6.王女たちの運命
「私たちゴルド王国には八人の王女がいます。これは何世代も変わりません。また私たちが運命を終えることが決まった時に八人の王女が誕生します。これはこの国のある意味では呪いのようなものなのです」
ノエルの話は最初から重かった。そもそも八人の王女が何世代も続くっていうのは奇妙な話だ。
それとは別にこの世界に方向の概念があることを確認できたのは収穫だ。
「ゴルド王国は東西南北、それとその間の四方向にそれぞれ拠点となる領があり王女たちは15歳になるとそのいずれかの領主になるのです。王女たちは国を豊かにする魔法を持って生まれ、それぞれの領を与えられます。それは幼少の頃に発現した魔法によって女王がそれぞれ派遣先を決めます。まず有益と判断された三名が東西南と振り分けられ、次の四人は間の領地へ振り分けられます。一番有益ではないと女王に判断されたものがこの北の地へ派遣されます」
ノエルはそう言った。そしてそれは自分自身が八人の中で一番劣っていたと認めることだ。15歳になったら派遣ということは少年兵たちより幼い。しかしこの年齢でこんなにも辛いことを背負わないといけないと思うとやるせない。俺が15歳の頃なんて日本のどこにでもいるクソガキだったのに。
「そして八人の王女のうち、最も領地を発展させたと女王に判断されたものが次の女王になります。女王になったものは婿を取りそのものが国王になります。国王は女王だけでなく他の王女だったものとも子作りを行い八人は身籠らせないといけません。そして産まれくる八人は必ず女の子であり、同じ運命を繰り返します」
「ノエル様……そこまで言わずとも」
さすがにクリスが止める。
「いえ、タロウ様には共に行動してもらうなら秘密は無しにした方がいいと思いました」
予想以上に重たい。それに必ず女の子が産まれてくるなんて運命というよりこの国に課せられた呪いに聞こえる。
ノエルが続ける。
「王女たちは八人の女の子が産まれたらやっと運命から解放されて自由な身になるのです。ほとんどは領地で次の王女が来るまで待ち引き継ぎをします。その後は王都に戻ったり、そのまま領地に残り次世代を教育します。ただ、この地に来たものは役目を終えると全員がすぐにこの地を去り行方が分からなくなってしまいます。どうしても一番使えないと判断され、この地に来たものの何もできず無念のまま行くあてもなくなってしまうのでしょう。私も頑張りますが何ができるのか分からず不安のまま今日まで来てしまいました」
ノエルがそう言うと、クリスは下を向いてしまった。泣くのを我慢しているようだ。
「ちなみに先ほど出てきた国を豊かにする魔法というのはどのようなものがあるのですか?」
「それぞれ固有の能力で似たようなものが多いのですが、土壌や水資源を豊かにする自然由来のものや、作物の育成を促進するもの、あとは保存が効きにくいものを保存するなど、そういう類になります」
確かに便利そうだが現代だと文明の発展で何とかなっているものが、この世界だと暮らしを豊かにするということで重宝されるのだろう。
「失礼を承知で教えていただきたいのですが、ノエル様の魔法はどのようなものなのでしょうか?」
クリスが少し怒ったような顔でこちらを見た気がする。
「巨大な手を召喚します」
手の召喚?
手だけ?
「手の召喚?」
思わず聞き返してしまった。クリスに斬られてもおかしくない。
「はい、とても大きな手を召喚します。お姉様たちの中にも召喚魔法で巨大な鳥を召喚して空を飛んだり、高速で移動できる馬を召喚して伝達を早くしたりする方もいるのですが、私は手だけです。しかも魔力が低いせいなのか魔力のない方には認識をしてもらえなくて。女王様やお姉様たちは認識できるのですが、他のものには認識してもらえず使い方の指南もしていただけずに使えない能力と判断された次第です」
馬や鳥も現代の乗り物で対応できそうだけど、ほとんどの人には見えない手はこの世界では使えそうな気がするがやはり見えないと活用方法がイメージしにくいのだろうか。
「ちなみに私もほとんど見えない」
「ほとんど?」
クリスさんの言葉に反応する。
「私たち騎士団は王都を護る一番隊として、それと八領土を護る八つの部隊、全部で九つの部隊で構成されている。そして私はこの北の部隊の隊長を任されている。八つの部隊の隊長は騎士団の副団長なのだが、副団長になると王女の加護が与えられ後天的に少しの魔力を得て、一つだけ魔法が使えるようになる。身体能力の上昇だったり、必殺技、もしくは部隊のための回復魔法。選択は自由だ。ただ、与えられた魔力ではノエル様の手はかすかにしか見えないのだ」
クリスは自分の得た魔法は言う気がないようだ。俺も今はそこには興味がない。
それより気になるのはクリスは隊長ということ、それと王女の序列で言うと北の部隊は一番格下。それであの強さはこの国の騎士団は相当強いのではないか。
「タロウ殿、この国の騎士団も色々ある。強さだけで部隊の配置が決まるわけではない。それに私の部下は今はあの二人だけだ。その彼らもこの地に残して私は王都への帰還命令が出ている。察してくれ」
「クリス……」
今度はノエルが気を違う番になってしまった。
平和な世界だと期待していたのに魔王の存在があったり、王国は呪いとしか思えないような運命があったり、その王国の中でも政治的駆け引きがあったりして、かなり大変な場所だと思った方が良さそうだ。
「もう一つ失礼なことをお願いするのですが、ノエル様の巨大な手の魔法を見せていただけませんが? 転生したばかりで分からないことばかりですが、俺は魔法剣士で魔力もあるはずなので、恐らくその手を見ることができると思いますよ。使い方を教えられるとまでは言えませんが何か活用する道を一緒に考えることくらいはできるかもしれません」
クリスは魔法の開示には反対の立場なのだろう。少し困った表情になったように見える。
それでもノエルはやると決めたようだ。
「ここでは火元も近くて危ないのと、何があるか分からないので少し広いところへ移動しましょう」
そう言ってノエルは立ち上がった。




