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50.虫使い

 帰ってきた夜は無理してでも俺は公衆浴場を開けた。

 最近、村を留守にすることが増えて村人や来訪者をがっかりさせることが多く楽しみにしてくれている人たちに対して申し訳ない気持ちもあり、少しでも楽しみにしてる人を喜ばせたかった。


 久し振りに公衆浴場の仕事は体力面はスキルで補っているが客への対応で疲れ果ててしまった。久し振りの開放とはいえ、こんなに来るとは思わなかった。火炎石への魔力注入はともかく、やはり従業員が欲しい。エミルが私は暇なので公衆浴場で働きます、とか言っていたが王族にさせる仕事ではないと思って断った。それより働くなら村の子供達への教育の場で頑張って欲しいと伝えた。


 仕事を終えて一人になったところで初めて通信石を使ってメルチェへ連絡した。


「なんじゃ、こんな夜中に。寂しくなって連絡したとか言うなよ」

 この人、本当に女王なのかな。


「いえ、わざわざそんなことで連絡はしませんよ。報告とお願いがあって連絡しました」

 今回の事件のことを伝えた。それと、近々連行される元騎士団のローシャという男が国内の古文書を見つけている可能性があることを伝え、話を聞き終わった後にその男を女王の恩赦ということでキッタカールに派遣して欲しいとお願いした。


「ふむ、事情は分かった。古文書の件は興味があるので本人から直接聞くようにしよう。ただ、キッタカールに派遣して欲しいというのはどういうことじゃ? 娘と言っても血が繋がっているわけではないのだろう」


「血は繋がってなくても一緒に暮らさせてあげたいって気持ちもあります。ただ、キッタカールは魔獣の発生が増えていて戦力が足りません。元隊長が来てくれたら心強いです。それと具体的には思い付かないのですが国内各地を巡ったローシャさんの知識はキッタカールに必要な時が来るような気がして……」


「うーむ……一応元騎士団副隊長の犯罪じゃ。私の一存で決められないこともあるだろう。すべてがそなたの希望に添えるか分からないが善処はしよう」


「ありがとうございます」


「古文書の件は確認しておく。また何かあれば連絡するように」


「承知しました」

 俺の初めての通信石での連絡は終わった。あの場では使わなかったが、こうして使ってみると難しいものでもなく使えることも確認できて安心した。


 翌朝、俺はティキットにどんなことができるか確認したく屋敷へ向かった。まだ石の小屋の移設が済んだいないので新しく小屋が完成するまではティキットも屋敷で世話になっている。

 ティキットだけじゃなくてノエルとリリも同席した。


「単刀直入に聞くけど、ティキットはどんなことができるの?」


「昨日、話した通り虫を操ることができます」

 ティキットは目が見えない。歩く時も杖を使って周囲の安全を確認しながら歩く。その杖はただの杖ではなくローシャが買い与えた魔法使いが使う魔道具でこれで魔力を増幅することができるらしい。きっと高価なものなのにローシャはティキットの歩くためだけじゃなくて万が一に虫を使って身を守るために買い与えたのではないだろうか。やはりローシャはティキットを大切にしていたのだと思う。


「あの、それがほとんど実際には使ったことなくて……意思疎通ができるわけでもなくて……私の場合は移動する時の道案内に使っていました」

 虫なら何でも操れる。言葉を聞いたりはできないが、虫の位置を把握したり虫の移動する普通の人間には聞こえない音を聞くこともできるので、近くにいる虫を動かして段差や穴の位置、部屋の広さなどを確認して生活の安全を確保していたとのこと。本人が言うにはそれしか使ってこなかったと言うが、それだけでも凄いことだと思う。


「ティキット、俺は転生者なんだ。君の魔法を使ってこの村を豊かにできるか確認したいのだけど、具体的にできそうなことを聞いてもいいかな?」


「はい……分かりました」

 俺が食い気味に言ったから少し引かれているかもしれない。


「タロウさん、ティキットにあまり無理させないでよ」

 リリもここに来た時は今のティキットのように遠慮していた感じだったが、今ではだいぶ明るくなって打ち解けてきたようだ。


「まずは虫を使っての害虫駆除。農作物を食べる害虫を虫を使って食べてもらうことはできるかな?」


「虫が虫を食べるのは自然界にあることなのでできると思います」

 ティキットが言うには自然界に反したような動きはさせられないらしい。


「蜂を使って蜂蜜の収穫はできそう?」


「蜂を操ることはできますが、蜂蜜を集めて収穫するのは私ひとりでは難しいかと……」


「ティキットがいればこの村でも蜂蜜を食べられるのですか?! それは何とかできるように是非したいです」

 ノエルが乗り気になっている。


「分かった。操れることだけでも分かれば村のみんなで協力もできるよ」


「それと蚕も操れる?」


「はい、それもできると思います。でも同じ理由で絹を取るのが私一人では難しく……」


「絹も取れるのですか? ティキットの魔法は凄いですね! これも村で協力しましょう」


「いえ、そんな……ありがとうございます……」

 ノエルが褒めたことでティキットは照れていた。


 あと最後に聞きづらいことが残った。ノエルとリリがいるのが余計に聞きづらい。


「あの、もう一つの聞きたいのだけど、いいかな?」

「はい、なんですか?」


「排泄物を分解するための微生物の活性化とかできるかな?」


「またタロウ様は女の子にそんな話をして!」


「タロウさんは気にしすぎなんだよ」

 俺がティキットに聞くとノエルとリリが割り込んできた。


「いや、二人がそう言うのも分かるけど、この前モニカが『この国は王都以外は厠は何ともならんのぉ』って言ってたから、リリの草木の知識とティキットの虫の魔法があればスライムや浄化の魔法とまではならなくても解決できるんじゃないかなって思って」


「それはそうですが……」

 ノエルも何とかしたいとは思っているようだ。


「やってみないと分かりませんが、草木の微生物の活性化はできると思いますよ」


「でも、ティキットは目が見えないんだから肥溜めの近くとかで無理させないからね」

 リリがそう言う。


「もちろん無理はさせないよ」

 俺は約束した。


 プワンの来訪から始まり、プロントでの大型飛行魔獣、王都へ訪問、リリの誘拐事件と様々な出来事が起きた秋が終わりを告げ、もうすぐ冬がやってくる。

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