44.見解
メルチェは二人のことも簡単に説明してくれた。
アレックスは男、シノブは女。それぞれ二十代中盤。転生前なら二十代前半というところか。職業の証は形で判別できるらしいのだが二人とも変わった形をしていてメルチェでも判別できなかった。ちなみに俺も魔法剣士だが魔法使いと剣士を合わせたような形なので知識があれば判別できるようだ。二人とも本名を名乗っているならシノブは日本人っぽいがアレックスはアメリカ人とかなのか。
「あまり長く二人で話していたら不自然かもしれないな。順序が逆になってしまったが、もう一つそなたに確認しておきたいことがある」
「なんでしょうか?」
「先ほどそなたが言った王女の魔法は生活を支える技術のようなものだと思う。やはりそう思うか」
「はい、そう感じました。そう聞くということはアレックスとシノブもそう言ったのですね」
「シノブは調査や探索には長けてるが少し直感的過ぎてな、そこまでは言っていなかったが……アレックスはそなたと同じようなことを言った。通信石を発見した時も、『こういう便利な物がまだまだこの世界にもあるかもしれませんね』とも言っていたな」
「確かに転生者なら通信の技術からこういう使い方を思い付くのもすぐだったかもしれませんね」
「それともう一つ。ノエルを北の地へ派遣するのを助言したのもアレックスなのだ」
それは意外だったが、アレックスなら魔法の手で採掘を加速させることを思い付いてもおかしくないかもしれない。
「当時、わらわも巨大な手はどうしたものかと悩んでいたのだ。その時にアレックスが『もしかしたら適材適所になるかもしれません』と鉱山の採掘の提案をしてくれたのだ」
「それなら何故ノエルにその目的を伝えてあげなかったのですか? 彼女に初めて会った日に彼女はとても悲しい顔をしていました。もし目的を持って派遣されていたら少しは違ったかもしれません」
「それはすまないことをしたとは思っている。しかし、北の地への派遣は歴代能力が不明なものが派遣されることになっている。そなたの世界の技術基準で考えたら使い途があった、わらわが知るはずのない知識で派遣先は変えられない。それに土木技術で力を発揮できる魔法などどこの地域でも欲しがる。何なら一番有力な東の地へ派遣すら可能だったが、それだとただの労働力で終わってしまう。それならとアレックスと相談してノエルの魔法でこの世界の謎の解明が進む可能性に掛けたのだ。辛いことをしてしまったことはいつか打ち明けて謝ろうとは思っている。しかし、今は協力をして欲しい」
メルチェにそう言われたものの気持ちは複雑だった。この世界に転生して半年キッタカールで生活をしてきた。ノエルや村の人々、村にも思い入れはある。この世界の謎を解明する前にキッタカールで頑張ってるノエルに謝って欲しい気持ちが先にくる。
「この半年近くノエルが苦労をしているのを見てきました。だから、まずはノエルに本当のことを打ち明けて欲しい気持ちもあります。しかし、俺も元の世界での大人としての経験もありメルチェ様の言うことも分かります。それで不躾ながら女王様に協力する代わりに二つ約束をしてもらえないでしょうか」
「言ってみろ」
「謎が解けたら一番にノエルに事情を説明してあげてください。もう一つは私にはこの世界の知らないことがまだまだ多いです。国家の秘密を聞こうとまでは思いませんが、これからは協力者ということで可能な限り情報共有をしてもらいたいです」
「なんだ、そんなことか。ノエルについては元よりそのつもりだったし、協力者には情報共有はする。心配するな」
「ありがとうございます。女王の魔法の謎に直結するか分かりませんが、この世界に来て不思議に思っていることが一つあります。もし分かる範囲で教えていただきたい」
俺の質問に興味があるのかメルチェは先を促す。
「転生の定番と言ってはなんですが、転生先は神を崇めていたり宗教の色が濃いのが普通だと思っていました。しかし、この世界は宗教が薄いような気がします。村の人たちも何かを信仰しているようでもなく、それなら他の街ではどうかと思っても王都もプロントも教会や礼拝堂も無いように見えました。何か違和感があるというか、ずっと気になっていました」
「そんなことか。確かにこの国には特定の宗教は無い。しいて言えば国民がそれぞれ五元素を信仰したり、王女たちの魔法を信仰している。そなたが気付かないだけだが、大きな施設でなくとも五元素を崇める施設みたいなのもはそこら中にある。この国で特殊な信仰はエルフを崇めてる者たちだな。基本的には穏やかだが一部過激な連中もいる。キッタカールの近くにもエルフの森があるだろう」
確かにエルフの森には祭壇がある。この国はそれぞれ好きなものを好きに信仰していいのは寛容で好感が持てる。
「東のフィルニアは連合国で特定の宗教はないし内戦が多くそれどころではないが、西のブリダは教国というだけあってブリダ教という宗教一色だ。だから、その土地それぞれと考えてくれ」
なるほど。これは俺の知識の無さから来る思い過ごしだったか。何か宗教のないこと、王女の魔法が科学技術に偏りがあること、この二つは繋がりそうな気がしたのだが。
「だが、そなたが何かひっかかるなら頭に入れておこう」
「ありがとうございます。俺も何か気付いたら報告するようにします」
「そろそろ二人の密談も終わりにする頃だな。あまり二人で話していて怪しまれても困るからな。それと月日の話を初めて聞いたのは本当だぞ。アレックスもシノブも日常に関わる話をするような奴らではないからな」
その言葉でアレックスやシノブのことがどんなタイプなのか想像ができた。
メルチェはそう言うとノエルとモニカを呼んだ。
「何を話していたのですか?」
ノエルがそわそわしながらメルチェに聞いていた。
「キッタカールの公衆浴場についての話だ。民にも評判がいいし王都でも市民向けのものを造れないか、色々相談していたのだ」
「それなら私たちも居てもよかったのではありませんか?」
「うむ、だがわらわがタロウと混浴する話をしていたら二人とも恥ずかしがるかと思って気を遣ったのだ。今度、キッタカールに視察で混浴しようと思っていての」
「その時はうちも同行するのじゃ」
モニカが割って入ってくる。
「二人とも王女の権限でキッタカールへは今後出禁です」
「女王の権限はノエルよりも強いぞ、どうする?」
もう、と言わんばかりにノエルは顔を膨らませている。こう見るとまだ年相応の少女だった。
それにしても秘密の話をこんな冗談で煙に撒くメルチェはさすが女王というより、なかなかの策士だった。




