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夜営

エルフの森を抜けると陽が沈み始めていた。


「ここら辺で夜営の準備をしよう」

クリスがそういうと小さな笛を吹く。後ろからでも指示を出すためのようだ。

笛の音を聞き前の二台が停車する。


簡易的なテントのようなものでも準備をするかと思っていたがそういうものは無いらしい。ノエルを馬車に残して護衛の三人で交代で夜を見張るらしい。


「エルフの森で遭遇した野獣のようなものがまた出るとも限らないが、野生の獣の襲撃も警戒しないといけない。ブライとサラは火を起こす準備をしろ」

クリスの指示で二人の少年兵は夜営の準備に取り掛かる。


「魔法で火を起こしましょうか?」

俺は他の人に聞かれないように小さな声で確認した。

「すぐに知られることになるかもしれないが、今はまだ我々はともかく外部の者にタロウ殿の力は知られない方がいい」

御者のことを言っているらしい。別に御者の男は悪者ではないだろうがクリスとしては貴重な魔法を簡単に見せるわけにはいかないのだろう。


その後、ブライとサラが手際よく準備を終え夕食を五人で食べた。移動中だからか、それともこの世界の食事がこうなのか全体的な味が薄く質素だった。それでも右も左も分からない世界でちゃんとした食事ができることに感謝する。

食事の後、御者の男は火を少し分けてもらえれば自分の馬車に戻りますと離れていった。


「ブライとサラは少しの間、周囲の警戒に当たってくれ」

クリスから指示が出る。どうも俺とクリスとノエルの三人になりたいようだ。

二人は承知とばかりに頷き武器を携えて警戒に向かう。


「紹介がまだでした。我らが主、ノエル様になります。こちらは先ほど魔獣の襲撃時に助けていただいたタロウ殿です」

クリスが互いを紹介してくれた。

「私はゴルド王国第八王女、ノエルと申します。先ほどは危ないところを助けていただきありがとうございました」

長い銀髪の少女は深く頭を下げた。恐らくあの少年兵たちより若い。高貴な人だとは思っていたがまさか王女とは。

「魔法剣士のタロウです。急な同行になってしまい申し訳ありません。よろしくお願いします」

王女なら職業を言っても問題あるまい。他に名乗る肩書きもないしいいだろう。

「それで魔獣をあっさり倒してしまったのですね。お強い」

強さで言ったらクリスの方が全然上だと思うよ。声には出さないが頭の中で思った。

「ノエル様、お気付きだと思いますがこの方は転生者です。転生者は魔神や大型魔獣が出没しやすい地域に現れ民を助かると言われています。キッタカール領では今までそのような報告はありませんでした。先ほどの森での魔獣の襲撃も今までだと考えられません。タロウ殿と出会ったのも何か今後起こることに対する運命だと私は考えます」

「運命、ですか」

ノエルが少し思案する。

恐らく女神が言っていた少女というのは彼女で間違いなさそうだ。それにしても危険は少ないとか言っていた割にやはりそこそこハードな環境っぽいのは間違いなさそうだ。

それでも推しに似た女神は憎めない。あの姿を変える戦略はずるい。

「運命かどうかは分かりませんが、クリスさんの言うように転生者です。俺は行くあてもありません。何か協力できることがあれば協力しますよ」

転生者は女神からそれぞれ使命を言い渡されているのだろう。森の中で説明のあった参戦神たちは魔王討伐でも言われているのか。狩人と呼ばれる奴はそこら中を移動して魔神と魔獣狩りをしてるようだがそれも女神からの使命なのか。いまいたズレている感じもするがお咎めがないなら言われたことはやっていると思っていいのか。何にしても女神は説明が足りない。

「タロウ様、お心遣いありがとうございます。ただ……」

ノエルは言い淀む。

「ゴルド王国の掟やこのキッタカール領の過酷な環境、私たち王女の使命を聞いていただいてから考えてもらってもよろしいでしょうか? もしかしたらこの地での任務を終えた後にクリスは王都へ戻ります。そこに同行して王都や東西の拠点の方がタロウ様に相応しい任務や生活が保証されるかもしれません」

「ノエル様……」

クリスが今まで見せていた力強い表情とは変わって心配そうに俺とノエルを交互に見た。

もしかしたら王都とやらに本当に女神に言われたから少女がいるのかもしれない。その方が楽な暮らしもできるかもしれない。それでも目の前にいる困っている人たちを見捨てるのは気持ちのいいものではない。

「そのお気持ちはありがとうございます。ただ、クリスさんと同じでここに転生したのには何か理由があるのだと俺も思っています。話を聞いたからと言って気持ちは変わることはないですが、この世界の情報が何も無いのは不安でした。是非、情報収集という意味でもノエル様のお話を聞かせてもらうことはできますでしょうか?」

俺の言葉で二人の表情が明るくなった気がした。それとも焚き火の明かりの照らし具合でそう感じただけか。


「長くなるかもしれませんが順を追って説明をさせていただきます」

ノエルの話が始まった。

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