37.首飾り
敵襲を退けた俺たちは再度城の中に集まることになった。
先ほどいた四人に加え、騎士団隊長のラフィッカと鳥人の長のネルバも同席している。
鳥人は獣人と同じ進化系統があるようでネルバは長として特別な存在に進化していて名前を持ち魔力を帯びているようだ。
「皆の衆、ご苦労じゃった」
まずはモニカから労いの言葉があった。こういうところは王女としてしっかりしている。
「こちらは北領キッタカールのモニカ王女と、その地に現れた転生者のタロウじゃ」
俺とノエルをラフィッカとネルバに紹介してくれた。
「お久しぶりです、ノエル様」
「はい、お久しぶりです。大変なことになっているようで私もできる限りのお手伝いはします」
「私はノエル様の魔法をはっきり認識はできないのですが何か白い塊みたいなのものを直接魔獣にぶつけていたのでしょうか?」
ノエルは教育の一環で北以外の都市を訪問しているので各騎士団とも面識があるようだった。
ただ魔法の手に関してはラフィッカも副団長に与えられる後天的な魔力だからジョルジュやクリスのようにぼんやりとしか見えないのだろう。
「そうじゃない、ノエルには魔法の大きな手があるのじゃ。その手で魔獣をばんばん堕としていたのじゃ」
何故かノエルではなくモニカが食い気味に回答した。一緒に戦ったのが嬉しくて興奮しているようだ。
「私なんかまだまだで、モニカの方があんなに強力な魔法を使えて凄いのよ」
「盛り上がっているところ失礼する。それでノエル様たちにきていただいた肝心の進化はどうなったのでしょうか? 先ほどの戦闘では進化はしていないようだったが自分とラフィッカにも説明していただきたい」
鳥人のネルバが割って入ってくれた。久し振りに再会した二人を放っておいたらいつまでも話していそうだったから助かった。
「それがじゃなのぉ……」
モニカが言いづらそうにしているので俺が引き継いだ。
「進化は互いの信頼が必要になります。ただ、モニカ様とハーピーの間に信頼がないわけではなく自身の弱点である雷の魔法使いとは相性が悪く進化ができませんでした。では俺やノエル様ができるかというと信頼もなくそちらもダメでした」
「そういうことなのか……ハーピーにもハーピークイーンが誕生すれば他のハーパーにも良い影響が出て大型撃破ができたかもしれないが、そんな上手い話はなかったか」
ネルバが仕方ないという感じで呟いた。
キッタカールでグリーンやゲンサンが進化した時にこれで周りのゴブリンやオークも成長できるような話が出ていたことを思い出す。キッタカールの場合は作業効率が上がったり良い製品が作れればと思ったが、今のプロントの場合は全体の戦闘能力が上がることを期待されているようだ。
「俺からも一つよろしいですか? 今まで出なかった大型の魔獣が出現した理由は判明しているのでしょうか?」
進化の話をしたついでに質問した。
「それが分からんのじゃ……元々、この地は飛行する魔獣が発生する地域でそれに備えて騎士団も弓矢に秀でた者が集まったり鳥人やハーピーにも協力してもらって今までは撃退できていたのじゃが今回のような大型は初めてでのぉ……一度の襲撃は不意を突かれて撃退し損ねたが二度目で撃退できると考えていたがそれも無理じゃった。万が一のために母と祖母は西の拠点に退避してもらったが母だけでも残っていてもらった方が良かったかもしれぬ」
モニカの母と祖母というのは先代と先々代の王女のことだ。エミルの予想とは違い緊急事態の今はこの地を離れていた。ノエルに聞いた話の通りこの二人も雷の魔法が使えるのだろう。いてくれた方が良かったのか避難したのが正解なのかは分からなかった。
「先日、モニカ様と私は王都に用事がありまして数日滞在しておりました。王都から戻った直後に大型飛行魔獣が現れて街を襲ったのです。偶然なのか、それとも王都で何かあったのか、私にもそれは判断できずにおります」
ラフィッカが説明してくれた。
「ノエル、そういえば王都で珍しいものが買えたぞ。キッタカール鉱石の首飾りじゃ。なかなか加工できずに使い道も分からずそれでも珍しく綺麗な石ということで採掘できたものは王都の地下倉庫に眠っているようじゃが、こうしてたまに小さくても加工できたものが高値で出てくる。王都での滞在は退屈だし何か面白いものがないかと思っていたら王族専属の商人が見せてきたから高くても買ってしまったのじゃ。キッタカールはこんな綺麗な石が採れるのは羨ましいのぉ。ここは火炎石は採れるが綺麗では無いからのぉ」
「でもキッタカール鉱石は加工も難しく綺麗なだけでまだ未知なのよ。発見から二十五年以上経過しても分からないまま。火炎石は使い道が分かってるだけ素晴らしいじゃない」
モニカの話に対してノエルがそう答えていた。その通りだ。火炎石のおかげでキッタカールに浴場を建設できて風呂に入れるようになった。
「そんなものかのぉ。だがこの石は素晴らしいぞ。見た目が綺麗なだけでなく着け始めたらうちの魔法を使った後の体に残る雷のビリビリする嫌な感じが無くなったのじゃ」
ノエルとモニカの話はまた逸れていきそうだった。だが、今のモニカの発言を俺は重要なことのように感じた。
「すみません、モニカ様。その首飾りを見せていただけませんか?」
「高かったのだから大切に扱うのじゃぞ」
モニカはそう言いながら自慢そうに首飾りを渡してくれた。
今まで俺は自分の村でキッタカールで採掘している鉱石をしっかり見たことは無かった。いや、見たところでその場で効果を分かったとは思えない。
公衆浴場で俺が火炎石を扱うようになったこと、モニカが首飾りとして身に付けて魔法を使ったこと、転生者だからある知識、この三つが重なってやっとその効果に辿り着くヒントが揃ったのだ。雷の魔法を軽視している王都では恐らくずっと解明できなかったのではないだろうか。
「モニカ様、すみません。この首飾りは壊れてしまうかもしれません」
俺のその言葉にモニカだけでなく他の四人も唖然としていた。




