58.腕輪
湖へ王女達と行ったその夜、クリスとローシャが俺の家に集まっていた。
何の話かは想像ができる。
なぜ、ローシャが北の隊に編入されたかだろう。
「タロウ殿、事情を話してくれないか」
クリスが話を切り出した。
「血は繋がっていなくても親子は一緒に過ごす方がいいかと思いまして。ティキットも目が見えなくて捨てられそうになっているところを助けられたわけですし、リリが許すならその方がいいと思いました」
俺の説明にクリスは納得していない。当然だろう。
「タロウ殿の話は筋は通っている。だが、誘拐までした男をこうも簡単に許していいのか。それとどうにも辻褄が合わない。何故、王都に来ていないタロウ殿が女王様と意思の疎通ができているのか」
ローシャもこの話いるのだが、クリスは直接的な言い方をする。それに女王様と連絡が取れていることを不思議にも思っている。電話もパソコンも無い世界だ。事件後に王都へ行ってない俺のことを怪しむのも当然だ。
言える範囲で正直に伝えよう。
「実はクリスさんの言う通り女王とは魔法で連絡を取り合ってます。詳細な方法は教えられない約束なのですみません。ローシャさんのことはそこで報告して、今後のことを相談しました」
「なるほど……女王様と連絡を取り合っているのは分かった。通信方法は聞かずにおこう。女王様には王女様達や我々騎士団にも知らない王家だけが使える魔道具もあると聞く。何があってもおかしくない」
「それなら僕に渡されたこの腕輪も王家の魔道具なんだろうね」
クリスの言葉にローシャが反応した。
「その腕輪はなんだ?」
「僕は罪を犯したのだから、副団長になったものに与えられる魔力は女王様によって剥奪されたよ。当たり前の話だ。そのまま投獄、最悪死罪になることも考えた。だが、予想外のことが起きたよ」
ローシャはそこで間を置いたが、俺もクリスも黙って先を促す。
「その後、女王様が『この者と二人にしてくれ。もう魔力はない。自分の身くらい守れる』って言ってさ。周りの家臣は渋ってたが、結局王女と二人きり。そこでこの腕輪を渡されて。何て言われたと思う」
「王家の魔道具のことなど分かるわけないだろう」
「僕だってそうさ。それに罪人になった僕が女王様と二人きりになるなんて考えてもいなかったよ。『この腕輪にはお前から取り上げた魔力を移した。いざという危機が訪れたらこの腕輪へ願え。短期間ならお前の魔力は復活する』。そう言われてこの腕輪を渡されたのさ」
「なっ?!」
クリスが驚きの声をあげている。俺もそれは聞いていなかった。
「さすがに投獄されると思っていたから女王様の言うことも危機も分からなかったけど、『無罪放免にするために二つ条件がある。その腕輪を持って北の騎士団に編入してもう一度国に尽くせ。もう一つはお前が集めた古文書はすべて私に渡せ』。こう言われても今でも意味が分からないままだけど逆らう選択肢なんて無かったし、ティキットと暮らせるならと承諾したんだよ」
ローシャはそう説明した。
「タロウ殿はどこまで関わっていたのか?」
クリスが少し強めに俺に質問してくる。
「女王様の目的を知っているので、古文書と引き換えにローシャとティキットを一緒に暮らせるようにして欲しいってお願いはしました。でも、腕輪の件は聞いていません。それと、申し訳ないのですが女王様の目的は聞かないでください」
「本当は私の隊の話だ。もっと詳しく教えてもらいたい。しかし、女王様に何かお考えがおありなら今は耐えるとしよう」
「女王様も全部終わったらノエル様にはきちんと説明すると言ってましたから」
「わかった。この件はここまでにしよう」
俺の言葉にクリスは渋々だが納得してくれた。
この日はこれで解散になった。
翌日、リエスはリリとティキットと森の生物や虫、植物の意見交換をしたようだ。専門分野が近いもの同士、話が弾んだらしい。三人とも楽しかったのが顔に出ていた。
「そろそろお別れね。三人とも元気でね。またお話しましょう」
ノエルが見送りの挨拶をする。
「今度は逆に南まで来なさいよね。タロウも連れて。色々、楽しませてあげるわ」
これはピラクだ。この世界の娯楽は気になる。
「あの……リエスのとこは……その……ピラクちゃんのとこのように娯楽はないけどね……森の中で癒されることはできると思うの……」
これはリエス。リエスが言うと本当に癒されそうだ。
「うちは今は復興中じゃが、特別にタロウはうちが朝から夜まで相手してやるのじゃ」
これはモニカ。言い方がちょっとあれでノエルは何か言いたそうにしている。
そろそろ三人が帰る時間だ。モニカはハーピーに空路で送ってもらう。ピラクとリエスは湖から水路で移動だ。
まだ元気に会える日が来るといい。
だが、ゴブリンの骨笛がここで鳴った。
プワンの初来訪時以来の骨笛だ。
しかも、長い笛の音が繰り返し吹かれる。これは特別な緊急事態の合図だ。戦える者は全員、村の門の前へ集まることになっている。
嫌な予感がする。
俺は門へ向かった。




