初陣
元々居た場所とそんなに距離が離れていなかったのか。
それともスキルが凄いのか。
あっという間に戦闘の場に辿り着いた。
ただ、これがスキルのおかげなら流石にバフがかかり過ぎている気がする。
馬車が三台、それを護るように騎士が三人。それを囲むのは異形の狼のような獣が五匹。
自分が入ったとしてもまだ人間側の方が数の分が悪い。
学生時代に剣道をやっていただけで本当の戦いで通用するのだろうか。女神はそのことも知っていて日本刀を渡してくれたのかもしれない。
それに今なら不意打ちをすれば一匹くらいは仕留められる可能性もある。
それなら一気に踏み込み斬りかかる。
声は出さない。漫画とかでこういう時に声を出して攻撃を仕掛けるシーンがあるが昔から不思議だった。黙って襲えばいいのに。
不意打ちは見事に決まった。胴打ちの感覚で横に一閃。一匹の後ろ脚を両方切り落とす。あっさり刃が入るものだ。これはスキルのおかげだろう。
後ろ脚を切り落とされた獣が悲鳴とも咆哮とも思える声をあげる。耳に響く。
獣たちは背後から襲われるのは考えていなかったらしい。一斉に獣たちは振り返るが、そこに隙が生まれる。
騎士たちはそれを見逃さずに攻勢に反転し見事に残り四匹を仕留めてしまった。
正確には隊長のような女性が三匹を仕留めて、最後の一匹は残りの二人で何とか仕留めた形だ。力の差があり過ぎるように見えた。
「どなたか知らないが助かった、礼を言う」
女性隊長から言われた。
礼を言われたことよりも言葉が通じたことに安心する。
「声が聞こえて駆けつけたのです。少しでも力になれたならよかったです」
「ああ、助かった。私一人なら何てことなかったのだが四人も守りながらだと動けなくて困っていたところだった。そなたが隙を作ってくれたおかけで突破できたよ」
こちらの言葉も通じた。会話できることが確認できた。それにしても四人も守っていたのはどういうことだろうか。
そんなことを考えると馬車から二人が顔を覗かせた。
「外で戦っていた二人は騎士団とはいえまだ見習いのようなもの。馬車の中の二人は一人は馬車の御者、もう一人は本来の護衛対象の方だ」
「あぁ、そういうことなんですね」
そんな間抜けな返ししかできない。
「そなたは帯刀をしているということは職業の登録はしているのか? 護衛対象もいる手前、職業を証明できるアクセサリーを見せてもらえないだろうか。それと名前も教えて欲しい」
女性隊長は優しい口調が鋭い目で問い掛けてきた。
職業を示すアクセサリーって何だ? あとは名前か。本名を名乗るかどうするか。
そういえば簡易な首飾りを身につけていたことを思い出す。これでいいのだろうか。
「名前はタロウ。アクセサリーはこれです」
名前は偽名だ。どうせ異世界で俺の本当の名前を気にする人もいないだろう。あとはこのアクセサリーが職業の証明にならなかった時に逃げることも選択肢に置くと本当の名前を伝えるか迷ってしまった。
女性隊長はアクセサリーを見ると驚きの表情を見せる。
「タロウ殿、失礼しました。まさか上級職の方だとは知らず。私はこの部隊の隊長を務めるクリスと申します。職業は騎士。こちらの男はブライ、女はサラ。騎士団員だがまだまだ見習いと言った感じで今の戦闘でも二人で一匹を仕留めるのがやっとの実力です」
呼ばれは二人は背筋を伸ばして敬礼する。騎士団はこの世界では軍隊みたいなものだろう。訓練されているのが伝わってくる。
ブライもサラもまだ若い。18歳にもなっていないじゃないか。騎士というより少年兵という感じだ。
「馬車に退避してもらっていた男は馬車の御者で、女性はノエル様という」
馬車から二人が軽く頭を下げる。
ノエルと呼ばれた少女は女性で様付けでクラスから呼ばれた。位が高い。
しかし、位が高いと感じる割には貧相な護衛ではないか。
クリスが強くても先ほどの様に全員を護りながら戦闘になったら脆過ぎる。
今回の危機を助けたことを考えるとノエルと呼ばれた子が女神様から助ける様に言われた少女で合っているのか。せめて転生前に名前や特徴は教えて欲しかった。ただ、推しと瓜二つの姿を思い出すと怒るに怒らない。あれはそこまで計算した姿なんだろう。
「クリスさん、ご紹介いただきありがとうございます。実は私は記憶がほとんどなくこれからどうしていいか途方に暮れていたので、もし可能なら目的地まで同行させてもらえないでしょうか?」
確認する方法はないのだが、こんな状況で出会ったノエルが目的の少女のように感じる。直感だ。
同行をダメ元で頼んでみるしかない。
するとクリスは少し思案する素振りを見せたが了承してくれた。
「私もタロウ殿に確認したいことがある。危ないところを助けてくれたのと、上級職の証も持っていたので信用しよう」
こうして俺は目的地までの馬車の旅のパーティーメンバーになることができた。




