23.木材
リリの石鹸は少しずつ村に浸透していった。
それと同時に生活排水の問題を考えるようになった。今までは使った水は農業に使ったり、そもそも生活水が余ることはなかったのだが、石鹸を使うと排水が出る。
リリとジョルジュに確認したところ、これくらいの量なら川の微生物が分解してくれるだろうということだった。
それでも各々が勝手に処理するのはよくないだろうと思いノエルに頼んで簡単な排水用の溜池を掘ってもらい、生活排水はここに捨てることに規則を決めてここから川へ放出することになった。
元の世界にいた時のように毎日のように大量のゴミが出ることもないのだが、食事の後の生ゴミはどうしても出てくる。これらは糞尿と同じように堆肥として活用している。
他に壊れた道具などは水路を引いたことで水を確保する時間を修理、修繕に使うことができ再活用できるようになった。
今は限られた資源の中で循環型の社会を維持していくのがこの村の目標だ。道具も今まではボロボロになったものを何とか使っていたが、新品でなくても使いやすくなったことで、これまた村人たちの活力が上がっていた。
定期的に王都から鉱物の回収にくるもの達は馬車でやってくる。ジョルジュが村に必要だと思う物資を依頼し、それを村に届けつつ鉱物を積んで王都へ帰っていく。
鉱物の回収係のもの達が村の変貌に驚いていた。
何も知らないならエルフの森を抜けてオークやゴブリンの集落に向かっていたら堀と土の壁ができているのだ。それは驚くだろう。
ただ、やはり堀を越える橋が土で固めてあるだけなのは不安だ、という意見があった。
やはり当初出た案の通り木で橋を造りたい。
この村の木はほとんど育っておらず橋を造るのには向いていなかった。木材がもう少し豊かになれば家屋の修繕とかにも使えるのだが、まだまだ課題が多い。
ジョルジュに相談してみたところ、
「エルフの森の木を使わせてもらえるのならいいのですが。今までは伐採する手段も人もいなかったので諦めていたのですがノエル様がいれば可能かもしれません。ただ、無条件には使わせてはもらえないと思うので、一度また祭壇へ行かれてはどうでしょうか?」
とのことだった。
ちょうどリリの成長の報告も考えていたので、翌日、朝一で俺とノエルとリリの三人でエルフの森の祭壇へ向かった。今回はオークから魔獣の素材の余っている分を預かり積んでいくために馬車を利用することにした。
祭壇へ到着して、お供えをする。ここは南の村から様々な人が来るのは本当のようでお供えも多い。
「よく来てくれた。今日は何用じゃ」
エルフは相変わらず姿は見えないが声だけが聞こえる。
「リリが職業の証を得た報告と、お願いがあって参りました」
ノエルが答える。
「工事での魔法玉を使っての活躍、見ておったぞ。頑張ったな」
エルフは近隣のことは把握できる力があるらしい。リリはエルフにそう言われて嬉しそうに返事をした。
「ありがとう」
「それで頼みというのはなんじゃ?」
「私のたちの村も少しずつ発展してきました。それでも今、木材が全く足りません。エルフ様の森から分けていただけないでしょうか?」
「リリのこともあるし、木材を分けてやるのは構わない。が、ただでやるわけにもいかぬ。それに何でもかんでも伐採されても困るからの。条件がある」
「何でしょうか?」
「大木を採る場合はわしの許可を必ず得ること。それと南の村のように北側も森の手入れをすること。この二つを守るなら許可しよう」
エルフの森はエルフの魔力で管理しているのだが、広大で行き届かない部分もある。そこを人間に管理してもらっている。南の街は元々ノエルの先々代がエルフ信仰の管理のためにあった街を発展させたとのことで森の南側の管理だけでなく祭壇の手入れなども行っていた。北側もノエルの先代の頃から村が出来始めてエルフとしても南側のように協力して共存を図っていきたかったが、まだそんな力がないことだろうということで今までは打診していなかったそうだ。
「分かりました。村に戻り次第、その旨を伝えて北側の森の手入れをさせていただきます」
「うむ、よろしく頼むぞ。ところで魔獣の血が早めに必要なのでリリに届けさせてくれぬかの。そなたらは申し訳ないが少し待っていておくれ」
エルフがそう言うと、リリは魔獣の血を持って森の奥へ入っていった。
「リリ、嬉しそうでしたね」
ノエルが少し羨ましそうにそう言った。
ほどなくして傷薬を持ったリリが帰ってきた。
エルフが手土産に持たせてくれた。リリの目は少し腫れていた。泣いていたようだ。
「森の管理、頼んだぞ」
「任せてください」
ノエルが力強く答えた。
帰りの馬車でリリが言う。
「久し振りに森へ連れてきてくれてありがとうございました。エルフは私にとってお母さんと同じなので久し振りに顔が見れて嬉しかった……」
最後は思い出してリリはまた泣きそうになった。
エルフも魔獣の血を森の奥へ運ばせたのは久し振りにリリに会いたかったからなのだろう。
「リリ、それは良かったです。これを糧にまた明日から頑張っていきましょう」
「はい」
ノエルがそう言うとリリはいつになく元気に返事をした。




