35.プロントの血筋
ハーピーたちの籠に揺られて俺とノエルはプロントへ向かった。
籠は文字通り揺れた。この世界の空中移動に慣れてない俺は乗り物酔いになり気持ち悪くなったのだがノエルは王都でこういうものに乗る訓練もしているらしく平気のようだ。
「タロウ様、顔色が悪いようですが大丈夫でしょうか? もし無理しているようだったら途中で休むようにお願いしましょうか」
ノエルに心配されてしまった。今後同じようなことがあるかもしれないしキッタカールへ無事に帰れたらリリに酔い止めの薬を調合できないか相談しよう。
「いえ、大丈夫です。ご心配をおかけしました。俺の体調よりもプロントの無事の方が心配です。急ぎましょう」
「わかりました。タロウ様ももう少しですので頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。移動中にプロントのことを少し教えてもらえますか? この世界に来てからキッタカール以外ほとんど知らないものでして」
俺は未だに一番近いエルフの森の南の街にすら行ったことない。キッタカールが暮らしやすいかと言えばそうではないのだが、新しく色んなものを作ったりして、最近は番頭の仕事もあり何だかんだ言っても村で過ごすのが楽しいのだ。
「プロントは北西領であり私たちも公衆浴場で使っている火炎石の採掘が盛んな地域です。私がこういうことを言うのもよくないのかもしれませんが王女の優先順は低い……ちょっと言い方が違いました。番外なのです。プロントだけは雷の属性を持って生まれた王女がこの地に着きます。そしてこの地だけは遺伝なので王女の母親が唯一はっきり分かる場所なのです。もしお元気でしたら先代だけでなく先々代の王女もまだいらっしゃるかもしれません」
それで出発前にエミルがあんなことを言っていたのか。
「雷の魔法なんて強そうなのに何でそんな例外的に扱われているのですか?」
「それは二つ理由がありまして、一つはハーピーの使者が言っていた空を飛ぶ魔獣が出現しやすいということにあります。雷魔法で撃退するのです。もう一つは月日を数える時の要素である火水木土風から外れている属性なので王都としては重要視していないのです。こればかりは威力が強力だからとかは関係なしに雷の王女は北西へというのが習わしになってしまっています。ただ、悪いことばかりでもなく必ず母と娘が望めば一緒に暮らせるということはモニカも喜んでました」
ノエルは実の母親が分からないから、こういう事情はやはり少し羨ましいという気持ちがあるのだろう。
雷は電気に置き換えるのが王女たちの魔法の法則に当てはまりそうだけど、そもそも発電してもこの世界の技術で活かせるものが無さそうなのが重視されない理由のような気もする。電灯、テレビ、ラジオ、パソコン、ゲーム機、スマートフォン、各種家電、今なら電気自動車とかにも使えそうだ。これらがあれば大活躍しそうな魔法なのがもったいないと思った。
「ありがとうございます。事情は何となくわかりました」
「もしまた何かわからないことがあれば聞いてくださいね。プロントまでまだ少し距離がありそうですし休んでおきましょう」
ノエルはそう言うと目を閉じた。俺は気持ち悪くて眠れそうにないが目を閉じて少しでもは身体を休めることにした。
今は戦闘が落ち着いているらしく何事もなくプロントへ到着することができた。
元々は立派な街だったようだが、城壁は所々崩れていたり倒壊している家屋もある。戦闘の傷跡が生々しい。
「プロントって大きな街なのですね」
俺がノエルにそう言うと、
「北以外の七都市はどこもこれくらいですよ。これでも小さい方です」
ノエルは苦笑い気味に答えた。王女は教育の中で北以外の主要七都市は学びのために全て訪問すると教えてくれた。
決して大きくはないが城と呼べるような立派な建物があった。ここは騎士団たちが死守しているのかほとんど損傷がないように見える。
俺たちはモニカが待つ謁見の間に招かれた。
「ノエル、待っておったぞ」
金髪の少女が出迎えてくれた。ノエルより二歳上の十七歳らしいがノエルより背は低く、ノエルやサラと同い年なのだが彼らのことを思い出すと幼く見える。
「モニカ、久し振り」
年上でも二人は呼び捨てでも大丈夫な仲の良い関係だった。
「北の地は大変なのに救助をお願いしてしまって申し訳なかったのぉ……もう我らだけじゃどうしようもなかったのじゃ」
モニカは少し独特の話し方だった。同席しているのはハーピーの長だけだった。髪は肩くらいまで伸びていて目はキリッとしている。戦う女性の雰囲気がある。オークもゴブリンもそうだが、この世界の人類とコミュニケーションを取る種族はちゃんと服を着用してくれていて助かる。ハーピーと言えど裸だとどこに目をやっていいか分からなくなってしまう。
俺がハーピーの長に目をやっているとモニカが俺にも声をかけてきた。
「そなたが転生者か? うちはプロントの王女である第七王女のモニカでじゃ」
「名乗るのが遅くなり申し訳ございません。転生者で魔法剣士のタロウと申します。この度、救援要請を受けノエル様と駆けつけました」
俺は魔法剣士と言っても技は一つしかないし、番頭の仕事の方が板に付きそうな転生者なのだが、さすがに空気を読んで普通に自己紹介をした。
「よく来てくれた。王都の騎士団本隊の救助を待ってられんほど状況は良くない。そんな時、転生者の狩人様のことを思い出したのだが狩人様が駆け付けてくれるのをあてもなく待つこともできない。そこで転生者で繋がりでそなたの進化の儀式を思い出しハーピーを進化させることで戦力強化を計って少しでも騎士団や狩人様の到着までの時間を稼ごうと思ったのだが上手くいかずに困ったのじゃ。それで進化を成功させた本人に来てもらおうと思ったのじゃ」
ハーピーを一人進化したところでどこまで状況を改善できるか分からないが、それでも何かに頼らないといけないくらいプロントの状況は良くないようだ。
それと狩人のことだ。魔人や強敵の魔獣が出現したら西に東に駆け回って退治してるような戦闘狂が何故ここには来れないのか。
空中戦だから避けてる?
今まで聞いていたイメージだとそんなことも無さそうなので、これもやはり何か気になる。
「正直、俺がオークとゴブリンの進化をできたのは偶然なのです。だから今回も何かお伝えできるかは分かりません。でも、状況が状況です。やってみましょう」
四人でハーピーの進化の儀式を始めることになった。




