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47.南の街

 キッタカールを出発したのは陽が沈み始め頃で、既に秋も深くなっていて夜になるのもあっという間だった。

 エルフの森の中間に位置する祭壇の前まで来たのはかなり夜が深くなってからだった。森の中は星の光も入りにくく松明が無ければ動くのも困難かと思う暗さであった。


「待っていたぞ」

 エルフの声が聞こえる。


「申し訳ありません。リリが攫われました。今、救出に向かってます。エルフ様の知っていることがあれば教えてください」


「こちらこそすまぬ。リリを守れなかった。リリを連れていった男は相当の手練じゃ。この大陸の各地にあるエルフの森はその土地のエルフ達が護っている。エルフは人とは基本会わないのだ。だから、無闇に祈りを捧げる以外には森に入らぬように様々な防護結界が張ってある。しかし、あの男はそれらを突破し森に入ろうとした。しかも、追跡の魔法まで回避しおった」


「相当な厄介な敵なのですね」


「だが、安心しろ。目的はリリを殺すことではない。恐らく独占したいのじゃ。だから、助かる機会は必ずある」

 エルフがそう言うとサラが言葉を挟む。


「その男はエルフ様に相当執着してるような奴なのですね」


「そうじゃな。エルフ教と呼ばれるくらい我らを信仰したいる者たちがいることは知っている。毎日熱心にお祈りをしてくれて、それが力になる。だが、奴はエルフ教の中でも密教と呼ばれる過激派の奴であろう。しかし、過激派の中でも森を侵略するような奴はここ何十年もこの大陸にはいなかったのだが厄介な奴が現れたものだ。他のエルフ達にも連絡をしておくことにする」


 エルフはエルフで独自のネットワークがありそうだな。

 それにしてもサラの表情は暗くてよく見えないが怒っているようだ。あまり感情を表に出さないサラにしては珍しかった。


「今日、このまま南へ抜けても宿も確保できぬだろう。祭壇の前で休んで行くがいい。結界を張っておくから野生の獣の襲撃に怯えず今夜は体力を回復しておけ」

 エルフの声はそれを最後に聞こえなくなった。

 急ぎたい気持ちはあるが、敵のことを考えると慎重に出た方が良さそうだ。俺たちは今夜はここで休むことにした。


 翌朝、陽が登り始めると同時くらいに祭壇の前を出発する。エルフからは特に見送りの言葉はなかったが、無事に連れて帰ることを祭壇の前で三人でエルフに約束した。


 俺にとって初めてのエルフの森の南の街シャルワへ到着した。

 エミルの先代に当たる王女が当時はエルフ信仰のためにあった村を街へ発展させた。その王女の魔法は聞いたことがなかったが、綺麗な街になっている。決して北だから冷遇されていた地には見えなかった。

 家屋はキッタカールに比べて立派な煉瓦造りで、商店も宿屋に酒場、それに日用品から食品まで帰るような店が揃っていた。王都に比べたら全然足りなくとも生活するには困ることは無さそうだ。


 スマホやインターネットの無いこの世界での情報収集の定番は酒場だ。まだ昼になったばかりの時間だが酒場に人はいるのだろうか。


「ここはあっしに任せてください」

 ズザが酒場に入っていくので付いていった。

 サラはどうするのかと思ったが、


「私はまだ酒場に入るのは若すぎるので、ここで待機します」

 そう言って馬車を守ることになった。


 酒場の中では三人組が昼間から酒盛りをしていた。仕事は無いのだろうか。

 早速、その席へズザが行く話を始める。


「ちょっといいですかい?」


「あぁん、なんだにいちゃん?」

 怪訝そうに男たちはズザに顔を向けた。


「盛り上がってるとこすまねぇです。あっしら酒商人でにょっとお話聞かせてくれませんか? お礼も出しますんで」

 ズザは彼らの飲み代を払うと言って貨幣を出した。


「おっ、なんだい。気前がいいじゃねぇか。何でも聞いてくれよ」


「最近、ここより北のキッタカールのドワーフの酒が評判で買付けに来たんですが、シャルワにもエルフに由来した酒があるって噂も聞いたもんで。皆さん、なんか知っていないものかと」


「おぉ、ドワーフ酒は評判は聞くが飲んだことねえ。一度、飲んでみたいものだ」

 男の中の一人がそう言うと別の男も言う。


「でも、にいちゃん。この街にエルフ様に由来した酒なんて聞いたことねぇぞ。エルフ様に酒を供える奴なんてのもいないしなぁ」


「なんかの間違いじゃないか」

 三人揃ってガハハと笑った。


「そうなんですかい。でも、あっしは最近ここら辺でその酒を探している妙な男がいるって噂を聞いたもんですから」

 ズザがそんなことを言うと、


「酒じゃないが、最近妙な男がこの街に来るようになったな」


「あぁ、この街を発展させた女王の時代に騎士団たちが使っていた小屋に住み着いた変な男がいたなぁ」

 男たちの話から何か繋がりそうだ。


「そんな小屋があるんですねぇ。ちなみにどの辺にあるんですかい?」


「ここから南東に少し行ったところにあるよ。なんでも当時は今よりこの街も道も整備されていなかったから連絡の時の休憩に使っていたとか聞いたな」


「ありがとうございやす。これはお礼で。楽しんでいるとこ邪魔しました」

 ズザはお礼の貨幣を彼らに渡した。


「いいってことよ。それよりにいちゃん、エルフの酒のことは分からなくて悪かったな」


「今度、ドワーフの酒をこの街にも卸してくれよ」


 男たちのそんな声に見送られながら俺たちは酒場を出た。


「他に情報もないですし、とりあえずその小屋に向かいますか」

 ズザは上手く情報を引き出してくれた。


「ありがとう。助かったよ。お金を使わせてしまってすまなかった」


「あれくらいどうってことないですよ。気にしんといてください」


 馬車に戻ると酒場での話をサラにも共有した。


「他に情報もないし、その小屋へ向かおう」

 俺の提案に二人は頷いた。

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