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24.はじめての買い物

 エルフの森から戻りジョルジュに報告した。

 帰り道に狼型の魔獣が出現したが、今の俺とノエルなら二人でも余裕で対処ができ、村の食料としての手土産ができたと喜ぶくらいに成長していた。


 この村の大まかな仕事の管理はジョルジュがしてくれてちる。人間は鉱山と農業で手一杯なので、村へ新しく流入してきたオークやゴブリンにお願いすることになる。

 ゲンサンとグリーンを呼び、ジョルジュが仕事の分担を割り振っていく。


 仕事の割振りが終わりゲンサンとグリーンがそれぞれの集落へ帰ってから、疑問に思っていたことをジョルジュに聞いた。


「そういえばこの村の働いた賃金はどうしているのですか? 商人もいないので使う場所も無さそうですし」


「この村では貨幣での支払いはしていません」


「それって無給で……」

 コホン、ジョルジュが咳払いをして割り込む。


「そうではありません。タロウ殿の言うようにこの村では貨幣があっても使う場所がありません。それに貨幣の流通もそんなに多いわけではありませんので。この村では働いた分を台帳につけ、南の村などへ行く必要がある時に渡したり、王都から来る物資を購入する場合はここから引いて使ったことになります」

 この村の労働者は王都に直接雇われている形になっていて、村の物々交換で足りない物はそうして購入しているとのことだった。王都から定期的に馬車で使いの者が来るのはノエルのためや鉱物の回収のためだけに来ているわけではないのだ。

 必要な物質を一度この屋敷に下ろし、それをジョルジュが求める者に配り、台帳から代金を引く。そうすれば貨幣の流通が無くても物のやり取りはできるわけだ。

 これは人間だけでなくオークやゴブリン、さらには俺にも適用されているとのことだ。使うあてはないが、何か必要なものがあればジョルジュに頼んでみよう。


「この仕組みはエミル様が考えたものでございます」

 鉱物を探す魔法を使う先代王女。名前は初めて聞いた。


「エミル様は、鉱脈を探すことはできてもそれ以上のことは私はできないといつも嘆いておりました。それでも小さな村のことを必死に考えて仕組みを作ってくれました」

 初めは労働者の待遇も酷いものだったらしい。エミルが来ることが決まり、王族が住むのが荒屋では流石にみっともないということでこの屋敷は建てられたが他は簡素な家が建てられただけで、賃金の仕組みなども大した考えられなかったらしい。必要な物資もほとんどない中、鉱物の回収便に来る時に自分やジョルジュのためだけだけでなく村のための物質を持ってくるように命じたのもエミルとのことだった。


「賃金もエミル様が、エミル様自身が不正をしないようにと、私やドットだけでなく今では進化してしまいましたがゲンサンやグリーンも含めて全員で定期的に確認していました」

 ノエルも村のことをかなり考えているが、エミルも相当考えていたことが窺える。


「昨年この村での役目が終わった後、一度は王都へ戻ったものの行方不明になってしまいとても心配しています。この村に戻ってきても仕方がない、と考えてもおかしくはないのため、王都でなくてもどこかで平穏に暮らしていてくれたらいいのですが……」

 エミルは約二十五年のこの村で役目を終え王都は報告へ行った後に行方不明になってしまった。王族といっても自由になった身であり、役目を終えた王女がいなくなる前例もあったことから国としても特段捜索はしていない。

 以前、役目を終えた王女は自由になるとは聞いたが行方をくらませる王女がいるとは考えなかった。確かにノエルが来るまでのこの村に戻ってきても貧しいままだったし暮らしたくないと考えるのも筋が通っていそうだが、エルミは村のことを大切に考えていたという話を聞くとどこか合点がいかない話である。


「エミル様はどこで暮らしていても無事ならいいのですが、私としてはやはり不自然だと思えてしまいクリスには以前から王都にいる時に何か情報があれば伝えるように命じてあります」

 タロウ殿にはあまり関係ない話でしたな、ジョルジュはそう言ってこの話は打ち切った。


「ということで、元の話に戻しますと、タロウ殿も何か必要なものがあればおっしゃってください。次の便で使者に伝えますので来るのは王都からの到着は次の次の便になってしまいが、もし急ぎで必要なものがあれば南の村へ買い物に行っても構いませんよ」

 ジョルジュに言われて、やはり諦めきれないものがあるので聞いてみた。


「風呂釜って手に入りませんか?」

「風呂ですか……温水で入浴するのはこの国では王族や貴族だけで釜となるとやはり大金が必要になります」


「やはりそうですよね、無理な物を聞いてすみませんでした。俺の魔法があれば火を付けれるしお湯に浸かれると思ったのですけど」


「それなら、炎を溜める魔法石とかどうですか? 少し失礼します」

 そう言ってジョルジュは台所の方へ行ってから何か持って帰ってきた。


「これは火炎石という火の力を溜める石です。ここら辺では普通の石を温めてそれを水に入れてお湯にするのが普通ですが、普通の石では温めているうちに割れたり、熱くなり過ぎた石を持つことが難しかったりするのですが火炎石は割れることもなく魔力を内包するので持つのもさほど難しくありません。この屋敷は冬になるとこれを熱くして水に入れて作っています」

 なるほど、まだこの世界に来て二月が過ぎたくらいだ。まだまだ知らないことの方が多い。暑い季節に転生したため、今までお湯を使うこともなかったし、木の桶しかないような村でどうやってお湯を作るのか考えたこともなかった。


「例えばですが、木材も確保できますし、それで湯船を作ってタロウ殿の魔法で熱した火炎石を入れたらお湯がてまきますよ。ただ、石とは言え魔道具扱いなので値が張ります。タロウ殿の給金の貯まってない分で買えないこともありませんが」


「是非とも風呂は欲しいのでお願いします」

 しかし、次の次の便となると夏の一番暑い時期は逃してしまいそうだが、冬にお湯が使える量が増えるなら村のためにもなるだろう。


 こうしてこの世界での俺の初めての買い物は火炎石となった。

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