55.編入試験
模擬戦はクリスが審判をすることとなった。
「身内だからって贔屓しないで公平な審判をしてくださいね」
「心配するな。私がそんなことをするように見えるか?」
プロシパの問いかけにクリスが答える。クリスは自分にも他人にも厳しい。だからこそ、こういう時に絶対に贔屓はしない。
「本当は私専用の特殊な武器があって実戦ではそれを使うんだけど……模擬戦だと無いから木刀でいいかな。使用人さんはどうするの?」
「私は武術家なので武器は使いません。素手で大丈夫です」
「ふーん、騎士団の武闘会でも素手は有りだしそれでもいいけど。でも、それを負けた時の言い訳にはしないでね」
プロシパとポワンのやり取りはプロシパの挑発で終わったが、ポワンは全く気にしていないようだ。
「ブライ、あの子はどれくらい強いの?」
「うーん、俺たちの世代なら俺とサラの次くらいには強いんじゃないっすかね。でも武闘会は全部ズル休みしてたので実力はよく分からないっすよ」
ブライの答えに俺は少し戸惑っていた。ブライがそういうなら隠れた実力があってポワンより強いかもしれないのだ。
「まぁ、でもポワンさんの相手じゃないっすよ」
ブライはそんなことを呟いた。
「それでは試合、はじめ!」
クリスが開始の合図をする。真剣な模擬戦を久し振りに見ると秋のはじめのノエルとプワンの試合を思い出す。
プロシパは開始の合図と同時に後ろに下がって間合いを取った。それはバックステップから勢いを付けて突進する構えだった。速度と勢いはありそうだが、それだけではポワンには通用しないだろう。
俺がそんなことを考えていたらステップを踏みを直角に曲がった。戦いに慣れていない者だと、正面にいたら消えたように見えて戸惑うかもしれない。自分なら恐らくそうなり混乱していそうだ。
しかし、気の流れが読めるポワンにそれは通用しない。
「あいつはああいう変わった動きをする戦い方をするんですが、ポワンさんには通用しないっすよね」
ブライの言う通りだ。
プロシパは正面から少し逸れた方向から突きを繰り出すが、ポワンは軽く身をかわした。
プロシパは渾身の突きを決めるつもりだったが、外れてしまい中空で体勢を崩している。ポワンも避けた時にバランスを崩したようだが、そのままバク転しその勢いでプロシパを蹴り上げた。これは手加減していたとしてもかなり痛いはずだ。
たまらずプロシパは声にもならない悲鳴をあげて木刀を手放す。
「勝負あり!」
クリスが決着の判定をした。
「あの、多分武器が合わなくて、彼女はいつもの動きができていなかったのかもしれないです」
ポワンはクリスにそう言うがそれは死体蹴りなのでプロシパが可哀想だ。
「あんた、全然ダメじゃないの」
ピラクがプロシパに駆け寄り追い討ちをする。
「えーん、だってこの使用人、全然強いんだもの。ただの使用人があの突きを初めて見るのに避けられるとは思わないじゃない」
プロシパは泣いていた。
「相手を見た目だけで判断する時点でダメなのだ。ポワンは屋敷で働きながらもノエル様の護衛もしているのだ。私だけでなく先ほどお前が声をかけたズザ、それに今日からお前と北の騎士団に編入するローシャと同じくらいの実力がある」
「そんな隊長級が四人もいるなら、ここでこれ以上訓練する必要なんてないじゃないですか?! 東領よりも戦力が充実してますよ。なんなんですか、ここは」
「そうかもしれないが、お父上はそういう厳しい環境でお前に成長して欲しいと願っているのではないか」
クリスがいい感じにまとめようとしているが、プロシパの父親はさっきの王女達の会話を聞くとそんなこと考えて無さそうな印象なんだよな。
「もうわかりましたよ。ここで強くなって馬鹿親父を見返します」
プロシパはそう言ってブライとサラのところへ寄ってきた。
「よろしくね、筋肉馬鹿と無愛想さん。私はここで修行して次世代の隊長になるんだから。足引っ張らないでよね」
「あぁ、よろしくな。北の隊ではお前が一番弱いけどな。頑張れよ」
ブライもプロシパに言い合いで負けていない。
「あー、はいはい! 試合は終わりでいいのかしら? そこの冴えないおじさん。あなたが公衆浴場の管理人でいいのかしら? 馬車での長旅で疲れているの。もう用事は済んだのだしお風呂の準備はできてるのかしら?」
ピラクは俺にそう言った。
「はい、ノエル様がお戻りになるとのことでお湯は準備してあります」
「ねぇ、ピラク。タロウ様にそんな言い方は失礼ですよ。せっかく私たちのために準備をしてくれていたのだからもっと丁寧に接してくれないと」
別に他の王女のために用意していたわけではないのでノエルがそうやって庇ってくれのは嬉しい。
「ふん。まぁ、いいわ。公衆浴場ならみんな一緒に入れるのでしょ。ノエルだけじゃなくてリエスとモニカと付き合いなさい。あと、あんた達も汚れたんだから入りなさいよ」
ポワンとプロシパにも声をかけた。ピラクはこういう気遣いはできるようだ。
「それならプワンも一緒に入りましょう。リリとティケットも。あと、モニカは混浴とか言わないように」
ノエルがモニカに釘を刺していた。
「まだ言ってないのじゃ」
モニカがノエルの言葉に反発していた。
「ふーん、あなたが転生者でノエルとモニカのお気に入りなの? 風呂の管理してるだけの冴えないおじさんにしか見えないんだけど」
リエスが絡んできた。
「こら、リエス。タロウはうちの命の恩人なのじゃ。そんな風に言うなら許さないのじゃ」
モニカはプロントでの飛行魔獣のことは本当に感謝してくれているようだ。
「そんなに怒らないでよ。ごめんなさいね。まぁ、モニカ達が誰を好きになろうと女王にはならなさそうだし」
リエスは俺が国王になるようなことはないと言っているが、こんなおっさんと子作りしたくないだろう。心配しなくても俺は国王にはならない。
「リエスはタロウの魅力が分からないだけじゃが、うちの恋敵にならなそうで安心じゃ」
モニカはいつもの感じのままだった。
騒がしいまま王女たちは公衆浴場へ向かっていった。
さすがに貸切にしないとまずいと思い他の客を断るために急いで後を追った。




