデュースは拙者がこの国で起きそうなクーデターを止めるためにやったでござるが、そろそろそれも限界でござる」


「そう、私もタモツもこの国で起きるかもしらないクーデターを止めるために動いているのよ。女王様から何も聞いてないわけ?」


 タモツとシノブの話に俺の頭の理解は全く追いついていなかった。

 アイドルプロデュースとクーデターがどう繋がるのか? さっぱり分からない。

 それとメルチェは毎回説明が足りない。ある程度、シノブから情報が来ていたなら教えて欲しかった。


 ただ、ガルメロは何やら思ったより深刻な事態になっているようだ。

 これでは芸術の視察どころではなさそうだ。

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