31.嵐のような来訪者
七月に入りこの村も少し秋らしくなってきた。
俺は七月が秋というのは違和感があったが、まだ暑さが残る日はあるがだいぶ過ごしやすい気温になっていた。
公衆浴場は村人への評判も上々だった。
王都からの定例の使者がその話を聞き村へ鉱物の回収へ来た時に入っていった。とても気に入ったのか王都へ戻る村々でその話をしてくれたのが評判になって公衆浴場のために村外からそれ目当てで来る人が出てきた。公衆浴場はリリの石鹸やドワーフの酒のように現物を見てから評判になって求める人が来るのは分かるのだが、いわゆる口コミだけでこうして観光地のように来る人が現れるとは思わなかった。
公衆浴場とズザたちの管理する宿屋も相乗効果が起きていて外貨獲得を増えているとジョルジュから聞いた。村に訪れる人が増えるなら宿屋も今のような簡易的なものではなく個室でベッドがあるようなものをいずれは建てたい。
村外から人が来ることが増えたということで警備も強化した。昼間はブライが警備隊長として村の入口でゴブリンたちと警備してくれている。そこらの悪党では倒せないだろうから突破される心配していない。実際に町の発展を知って利益を奪おうとする盗賊団みたいな奴らもやって来たのだが、十人相手でもブライは一人で撃退していた。それでも万が一のためにゴブリンたちが以前作ってくれた骨笛を魔獣の出現など何か異常事態が起きた時に合図として使うことを決めていた。
七月のそんなある日、緊急合図の時に使うと決めた笛の音が村に鳴り響いた。
何か万が一と思っていた異常事態が起こった合図である。
当分、鳴ることはないと思っていたのに事件が起きるのが早過ぎる。
俺は村の入り口へ駆けつける。サラもすぐに来てくれた。
村の入口では想像をしていなかった光景が繰り広げられていた。
ブライが自身と同い年くらいの少女を相手に大立ち回りをしていた。
お互い素手での戦闘だがどちらも一歩も引いていない。もしかしたらブライもどう対応していいのか分からずに多少の手加減をしているのかもしれないが互角の戦闘になっている。
「この筋肉バカ、そこをどきなさいよぉ!」
少女が叫びながらブライに向かって蹴りを繰り出す。
「何だと、このクソガキがぁ! お前みたいな怪しい奴を通せるかぁ!」
ブライも叫びながら応戦する。蹴りを防いでから反撃の拳を繰り出すが少女は軽々と回避する。
確かにこちらの世界では十八歳を越えているが、俺がいた元の世界では十五歳くらいか。高校生の喧嘩である。
それにしてはレベルが高い喧嘩に見えるな。
ブライの補助をしているゴブリンの警備隊もどうしていいか判断できず見守るしかできなかったが、グリーンを到着して事情を確認してくれた。
「どうやらあの女の子がお姉ちゃんを返せぇ! って叫びながら村に入ろうとしたみたいです」
それは怪しい。
「そこでブライも事情を聞こうとしたのですが、問答無用! って言うことを聞かずにブライに飛び掛かってきたようで、それでずっとあの状態みたいです」
グリーンから状況報告を受けてもさっぱり状況は分からなかった。
とりあえずあの少女はこの村にお姉ちゃんとやらがいると思っていて取り返しに来た。
ブライと互角の立ち回りができるくらい強い。
この二つは理解した。
サラが屋敷に報告に向かって、すぐにノエルを連れてきてくれた。ポワンもメイドとして付いてきた。
これで状況が進展してれればいいのだが。
サラが往復するのもそこそこ時間がかかっているはずなのにブライと少女はよくこの間、立ち回っていられるなと変なところに感心していた。
それとこの二人はそもそも目的を忘れて戦っている。
「この筋肉バカ、早く倒れやがれ!」
少女は村に入ることよりもブライを倒すことが目的になっていそうだ。
「何だとぉ!? バカはお前だぁ!」
どうもブライも売られた喧嘩をただ買っていて村への侵入を防ぐという本来の使命を忘れてそうである。
「プワン?! こんなところで何やってるの?」
ノエルに着いてきたポワンが少女に向かって叫んだ。
その声で少女がこちらを向いた。
「お姉ちゃん?!」
戦闘中に相手から目を逸らしてはダメだ。
ブライが本来の使命を忘れて戦うことに熱くなっていたのもあって、ブライの攻撃はプワンと呼ばれた少女にクリーンヒットしてしまった。少女は気絶してしまった。
「とりあえず馬車で屋敷は運んで手当をしましょう」
ノエルは状況を冷静に判断してそう言った。
馬車を手配し、プワンを乗せて屋敷へ戻る。頭を打ってるから安静にさせないといけない。
氷はないが水はあるので布に浸して冷やすことくらいはできるだろう。
このプワンと呼ばれた少女は本当にポワンの妹なのだろうか。
顔や声は確かに似てるような気もするが、体格が全然違う。
ポワンはズザと同じくらいの身長で女性にしてはかなり背が高い。一方のプワンはサラと同じがそれより低いくらいしかなかった。
一般的な感覚だと体格は姉妹なら同じようになりそうだが、そうでもないのだろう。この二人は言われないと姉妹には見えなかった。
いずれにしてもプワンが目を覚ましたら事情を詳しく聞く必要がある。




