54.使用人さん
「私だって馬鹿親父が急に『もう僕じゃ面倒見切れない。北で修行でもしてきて』なんて言い出すと思わないじゃない。南で楽して暮らしたいわよ」
プロシパは本音が漏れていた。
「あのね、私だって幼馴染だから庇ってあげたかったわよ。でも、いつもお調子者のあんたのお父さんがあんな感じで言ったら断れるわけないじゃない。それに『僕は懇親会で疲れちゃったから北へはリエスちゃん、娘を連れて行って説明してきてね』って言って本当にあなたのこと置いて帰っちゃうし、何なのよ。私のこと小さい頃から知っているからって王女として私のこと見てないんじゃないの? もう本当に怒れて私だけで行くのは嫌だったからモニカとリエスを連れてきたのよ」
ピラクの怒りが伝わる。それにしても南の隊長はそんな感じで大丈夫なのだろうか。だが、南に赴任しているくらいだから相当の実力者なのだろう。
「馬鹿親父のことは本当にごめん。ピラクにも他の王女様にも謝るわ。ごめんなさい」
プロシパがノエル達にも頭を下げた。
「いえ、大丈夫ですよ。ピラクもプロシパ、二人とも大変そうですね」
ノエルもどう答えるのが正解か分からず少し困惑しているようだ。
「ねぇ、クリス隊長。馬鹿親父は私が訓練をサボってるのに怒って北へ行くように言ったのよね。それなら訓練が必要ないくらい強いってクリス体調が認めたら南に帰ってもいいですか?」
「お前のお父上は馬鹿親父ではない。今回のことも騎士団に残りたいなら鍛錬を怠らないようにという親心からでしょう。だが、プロシパの言うことも一理ある。そうだな、この村の戦闘要員に模擬戦で勝てたら私が認めたと書状を持たせてやろう」
プロシパの言葉にクリスは答えた。この村の戦闘要員って猛者しかいないけど大丈夫なのか。クリスは恐らく彼女を南へ帰すつもりは無さそうだ。
「ふーん、クリス隊長は話が分かって助かりますよ」
プロシパがこう言うと俺達はみんなで村の訓練場へ向かった。
訓練場は屋外のままだが、併設する子供達への学校は青空教室からちゃんとした建物ができて学校になっていた。学校というほど立派ではなく、実際は学習塾くらいの感じだ。
黒板とかはないので机と椅子に座りながら口頭での学習をしているが村の子供達は楽しく学んでいると聞いている。ジョルジュやエミルが国の歴史を教えたり、ズザは数字の簡単な勉強を教えてくれている。外での鍛錬は約束通りプワンが見ている。プワンはこれを機会に学校に部屋を作ってもらって屋敷から引っ越していた。
「ここに来ている相手なら誰でもいいんですか?」
プロシパがクリスに聞く。
「誰でも大丈夫だ」
クリスが答える。
俺、ブライ、サラ、ズザ、ポワンにプワン、それとローシャもいる。ジョルジュは流石に来なかった。俺を選ばなければ誰でもいい勝負をしてクリスの狙い通りになるだろう。
あと、ノエルとモニカもやる気満々な顔をしているが、あなた達は王女なので選ばれないでしょうに。そもそもノエルはともかくモニカはこの村の人間ですらないのだが。
「筋肉馬鹿と無愛想女はみんなの前で負けたら今後この村で恥ずかしいかもしれないからやめといてあげるね」
筋肉馬鹿はブライ、無愛想女はサラ。誰を指しているか分かるのだけど、あまり悪い言葉を使うと自分が負けた時に余計に惨めになるからやめた方がいい。
「うーん、この大きい人に相手してもらおうかな」
プロシパがズザの前に立った。
「ズザは元武装商団だ。その男に勝てるならもう一人前だ。南に帰るに値する。ズザ、お前は私と互角にやり合ったのだ。手を抜いたら分かるぞ。やるなら全力でやるように」
クリスはズザの正体を伝えた上でズザにも発破をかけた。確かにズザは優しさを見せて負ける可能性があったがクリスはそれも先手を打って潰した。案外、しっかり勝負になるように考えているのかもしれない。
「うっ、それは手強そうね……」
プロシパはそう言うと退いた。
ノエルとモニカは相変わらず後ろで自分が選ばれるのではないかと期待した顔をしているが、あなた達が選ばれることはないから静かに見学していてください。
「それならそこの使用人でもいいわけ。戦闘要員には見えないけど」
プロシパはポワンを指差してクリスに聞いた。
「ポワンはノエル様の護衛だ。立派なこの村の戦闘要員だ」
クリスが答えた。この答えはプロシパには不公平ではないかと感じる。
「私、騎士団の人との模擬戦なんて無理ですよ。しかも重要なものまで賭けていて……負けたら私が追い出されるんですかぁ?」
ポワンが不安そうにクリスに問いかける。
「大丈夫だ、ポワン。負けても村から追い出されることはいない。それにお前は強い、心配するな!」
クリスがまるで部下のように発破をかけた。
俺はズザと同じくらい強いと言われるポワンの戦闘の実力は初めて見る。どれくらいの強さなのか。
「大丈夫だよ、使用人さん。模擬戦だから手加減するし、少し痛いかもしれないけど、すぐ終わらせるから」
プロシパも自身満々だ。だけど、残念ながら彼女が負ける展開なのでどれくらいプロシパが耐えられるか、どんな戦闘スタイルなのか、ということにしか興味が湧かなかった。




