46.誘拐
モニカ来訪の翌朝、リリに昨日モニカと話を聞いてみることにした。
「おはよう、リリ。ちょっと今いいかな」
「いいですよ。どうしました? また何か薬でも調合しますか?」
「いや、そうじゃないんだけど。夏に相談した村のにおいに関することで」
「でも、あれから随分改善したと思うんですけどね。最近は涼しくなったし気にしなくてもいいような」
「そうじゃなくてモニカ様が風呂はできたのに厠は改善されない、って話を昨日の歓迎会の時に話をしてきてさ。何かできることないかなと思って。リリなら良い案を出してくれるんじゃないかと思って」
「別に私は厠の専門家じゃなくて薬の調剤が専門ですよ」
「この前、王都へ行って女王様と話した時に元の世界のことを少し思い出して堆肥にする前に微生物を活性化させてにおいを消すみたいな話があって。そういうことに向いている植物や微生物の知識もあるんじゃないかなと思って聞いてみたんだ」
「タロウさんもですけど、ノエル様もモニカ様も王族だからか気にし過ぎと思いますけどねぇ。今日、森へ薬の材料を採取に行くのでエルフ様にも聞いてみます」
「ありがとう。下水の整備や浄化石、スライムとかきっとこの村だと資金もかかって難しいからできることを探していきたくて。リリが手伝ってくれて助かるよ」
「あまり期待しないでね。でも、成功したら私も一緒にお風呂に入ってもらおうかな」
「変なこと言うんじゃない。俺は誰とも一緒に入ってない」
「冗談よ。じゃあ、ゴブリンのみんなと森へ行ってくる」
特に危険はないと思うが、野生の動物や万が一にも魔獣が出た場合に備えてリリには一人で森には行かないようにさせている。
だが、護衛を付けても防げなかった事件が起きてしまう。
夕刻、にハーピーの集落に屋敷のみんなでモニカをプロントへ見送りに来ていた時のことだ。
グリーンが血相を変えて駆け込んできた。
「リリが攫われました」
予期せぬ時間が発生して俺は言葉を失った。
「詳しく話しなさい」
ノエルがモニカの見送りの和やかな雰囲気から領主の顔に変わった。ここら辺は俺よりしっかりしている。
「はい。リリがいつも通りエルフの森へ薬草採取に向かうとのことでゴブリン達もいつも通り動物の狩りも兼ねて護衛で同行したのです。今日はいつもと違ってエルフ様に会うと言って森の奥へ入っていたのです。リリしか奥へは入らないのでオラ達は祭壇の前で待っていたのです。しばらくするとリリが祭壇へ戻ってきたのですが……そこで一人の男が現れてリリを攫って行ったのです。今日はオラもいて人数も多いし普通の輩なら倒せると思ったのですが軽く捻られてしまいました。申し訳ないです」
今朝、あんな話をして無茶してしまって、そこを悪い奴に捕まってしまったのか。もちろんそんなこと関係なしに助けに行くが責任を感じてしまう。
「起きてしまったことは仕方ありません。すぐに助けに行きます」
ノエルがそう言うとジョルジュが止めた。
「さすがにこの時間からノエル様をエルフの森へ行かせるわけには行きません。何かあっては困ります」
「そうじゃ、ノエル。あなたはこの地の王女なのじゃからなんでもかんでも自分で解決したらダメなのじゃ」
モニカも正論で加勢していた。
「俺が行きますよ。今朝、リリにお願いしたことがあって、それで森の奥へ行ってしまいそれが原因になっていそうなので。すぐ向かいます」
俺が言うとズザが、
「それならあっしも行きますよ。人攫いにはオラみたいなのが付いて行った方がいいと思うので」
「うちはすぐプロントへ向かってラフィッカに報告するのじゃ。騎士団にも情報を集めさせる。だからノエルはここで待つのじゃ」
エミルがそう言うとノエルは頷く。
「分かったわ。タロウ様とズザさんにお願いします」
「私も行きます」
普段、あまり自己主張をしないサラが志願した。
「サラ……それならあなたにもお願いするわ」
グリーンも責任を感じて同行を志願したが、思ったよりも傷が深く断念した。リリを攫った男は北に抜けることなく森の道を南に向かったとのことだ。
俺とズザ、それにサラはすぐに準備を整えて南の街へ馬車で向かうことにした。
今回、この世界に来て初めてノエルと別行動になった。
馬車はズザが操縦してくれている。荷台には俺とサラが乗っている。
「今回、どうしてついて来たんだい?」
俺はサラに聞いた。
「ちょっと気になることがありまして。ただ、違う可能性もあるので理由は聞かないでください」
リリが攫われる心当たりがあったのか、それとも他の理由があるのか。
サラの同行の理由は気になるが、まずは情報を集めるために南の街を目指す。




