63.勇者と調停者
その夜、キョウヤは俺の家に泊まることになった。
「この村、風呂があるなんて最高やな」
キョウヤは満足そうにしていた。
「それにしても北は何もないって聞いたったのに案外発展してるもんやの。これもタロウのおかげなんか?」
「いや、俺は何もやってないよ。ノエル様の頑張りを手伝っているだけさ」
「そんなもんかいな。まぁ、ええわ。それで、そのタロウって名前は本名なんか? 元の世界にそんな名前、なかなかおらんやろ」
キョウヤは転生者だけあって名前は気になるらしい。それはそうだろう。俺は素直に話すことにした。
「名前を聞かれた時、咄嗟にこの名前を名乗ってしまってそれからこのままなんだ。特にこの世界で困ることはないし、こうやって転生者に合わない限り疑問も持たれないだろうし」
「まぁ、でもいい判断だったかもしれん。どんな魔法があるか分からんし、困らないなら名前を隠しておいてええんちゃうか」
「そう言ってくれると少し気持ちが楽になるよ」
「それでタロウはどうして死んでしまったんや?」
「推しのライブの途中で事故に遭いそうになった親子を庇って、それで死んだようなんだ」
「そうなんや。それは立派や。ワイは喧嘩や」
キョウヤはそう言う。やっぱりチンピラか何かだったのだろうか?
「その顔はいらんこと想像してるやろ。違うで逆や逆」
「逆?」
「そうや、喧嘩を止める側や。ワイは警察官でな。と言っても刑事とかではない交番勤めのお巡りさんやったんや。それで繁華街で喧嘩をしてる通報を受け行ったら巻き込まれて刺されてな、それで二階級特進」
二階級特進。刑事ドラマとかでよく聞く言葉だった。
「それでな、えらい胸の大きいグラマラスな女神様が現れて転生しろって言うんや。漫画とかあまり読まないさかい、何を言ってるのよう分からんかったが、生まれ変わって人の役に立てって言われて、それなら悪い奴をたくさん倒したい、って言ってこの世界に飛ばされてん。もう三年以上になるからだいぶこの世界の生活にも慣れたで」
やはり女神はその相手の好みの姿に変わっていることを確信した。
「それで魔獣や魔人を刈りまくってるんや。魔人は手強い。この顔の傷はな、まだ経験が浅い頃に魔人に付けられたんや。そいつは子供の姿をしていて甘く見ていた。せやからどんな魔人でも今日みたいに不意打ちできたら万々歳や。魔獣は肉や皮が素材になるが、魔人はこうやってコインになる。魔人貨ってこの世界では呼ばれてるんや」
顔の傷は魔人に付けられたものなのか。
「魔人貨?」
キョウヤから色んな情報が一気に入ってきて頭が追いつかない。
「せや。魔人は人型やろ。素材にもしにくいし、食べるのも勘弁して欲しい。そう思っていたら倒すと魔人はコインになるんやな。これは物凄い価値がある。というかこの世界にはコレクターが何人もおる。一枚売れば一年くらいは何もしなくても暮らせるで。これでワイは世界各地に拠点になる家を買って転々としてるんや。まぁ、キッタカールはこの家があるから家はいらんけどな」
別に構わないがこっちの方面へ来る時はこの家に泊まるつもりらしい。
「それにしてもそんなに世界各地を移動できるの凄いな」
「まぁ、タロウには言うけど狩りがしやすいように瞬間移動の魔法を付けてもらったんや。行ったことがある場所、地図を見てイメージができる場所、とか色々条件はあるんやけどこれで魔獣や魔人狩りを続けとる。そんなことしたったら狩人って二つ名が付いてしもうた。本当の魔法とは印象が違うからあまり気に入ってないんやけどな」
「本当の魔法?」
「そうや。まぁ、これは企業秘密ってことで堪忍や」
キョウヤの本当の魔法は気になるが、奥の手は隠しておいた方がいいのはその通りだ。
「二つ名といえば、もう一つ教えておいてやろ」
「勇者と調停者」
