22.におい
水路が開通してから一ヶ月が経過した。
四月になるというのでこちらの世界では夏だ。だんだん暑くなってくる。
熊型の魔獣が出て以降、たまに狼型は単発で出現していたがブライとサラが退治してくれていた。それ以外の大きな事件もなく平穏に暮らしていた。
水場が近くなったことによる人々の負担は減って、他のことができるようになった。
人間とオーク、ゴブリンも一つの村にまとまったことで交流も増えていった。
今まで使えなくなって放置されていた道具やボロボロになった服なども、それぞれの種族が知恵を出し合って使える所を組み合わせて修理をして使えるようになっていく。
農地も俺が前の世界から持ってきた簡単な知識やリリの持っている森で学んだ自然の知識、それらをノエルの魔法の手を使い貧弱な土地を少しずつ豊かにしていった。
新しい作物がすぐに結果を出すわけではないが、今までの農地にも良い影響が出ているらしく作物の量も質も昨年より上がったとジョルジュから聞いた。
子供たちに教育を施す時間も少しできてきた。学校を建設する資材もないので青空教室のような形だが、文字や数字をジョルジュが教えたり、ブライとサラが体力作りの稽古をしたり、リリは食用の草の知識を教えたりしている。オークやゴブリンも一緒に学び、逆に彼らはモノづくりに関する知識を与えてくれる。
それと夜も安全に眠れるようになったと皆が言う。堀と土塁ができたことで野生動物の侵入が無くなり警戒する必要が無くなったのが大きいらしい。一応、村の入口にあたる渡しの部分には簡易的な木の柵を作り、夜は篝火を焚いてゴブリン達が見張りをしてくれている。各種族順番で見張りは行う予定だったがゴブリンの中に夜の仕事がいいと言う者たちがいるらしく、その者たちにお願いすることになった。
ノエルが来てから劇的に豊かになったかというとそこまででは無いとは思う。
だが、確実に暮らしは良くなっているようだ。人々の顔付きがよくなり表情も明るくなったように感じることが多い。
それとは別に俺は暑くなってきたからこそ余計に改善していきたいと感じることが増えた。村のにおいに耐えられる日々自信が無くなってきているのだ。
ノエルも口や表情にはさすがに出さないが負担になっているようだ。王都ではどういう対策をしていたか聞いてみた。
「王都は香草などで良い匂いを焚いたりはします。あとは魔法や魔道具で香りの操作をしたりします。それと……」
ノエルは頬を赤くする。何か言いたいが恥ずかしいようだ。
「排泄物などはこの村と違って浄化魔法や浄化の魔道具、それとスライムを使って処理をしておりますので、臭いもそのあまり感じないというか……」
年頃の女の子に嫌なことを言わせてしまった。
浄化魔法や魔道具は想像できたが、スライムも浄化のために使用するらしい。スライムは魔獣とは違いノエルの手のような召喚獣になので使役する者が必要になるとのことだ。元の世界のゲームや漫画の中でスライムが召喚獣の召喚士では弱そうなキャラ扱いになりそうだが、この世界では生活に欠かせないそうだ。
「申し訳ありません、余計なことを聞いてしまったみたいで」
「いえ、領主としては考えていかないといけない課題ですし大丈夫です」
トイレもそうなのだが、風呂や洗濯も考えたい。ノエルが言うには王都は王族や貴族は入浴したり、洗剤で洗濯する文化はあるらしい。そして上下水道が整備されているとのことだった。確かに元いた世界の古代帝国でも上下水道は整備されていたと本で読んだことがある。細かい知識もないので今この村で再現するのは難しそうだ。
洗剤も風呂も高価なもので北の村ではとても手に入らない。
この村では身体を洗うのも服を洗うのも木灰を使って汚れを落とす。それだとやはり汚れは落とし切れない。
排泄物は農作物への堆肥になるから、これはこれで無下にはできない。腐熟させ薄めて落ち葉や雑草と混ぜて堆肥にしていく。この村では重要な資源なのだ。
風呂は耐熱性のある何かがあれば風呂釜にして魔法で火を付けて簡易的な風呂にできそうだが、そんなものは無かった。温泉みたい土を掘って風呂にするのも現実的ではない。
そんなような話をしていたらノエルが何かを思い出した。
「そういえばリリはいつも身綺麗にしていて、何だか石鹸の香りがするような気がします」
おじさんの俺はそんなことは気にしていなかったのだが、同世代のノエルには分かることがあるのだろう。
早速、リリのところへ行ってみることにした。
確かにノエルの言うようにリリからは石鹸の匂いのようなものがした。
「リリ、つかぬことをお聞きするのですが石鹸を持っているのですか?」
「あ、はい……自作のものなのでリリ様たちが使う王都にあるようなものとは出来が全然違いますが……自分で使うために作りました……」
「実はこの村には石鹸や洗剤が無くリリの自作のものをもっと作って村の皆さんで使っていきましょう」
「でも、あまり出来に自身がなくて……」
「はじめはそれでもいいのです、使っていくうちに皆さんから話を聞いて改良していきましょう」
リリは篝火の灰をゴブリンから貰ったり、魔獣の解体した時の油をオークの所に取りに行ったり、湖で岩塩を集めて小物作りが好きなゴブリンたちにも協力してもらって石鹸作りをしていたらしい。
それとエルフの森の付近で食用の草や薬草を探す際に香草も探してくれていた。
「上手く育成できたら、村のにおいも少しは緩和されると思って……」
エルフの森とは違うにおいを少しでもリリも改善したかったらしい。
ノエルはリリから石鹸を貰い上機嫌だった。薬師としてだけでなく活躍してくれるリリが来てくれて本当に良かった。
俺たちも協力して明日からは量産して村人たちにも使って貰おう。これで村のみんなの生活も良くなると嬉しい。




