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33.気の流れ

 目の前では予想していたのとは異なる奇妙な光景が広がっていた。ジョルジュが試合開始の合図をしたにも関わらず二人は動かなかった。


 村の入口でのプワンの立ち回りを見ていれば、試合開始の合図と同時にプワンが声をあげながらノエルに突撃して見えない手に掴まれてあっけなく試合は終了。

 俺はそんな結果を想像していた。魔法の手を見ることができないが事情を知っているジョルジュやサラも似たようなことを想像していたのではないか。


 だが、実際は違った。

 二人とも構えたまま睨み合いが続いている。

 ノエルも俺と同じような結末を描いていたのか相手が飛びかかってこないのを不思議に思っているようで、焦りが見える。

 そもそもノエルは自分から攻撃をすることを学んでいるわけではなく、あくまで相手の攻撃に合わせて反撃することを目的に訓練を続けていたので自分から仕掛けることは難しいようだ。


「あんたのそれ何よ?」

 構えを解かないままプワンが口にした。

 この場でノエルの魔法がはっきり見えてるのは本人と俺とエミルだけのはずなのだが、プワンのその問い掛けは何か見えている人間の言葉だ。

 俺はポワンのところへ寄っていってこっそり聞いた。


「ポワン、君の妹が言ってるのって彼女は何か見えてるの?」


「えぇ、ノエル様の前に白い板のようやものが現れて今は丸い形になっている奇妙なもののことですよね。皆さんは見えていないのでしょうか?」

 その言葉にさすがに俺は驚いた。はっきりとは見えていないようだが白い板は手を広げた状態でノエルの前に現れた時のことで丸い形になっているのは拳を握っているからそう見えるのだろう。魔力のないはずのポワンとプワンの姉妹は騎士団副団長として魔力を授かったジョルジュやクリスと同程度には魔法の巨大な手を認識できているのだ。 ズザの話を聞いた時にもとんでもない人材だと思ったがポワンもとんでもないのかもしれない。この前、エミルが自身の魔法の本当の力と言っていたものは何かあるのかもしれない。

 ただ、今ポワンにノエルの魔法を説明している時ではなかった。


「あんたちっこくて弱そうなのに何かあるわね?」

 プワンがまた口にした。


「私はあなたと違ってしっかり教育を受けて育てていただきましたから、それはもちろんそうですよ」

 ノエルはたまに好戦的になる。元の世界ならノエルは育ちのよい中学生でプワンはヤンキー高校生というところだから、これくらいの言い合いはするのかもしれない。

 ここでノエルの買い言葉にプワンが飛びかかるかと思ったがそれもしない。警戒しているのだ。


「まぁ、今日のところは引き分けってことにしといてやる。それまでせいぜいお姉ちゃんを虐めるなよ」

 攻め手を見出せないのかプワンはそんなことを言って退却しようとしてノエルに背を向けた。


「そうはいきませんわ」

 ノエルの巨大な手が動きプワンを掴み空中に持ち上げた。


「なんだこれ、離せよぉ」

 プワンは空中で手をジタバタさせているがどうしようもない。この子は先ほどのブライとの立ち回りの時もそうだが肝心なところで詰めが甘いようだ。

 まだ試合は終わっていないのだから、やはり戦いの最中に相手から目を逸らしてはいけない。


「ちゃんと事情を説明するまでここから下ろしません」

 ノエルはプワンを持ち上げたままそう言った。


「プワン、お姉ちゃんにもちゃんと説明して」

 ポワンも呼びかける。


「だって、あんなに強いお姉ちゃんが奴隷として捕まって奴隷として生きているなんて信じられなかったんだよ。騙されてると思って確かめに来たら親分はこんなに強くて……これじゃ逃げ出せなくても当然だ。これからは私もお姉ちゃんと一緒に奴隷として生きていくね」

 プワンは詰め甘いし思い込みも強そうだ。色々誤解したままだった。


「あなたは色々誤解してます。とりあえず落ち着いて話しましょう」

 ノエルはそう言うとプワンを地面に下ろした。


 プワンはノエルの実力を知ったからか少し大人しくなっねいた。

 ポワンからプワンが気絶している間に説明があったように二人はゴルド王国の東南東あたりの村の出身だった。

 出身地は自分たちの身を守るために武術が盛んな村で両親はその村の武術学校の師範だった。ポワンとプワン、それに父親は生き物の放つ気の流れを視認することができそれを武器に戦っていた。それで朧げながらもノエルの魔法の手が見えたのだった。魔獣が村に現れた時に村を守るために戦ったが魔獣の前には力は通用せずに亡くなってしまった。気の流れが読めても力負けしてしまった姿を見て二人はさらに強くなろうと独自に修行をしていた。

 その後、姉妹だけでは運営ができず両親の武術学校は他の村人の手に渡ってしまった。

「お姉ちゃんね、お父さんたちの意思を継ぎながら村を守るの疲れちゃったの。村を守って亡くなったのに学校は取られちゃうし、お父さんやお母さんのことを村の人たちは大切にしていなかったのかなぁって感じることが多くなっちゃってね。最後に奴隷商人から村の子供たちを守った時に何人か倒しちゃったけど虚しくなって、それなら奴隷になって攫われてもいいかなって思って奴隷商人と交渉したの。あの村には私より強い人がたくさんいるからこれ以上手を出して無駄だよ。でも手ぶらだとあんた達も体裁が悪いから私を連れて行きなよ。その代わりあの村には手を出さないでって」


「そんなの……確かに村にはそういう悪い連中が来なくなったけど裏切られてまた村が襲われたかもしれないんだよ」


「そんなことあの時はあまり考えられなかったんだよ。村人の冷たい態度を思い出したらどうでもよくなっちゃって……それにまた襲われても村には強いプワンがいるから大丈夫でしょ?」


「お姉ちゃん……」


「それに私は武術やって村を守るより、可愛い服を来てお料理したりしたかったの。奴隷の時は可愛い服は着れなかったけど料理したりするのは楽しかったし、こうして今は可愛い服が着れてお料理もしているから、お姉ちゃんは大丈夫だよ」

 可愛い服と言っても元の世界だとたいしたことないかもしれない簡易なものだ。それでもメイドということで王都から取り寄せたので、この村では確かに少し目立ってはいる。

 それと今の話を聞いて武術訓練に参加させているジョルジュはどう思ったのかは気になった。


「私も自由にしたのだからプワンもこれからは自由になっていいのよ」


「私の自由はお姉ちゃんと暮らすことよ」

 プワンがそう言うとノエルが提案した。


「それならここで暮らせばいいのではないですか? あなたは武術学校の師範の娘ならその教えをこの村の子供たちに教える仕事ならできるでしょう。プワンは屋敷の仕事があるのであなた一人でもできるならこの村で一緒に暮らすことを認めます」


 プワンは村のことは今の大人たちで何とかなると思うが一度荷物を取りに帰りつつ事情は説明してくると言って帰っていった。

 その時にノエルが王女ということやポワンが村に来た敬意を伝えたのだが、さすがに驚いて土下座して謝っていた。

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