49.誘拐の真相
「お前、二人も誘拐していたのか?」
ラフィッカがローシャを問い詰める。
「私は誘拐されたのではありません! お父さんは悪くありません!」
リリとは別のもう一人の少女が言った。
この場にいる誰も彼女の言葉をうまく飲み込めていない。
「ローシャ、お前結婚していたのか?!」
いつも冷静なラフィッカが驚いている。クリスも驚いているような感じがした。
「ティキットは本当の娘ではない。旅の途中で買ったのだ」
「お前は誘拐ではなく人身売買までやっていたのか!」
ラフィッカが怒りを露わにする。
「違います! どうかお父さんを怒らないでください」
ティキットと呼ばれた少女が言った。だが、薄暗くてらっきりとは判断ができないが、彼女はどこか顔の方向が定まらないというか視線が合ってないように見える。
「あのね、その人はエルフ教を深く信仰しているのは本当だけど、多分そんなに悪い人じゃないと思うの……誘拐された私が言うのは変かもしれないけど」
リリがそう言った。これは元の世界にある誘拐犯と過ごすことによって情が湧いて犯人を庇うという現象か。
「彼女は目が見えないの。それでエルフの情報を集めて国内を放浪していた時にローシャさんが引き取ったの」
「私の生まれた村はどの領とも良い関係が築けていない貧しい村でした。私はこのように目が見えず家族のお荷物になっていて村に来ていた奴隷商人に売られそうになっていた時にお父さんに助けられたのです」
リリとティキットの話でちょっと流れが変わってきたな。
「ふん、その娘は過疎の村には珍しく生まれつきの魔力を帯びていたから引き取ったのだ。奴隷商人のような下賎な連中にその価値は分からないだろうからな」
「でも、私の魔法は虫を操るもので村でも誰も価値を認めなくて……」
「僕はエルフに興味があるんだ。森の調査もしたい。虫を使えるお前は何かと役に立つと思っただけだ」
ローシャとは目的が違うが虫を操れる魔法なんて価値がある。色んなことに活用できそうなのにもったいない。
「もう無駄話は十分だよ。ラフィッカ、そろそろ連れて行ってくれないか」
「まだダメです!」
ラフィッカが複雑な表情を浮かべてローシャの頼みを聞いて連行しようとしたところにリリがまた入ってくる。
「ローシャさんは初めはエルフ信者として動いていたのかもしれませんが、今はティキットの目を治したくて国内のエルフの森を回っていたのです。人と話すのが苦手で私から情報を聞きたかったのに上手くいかなくてゴブリンたちを撃退してそのまま連れてきてしまった不器用な人なのです」
「国内中回っても目を治せるようなものには出会えなかったがな。読みたくても読めないような古文書はいくつか見つけたが、そんなのは王都の研究者でもなければ解読もできないだろうし僕の旅は大した成果もなくここで終わりだよ」
ローシャは元騎士団隊長にしてエルフオタクのコミュ障だった。だが、ローシャの言う読めない古文書は気になる。
「それでも王都へ連れて行かなねばならない」
ラフィッカがローシャを連れていく。
「ティキットはまたお父さんに会えますか?」
リリがクリスに聞いた。
「誘拐は誘拐だからな。それなりの罰は下るだろう。だが、情状酌量してもらえるように私からも話してみるとするよ」
「お願いします。それとティキットはキッタカールに連れて行ってもいいですか?」
「本当は一度王都へ行って事情を聞いてから今後のことを決めないといけないのだが、私もここまで来ているのでこのままキッタカールへ向かいノエル様と話をして決めることにしよう」
「クリスさん、一ついいですか?」
俺はクリスへ聞いた。
「なんだろうか?」
「この建物、騎士団のものならこのままにしておいてまた変な人が住み着いても危ないと思うので壊した方がいいのではないでしょうか?」
「確かにそれもそうだな。北領のものなので私の権限で決められるがこれもノエル様に相談することにしよう」
翌朝、俺たちはキッタカールへ無事に戻った。
行きと同じように馬車の中で俺はサラに聞いた。
「クリスは話を聞いただけで犯人の顔がすぐに浮かぶくらいローシャを知っていたのかい?」
「あの人は私が入隊する前からずっと南東の部隊にいてそこから隊長になりました。小さい頃、助けられたこともあります。それだけです」
サラにはもっと複雑な想いがありそうだが元々自身のことを話すタイプではないし聞かれたくないこともあるだろう。詮索するのも野暮なのでこの話はここで終わりにした。
途中、エルフの森の祭壇へ事件の報告も忘れずに行った。エルフはリリが無事に帰ってきたことを本当に喜んできた。今回の事件のようなことが起こらないように森の警備魔法を強くすると言っていた。
ティキットはクリスの事情聴取を受け王都へ行くよりはキッタカールにいる方がいいだろうと言うことで村に住むことになった。
今回の事件の舞台になった騎士団の古い小屋は解体するだけではもったいないということで、素材をなるべく活用してキッタカールに移設をすることになった。これはオーク達が解体から素材の運搬、建設までやってくれる。
そのままでは嫌な思い出が蘇るかと思って心配したが、リリは屋敷で研究することを申し訳なく思っていたようで薬の研究に使える専用の家ができることで喜んでいた。ティキットはそこでリリと暮らすことが決まった。
キッタカール村にとって新しい心強い仲間が増えた。