「せや! まぁ、この世界に来て半年以上いたら嫌でも名前くらいは聞くわな」
三大転生者。魔王を討伐、もしくは休戦に持ち込んだ二人や。
「勇者ジュリ、調停者カエデ。どや?」
キョウヤが挙げた名前は女性に聞こえる。
「それってまさか……」
「そのまさかや。二人とも女や」
想像もしていなかった。てっきり元々の先入観と今日、キョウヤに出会ったことで男のイメージが付いていたから驚きだった。
「まぁ、その驚く顔が見たかったんや」
キョウヤはサプライズが成功したのが嬉しかったのか、大笑いした。
「やっぱり何事も先入観はよくないことが分かったよ」
「せやで。その通りや。もしかしたらワイも女かもしれん」
俺はキョウヤの言葉を流した。
「そこはなんでやねん! って突っ込まないとダメやろ。まぁ、でもタロウの言う通り先入観はよくない。その二人には何回も会ったわけじゃないから分からないことだらけやがジュリは恐らくワイなんかより数段強いで」
キョウヤの強さも一瞬だからよく分からなかったが恐らくあの禍々しい魔人を一瞬で倒したなら相当な腕があるはずだ。そのキョウヤが自分より強いというジュリは化物に違いない。
「そろそろ話過ぎたし眠たくなってきたわ」
キョウヤのおかけで色んな情報が入った。
「ありがとう。知らないことだらけだったから助かったよ」
「同じ転生者同士仲良くしようや。最後にもう一つ聞いていいか?」
「なんだい?」
「タロウはここでチビッコハーレムでも作るつもりなんか。ノエル、モニカ、それにピラクか。こっちの世界でも十五歳なんて犯罪じゃないかのぉ。お巡りさん、逮捕せんとあかんなぁ」
「そんなわけあるか」
キョウヤは元警察官ということだ。逮捕という単語がリアルに聞こえるから勘弁して欲しい。
「からかってすまん。本当は別のことが聞きたい。タロウは次に大きな事件が起きるならどこやと思う? プロント、キッタカールとこの国にほとんど出現してこなかった大型魔獣や魔人が立て続けに現れて始めた。一度、現れたとこが絶対に安全とは言えんが、ワイの経験からすると連続はないはずや。でも、まだこれは続く気がする」
俺はキョウヤの言葉に少し考えた。俺の知識でそんなに思い付くところは無い。
「あまりキッタカール以外の知識がないから確信はない。だが、どうしてもキョウヤが一つ挙げろというなら考えた場所はある」
「ほう、どこや?」
「南西領」
「そう考える理由は?」
「俺みたいなまだ知られていない転生者がいる」
「せや、ワイもそう思う。タロウもワイが持ってる情報と似たようなもんやな。だが、転生者は一人じゃなくて二人、もしくはそれ以上南西にいると踏んでいる」
キョウヤの言葉に俺はまた驚いた。この世界に来て一年弱、それにキッタカールからほとんど出ていない俺と三年以上世界を駆け回っているキョウヤの知識、情報、経験では差があるのは仕方ない。これはキョウヤの言ってることがきっと正しいのだろう。
「だから、ワイは南西の方の拠点を中心に動くつもりや。しかし、他の奴の手に負えそうな魔獣や魔人が現れたらそっちを対処せんといかん。そこでタロウにも協力して欲しい」
「でも、女王様からの指令もあるし俺はここから離れるのは難しい」
「分かっとる。もし可能ならでいいけど頭に入れておいてくれや。ほな、そろそろ本当に眠くなってきたわ。おやすみ」
キョウヤはそう言うとすぐにイビキをかいて寝始めた。世界各地で危険な戦闘をしているキョウヤは休める時は休む精神なのか、寝付きの悪い俺としてはすぐに眠れるのは羨ましい。
キョウヤは魔人退治だけでなく、色んな情報を教えてくれた。
南西で事件が起きる可能性があるとキョウヤは言っていた。芸術の都でアイドルプロデュースをしている王女のことは気になるが、俺がそこへ行ってできることはないだろう。
俺は少し残念に思いながら眠りに就いた。




